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75:新聞部からの依頼












 旅行後の休暇も明けた日――私たちは、いつも通り学校へ行っていた。

あの後色々と相談して、怪異調査部の面々は全員が全ての情報を持っている状態となった。

本当なら、最初からこうする事が出来ていればよかったんでしょうけど、流石にあれだけの事を上手く説明する自信は私にはなかった。

いづなさんとミナさんがいてくれて助かった、と言った所だろう。正直、私だけではヒメに対するフォローはできなかった。

まあ、そんな事があった訳だけど――



「案外、普通にしていられるものね」

「ん、どうかしたの?」

「いんや、何でもないわよ」



 放課後、部室へと向かう途中に私はそんな事を呟いていた。

先日の怪異や昨日の荒唐無稽な話、そして今朝には私たちを心配する梓や深琴の言葉。

まあ色々あったものだけれども、私は私が結構余裕を保っていられた事に驚きを覚えていた。


 怪異に関しては、若干慣れたという事だろう。

毎度毎度『これ以上はない』と思っていた私ではあるが、流石に学校の七不思議より辛いものはそうそう無いだろう。

今回のは一人ぼっちになったのが辛かったけど、ヒサルキが来てくれてからはいつも以上に余裕があったし。

ヒメが襲われているのを見たときは思わず激昂しかけたけれど、それとヒサルキのからかい以外では冷静でいられたと思う。

今思い出しても微妙に腹が立つが。



「さてっと……今日は嶋谷とトモは掃除だっけ?」

「うん、ちょっと遅れるって言ってた。先輩はたぶんもういると思うよ」

「まあ、それはそうでしょうね」



 一応守衛さんの所に顔を出したら、既に鍵は貸し出されていた。

つまり、既に先輩は部室に向かっていると言う事だろう。

あの人の部活に対する情熱は誰よりも強いのだし、まあいつも通りであるとも言える。



「先輩も、いつも通りになってるといいんだけどね……」

「……そうね」



 そんな私の思考と重ねるように、ヒメがそんな言葉を口にする。

まあ確かに、昨日の話を聞いた先輩の様子は、いつも通りとは行かないようであった。

常識を遥かに超えた事実を伝えられ、更に自分が追っているものがとてつもなく強大な存在である事を教えられた。

それと戦うにはヒメの力が必要で、けれどヒメの力に頼りすぎる訳にも行かない。

帰って行った時の様子からも分かっていたけど、かなり葛藤しているようではあった。

まあ、でも――



「心配は要らないと思うけどね。少なくとも先輩は、あんたを犠牲にするような結論だけは出さないわよ」

「うん、それは分かってるよ。だって先輩、市ヶ谷さんに憧れてるんだから」

「ええ、その通り。あの人なら、そんな方法は選ばないもの」



 先輩はあの正義の味方に憧れているのだ。

それならば、先輩があの人の道に反するような行動を取るとは思えない。

だからこそ危ういとは思うのだけど、今のところ目立った無茶はしていないのだし、市ヶ谷さんよりも冷静に行動できる頭脳を持っているという事だろう。

憧れていると言っても、個人の性質はやっぱり変わってくるものという事か。


 どっちかと言えば、気になるのは男二人の方だ。

昨日話を聞いた後、トモは少しだけ様子がおかしかった。

ヒメに関わる事なんだしそれも当然と言えば当然なのだけれども、今回に限って言えば事が事だ。

ヒメの将来にも関わってくる事なだけに、あいつは色々と気にしている事だろう。

トモは、人の目に付かない場所で努力をするタイプだ。頭はそれほど良くないくせに巧妙に隠すから、あいつが何かやっていたとしても気付く事は難しい。

でも、あいつもヒメにとっての幸せは心得ている筈だから、無茶な事はしないだろう。


 嶋谷のほうは……どうだろう。あいつは深く考える事が多いから、少し想像するだけじゃ行動を読む事は出来ない。

それに、嶋谷はまだ隠している事がある。

嶋谷と先輩は、昨日の話の後、その事について少しだけ話してくれた。

自分たちには自分たちの目的があって怪異をおっている事、そしてその理由を話すのはもう少しだけ待って欲しいと言う事。

たぶん、絶対に隠さないといけない事って訳じゃないだろう。あれはたぶん意地のようなものだ。

どうしても、自分たちの手で決着を着けたい――そう思っているように感じられた。

だからこそ、私たちはそれを応援する事にしたのだ。ただし、無理だと思ったらすぐに頼れと伝えてから。



「今日は何するのかな?」

「さあねぇ。依頼が無い限りはただの暇潰しじゃないの?」



 頭の中で考えている事は外に出さないようにしながら、私は肩を竦めつつそう答える。

昨日の今日で、嶋谷や先輩が訳を話してくれるとは思っていない。

それこそ、しばらく時間がかかってしまうだろう。

それに関しては半ば諦めつつも、私は辿り着いた部室の扉に手を掛けた。

と――



「ん……?」



 ふと、中から話し声が聞こえる事に気がついた。

この時間では嶋谷たちはまだ来ていないはずだし、それに聞こえてくる声は女の人の声が二人分だ。

片方は先輩であるとしても、もう片方が誰なのか見当も付かない。

疑問に思いつつも扉を開けると――そこに、二人分の人影があった。



「お、やっほー二人とも」

「あら、この二人が例の……こんにちは」

「は、はい。こんにちは」



 思わずぼんやりとしたまま返答しつつ、相手の事をじっと観察してしまう。

まず印象に残るのはその小柄さだ。テリア先輩がちょっと身長高めであるとしても、もう一人の人物は随分と小さい。

恐らく、私やヒメよりも身長は下だろう。思わずフリズさんを思い出してしまったのは内緒だ。

小柄な体格ながら、ふわふわと柔らかく広がる髪はボリュームがあり、更にちょこんと黒い帽子を被っている為か、制服を含めて黒い塊が座っているように感じられる。

が、それらをまとめて『似合っている』と言う判断を下す事ができるだろう。

だからこそ、室内で帽子を被っていても咎める気になれないのだ。



「あ、えーっと……先輩、彼女は?」

「ああ、彼女は新聞部の部長だよ」

『……え?』



 ――思わず、私とヒメの呟きが被っていた。

そして私たちは二人して、視線を下げてその女の子のスカートを見ようとする。が、生憎とテーブルに隠れてみる事は出来なかった。



「あら、女の子がスカートの中を覗こうとするなんてはしたないですよ」

「してません」

「せめて盗撮にしないと」

「やりません。って言うか新聞部が言わないでください」



 別に私やヒメはスカートの中なんか覗こうとしていない。

単に、スカートのデザインで相手が中学生か高校生かを確かめようとしただけだ。

新聞部はそれなりに部員を抱える部活であり、中高あわせれば運動部ほどとは言わないまでも、文科系の部活の中ではそれなりに人数が多い方となる。

それゆえ、中学生が部長をやっているとは到底思えなかったのだが、相手の小柄さ加減を見るに、どうにも年上には思えない。

そんな疑問を、私もヒメも抱いていたのだ。

しかし相手はどこ吹く風、と言うかそんな状況を楽しんでいるかのように扇子を取り出し、口元を隠しながら半眼を浮かべる。



「いやはや、学校でもトップクラスの美少女を囲っているとは、テリアちゃんも侮れませんね」

「あっはっはー、この場合はむしろ賢司君が囲ってるんじゃないかな? 美少女が三人だよ」

「ふむ、それは確かに。この状況が知れ渡ったら『ハーレム野郎氏ね、もげろ!』と言われる事でしょう」



 何と言うか……また、アクの強い奴が出てきたわね。

邦崎姉妹だけでも結構濃かったと言うのに、部長はそれ以上と来たか。

もう何が出てきても驚かないようにしよう。

って言うか、この学校の部長ってのは変な人しかいないのかしら?

ああいや、野球部の部長は普通の人だったけれども。



「えっと……お兄ちゃんもこの部活に所属してるんですけど」

「ヒメ、突っ込む所はそこじゃない」

「え、あれ?」



 いや、事実ではあるんだけど。

そしてついでに言っておけば、誠也もこの部活に所属している。

部員数稼ぎの為にただ所属しているだけの幽霊部員ではあるが。

なので嶋谷一人だけがそういう風に言われる理由は……いや、微妙な所か。

だって、トモはトモだから。



「まあまあ、二人とも座りなよ。そこで立ってても仕方ないんだし」

「はぁ……まあ、分かりました」



 とりあえず入り口で呆然としていても仕方ないのは確かだ。

私は嘆息しつつ、ヒメと共にいつも通りの場所に座る。

新聞部の部長さんが普段使われていない席に座っているのは、先輩がそこを勧めたからなのか、はたまた偶然そこだったのか。

何だか、この人の怪しい雰囲気的には何かしらの方法で調べていたと言われても納得出来てしまいそうで怖い。



「では、改めまして……私は神楽坂かぐらざかしのぶと申します。新聞部の部長をやっておりますので、今後ともよろしく」

「は、はい。えっと、神代杏奈です」

「はじめまして、篠澤姫乃です」

「はい、存じておりますよ。お二人は色々と有名なので」



 まあ、色々と有名になってしまった自覚はあるけれども。

やっぱり新聞部というだけあって、かなりの情報通であるようだ。

しかし、テリア先輩以上に不気味な雰囲気を醸し出しているので、ちょっと気後れしてしまう。

うちの部長と同じく、何かしら危ない事をやらかしていないだろうか。

ついでに言うと、未だに年齢が分からない。しっかりと巧妙に、私たちの位置からはスカートが見れないような位置取りをしている。

最初からその場所にいた訳だから、その辺も読んで座っていたのだろうか。

本当に、侮れない。



「さて、自己紹介も済みましたので、後は男衆を待つとしましょうか」

「はぁ……」



 何故か取り仕切っている新聞部の部長の言葉に従い、私はこくりと頷く。

そして隣に座るヒメと目配せをして、とりあえず危険は無いだろうと判断した。

まあ、危険って言ったって別に高が知れてるでしょうけども。



「あ、そういえば……」

「んー、どうかしたの?」

「新聞部の方で私たちと直接関わるのって、邦崎姉妹だけじゃなかったんですか?」

「ああ、まあそれはそうなんだけどね」



 私の発した疑問の声に、テリア先輩は苦笑を浮かべながらそう答える。

どうやら、今回はちゃんと真面目に答えてくれるようだった。



「どっから仕入れてくるのか知らないけど、時々ワタシも知らないような怪異の話を持ってきてくれるんだよね。まぁ、そういうのは大抵危険度の低い普通の都市伝説程度のものだけど」

「というより、危険な怪異に関しては私の情報網よりテリアちゃんの情報網のほうに引っかかりやすいので」

「はぁ……って事は、今回もそういう調査依頼って事ですか? でも、それならアリスでもいいんじゃ?」

「伝言だと伝えづらい事もありますからねぇ。全く情報が無いものならそうしますけど、ある程度分かってるなら直接伝えた方が分かり易いじゃないですか」



 まあ、一理ある。

怪異の話ってのは結構複雑に絡み合っている事は多いし、ある程度分かってるなら直接口で伝えたくもなるだろう。

が、果たしてこういう性格の人の話を鵜呑みにしてもいいものなのか。

何だかいつも以上に用心深くなりつつも、とりあえず頷いておいた所で――入り口の扉が、がらりと開いた。



「すみません、ちょっと遅れ――げっ」

「あらあら、出会い頭にご挨拶ですね嶋谷君」

「っと、おい賢司、突然立ち止まるなよ。ってか今の誰の声!?」



 扉を開けた嶋谷は、神楽坂さんの姿を見た途端に嫌そうな表情を浮かべて硬直し、入り口を塞がれたトモは嶋谷の後ろでぴょんぴょん飛び跳ねている。

嶋谷はその状況に、どこか諦めの混じった表情で嘆息して、そのまま部屋の中へと入りいつも通りの席に着席した。

そしてその後に続いたトモも、神楽坂さんの姿に目を丸くしつつも席に着く。



「はぁ……で、今日は何の用で来やがりましたか?」

「あら辛辣なお言葉。こんないたいけな女の子を捕まえて何て酷い言い草でしょう」

「アンタ俺より年上だろうが」

『嘘ぉ!?』

「何か?」



 嶋谷の言葉に私とトモは思わずそんな叫び声を上げ――そんな私たちに向け、神楽坂さんはにっこりと微笑んだ。

それはもういい笑顔で。ただし、瞳は薄く開かれてこちらを睥睨している。

その怪異に勝るとも劣らない迫力に、私は思わず頬を引き攣らせて沈黙していた。

でもまあ、驚くのも無理はないというか、それぐらいは勘弁して欲しいと思う。

だって、下手したら私よりも年下に見えるのだから。

そんなちっこい部長さんは、何やら芝居がかった調子で天を仰ぐ。



「ああ、嶋谷君の心無い一言で私、傷ついてしまいました」

「いや、アンタは間違いなくトモより図太い」

「傷ついてしまいました」

「……」



 とりあえず、そこを譲る気はないらしい。

言っても無駄と判断したのか、嶋谷は嘆息と共に沈黙する。

が、生憎と神楽坂さんはその程度で攻勢を緩めるような人物ではなかったらしい。



「これはもう、嶋谷君のハーレム天国を記事にして傷心を慰めるしかありません」

「おいコラちょっと待て!」

「何でしょう? 既に記事の構成は決まっているのですが」

「速いんだよ! 最初からそのネタで強請るつもりだったんだろうが! 分かったよ、何が望みだ!?」



 ああ、なるほど。嶋谷が嫌いそうだわこの人。すっごくやり辛いだろう。

半ば自棄になった嶋谷の剣幕にも全く怯む事無く、神楽坂さんはにっこりと晴れやかな笑顔で声を上げる。



「あなたのお姉さんの特製ケーキでどうでしょう?」

「……ああ、分かったよ。伝えておく」

「それでこそ嶋谷君です」



 その言葉に、嶋谷はがっくりと肩を落とす。

かなりやりづらそうな人物であった。でもまぁ……そろそろ、本題に移ってもいいだろう。



「さてさて、それじゃあそろそろ今日の活動を始めようか。まずは……今回の用件を、話してもらおうかな」



 そう思っていたのは先輩も同じだったのだろう。

薄く笑みを浮かべ、先輩は神楽坂さんの方へと視線を向ける。

そんな視線を受けた彼女は、同じく穏やかな笑みを浮かべていたのだった。





















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