三刻
今回も読んで頂き、ありがとうございます。
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.....な、なるべくソフトにお願いします
走って、走って、走った俺は
いつの間にか、広い海岸に来ていた
海の声が俺を呼ぶ様に、何度も何度も引いたり寄せたりしているのが遠く聞こえる
気が付くと、知らぬ間に自分の体が海に入っていて、折角楓に貰った服もずぶぬれになっていた
べたべたと顔にまとわりつく髪を手で払って、僕はもっと深くに行こうとする
__堕ちよ、悲しみの無い暗闇へ
__巡れ、深淵の底へ
海が詠う様に轟く
荒ぶった波が、何度も俺を引きずり込もうとした
次第に感覚は麻痺し、心の自由さえ聞かなくなる....
これで楽になれるなら。
汚くとも生ぬるい、あの世界へ戻れるのなら....。
甘い誘惑に堪えきれず、瞼を閉じる
それを阻止する手が、僕の腕を強く掴んで陸地へ引きずった
その手の温かさに我に返れば、あと一歩、というところまで来ていた
もしも引き止められなかったら.....
ぞっとした。
「何をしていたんだ!お前、死ぬ気か!?」
「うわっ!!!」
湿った砂浜に投げ飛ばされて、強く頭を打った
ぐらぐらと揺れる世界に酔いかける
が、なんとか振り切った
立ち上がると、黒い影が視界に入る
さっき投げ飛ばした人物だろう…若く、背の高い男だった
武具を身に纏うその人を、昔、張飛と共に酒屋で飲んでいる(というか、無理矢理飲まされている)のを見た事があった
名前は確か、馬超だった…か?
澄んだ黒い瞳を見つめながら、頭の中の記憶をたぐっていると、
馬超が、口火を切った
「お前…何故、あんなことをしていた?」
「え…何故って…えと..」
言いにくい。
母親を悲しませてしまったから怖くて逃げ出したなんて、そんな恥ずかしい事言える訳も無い
でも、彼の眼差しが、今ま出会った誰よりも強く俺を捕らえるから
口を開かざるを得なかった
「…お母さんを、悲しませてしまったんだ…だから」
「…母親を悲しませたから、死のうとしていたのか!?お前っ、それで罪を償ったつもりか!!!?」
衝撃が来るのを、
俺は自分でも驚くぐらい冷静に見つめていた
ばちんっ と、鈍い音がする
誰かに叩かれたのは久々で、先程まで残っていた吐き気が全て吹き飛んだ。
「お前!!その行為が母を悲しませるだけだというのが、わかっていな.._」
長く続きそうな熱烈なお説教の予感がする。
こんなときは先手を打とうか。
「別に、死ぬつもりがあったなんて言ってないよ。」
「.....は?」
馬超は目を見開いた
それはそれは間抜けな顔で、口まで開いているのを見た僕は、必死に笑いを堪えた
どうしよう、昔家で飼ってた犬の顔にそっくりだ。
「た、ただ、さっぱりしたくて」
「…っ、そ、そう..か。..いきなり怒鳴りつけて、すまん。__殴って、悪かった」
「いや、別に痛くなかったし全然平気です」
半分は面倒だったから避けずに受けた痛みでもあるんだけど
なんて事は絶対に言えないな、と思った
ミシッ
手が軋んだ。
何だ、と視線を向けると、馬超が両手で俺の手を握りしめていた
...軽く骨が折れたような気がしたんだけど?
いや、というか中指があらぬ方向を.....。
「そんな分けにはいかん!」
「,,,あの、どういう事でしょうか?」
とりあえず手を振り払うと、手の安否を確かめる
左の人差し指も少し曲がっているが、これぐらいなら大丈夫そうだ。
他の部分は少し赤くなっているぐらいで、たいした支障はなかった
「代わりと言っては何だが、お前の望みを1つ叶えよう」
馬超は払われた手で頬を掻きながら俺に話を持ちかけて来た
ならば、是非ともこの曲がってしまった指の慰謝料を払って頂きたい。
しかし、この時代に慰謝料なんかがあるかどうかを知る由もないので、
俺は黙って考えることにした
別にそんなに強く何かを望んでいる訳も無かったので、適当に何かないかな..と思案したけれど
やっぱり何も浮かばなかった
「そうですね…。」
呟いた俺の台詞に、馬超がごくりと喉を鳴らす
勢いのあまり言ってしまったから、何を言われるのかわからないと言う目だった
…癪に障る。
「じゃぁ、僕の事は忘れて下さい」
「よしわかっt,,,,は?」
とっさに思いついたのはこれだった
出会った事を忘れてほしい、と言った俺に、彼は本日二度目の間抜けな顔をした(吹き出さなかった俺を褒めてくれ。)
まるで「お前は馬鹿か?」とでも言う様な顔をしているのを見て、些か気分が悪くなったが、
別に慣れたから問題はない
「,,,お前、正気か?普通なら金とか女とか,,」
「僕は正気ですし、お金なんて沢山持っていたら狙われやすくなるだけでしょう?あと、女なんて要りません」
再び口をぽかんと開けたまま俺を見つめ続ける馬超に、とうとう吹き出してしまった
先程まであんなに暗い気持ちだったのに
こんな顔を見せられれば自然と笑みがこぼれるのも当たり前だと思う
とりあえず俺は、今笑える分だけ笑っておくことにした
「な、何がおかしい!?」
「な、何がって…ぶくくくっ そ、その顔ですよその顔!!!」
「失礼な!!!お前、誰に向かってそんな口を!!!!」
当然と言えば当然だけど、馬超は俺にむかって拳を振り落とした
けど、先程受けたようにはならない
一度見て覚えた攻撃の軌道は忘れられないのが俺の武での唯一良い所だからな
まあ、自分で自慢して言う事ではないんだけど。
ぱしっ
軽々とその拳骨を受け止めると、馬超を投げた。もちろん背負い投げで。
砂が舞い、俺の目に入りかける
とっさに目をつぶると、
海の声がまた俺を呼ぶ様に大きな音をたて始める
..けれど、もう入る気にはならなかったし、(主に寒いからだなんて思っていないとも)
日が暮れかけていたから(因にこのこの世界の門は、一定の時刻になったら閉じて開かない。面倒だ。)
「じゃぁ、約束通り願いは叶えてもらいますよ?錦馬超さん」
「お、お前一体何者だ!?俺を倒すとは…そ、それに名前まで!!!!」
「ちゃんと忘れてくれないと、あなたの嘘と言う事になりますからね」
俺は忠告する様に馬超の唇に人差し指をあてて、もと来た道へと帰った
家についたらきっと楓が泣きながら飛びついて来るだろうな…
なんて考えながら歩くと、少しだけ足取りが軽くなった気がした
背後からの痛い程の視線だけが、気がかりだったけど…
昔の中国の事をあんまり知らない奴が書いていますが、
多分門の事はあっている....ハズ、です,,,,,,,,か?←