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pAst  作者: 氷雨
3/8

二刻

くーるだうん。

暗いぜべいべー


今回も読んで下さり、ありがとうございます。


「おう玲!!今日も元気そうだなぁ」

「うん。僕はいつでも元気だよ?」

「そりゃあいいこった!!はっはっは!!!!」


今日の朝一番にであったのは張飛さん

五虎将軍っていうすごい位についてるらしいけど、とてもそんな風には見えない

僕から見た張飛さんは、お酒好きでとても人柄の良いごっっつい人物だ


「今日はどうしたんでぃ?」

「あ、えと,,。」


口ごもる僕を、張飛さんは黙って見つめ続ける

ここは嘘をつくべき所だけど、あえて僕は真実を口にした


「....お母さんが最近僕に内緒事してるんだ。だから、何を隠してるのか確かめようと思って「ダメだ。やめときな」



…この顔の張飛さんは、何か隠してるって顔なんだよね

というか言い方がもろ、ダメヨカクシテルヨサガサナイデッて言ってるし。

そうでなくても今の答え方で、楓が重要な事に関わっているのは予想がついた

とにかく、ここは一旦引き下がろう


「嘘ですよ。お母さんが危ない目にあったら助けに行きますけど、要らない事に首を突っ込む程、暇は無いですしね」

「…お、おう..。そ、そうだよな!!お前は要らない事するの嫌いな奴だもんな!!」


軽くそれ、失礼ですよ。


と言う言葉を飲み込んで、俺は優しく微笑んだ


「はぃ。本当はお母さんへ、日頃の感謝の気持ちを込めて、簪でも買って帰ろうと思って」

「そうかそうか!!お前はいつも親孝行な奴だな!!!!」

「そんな事….ないですよ。」



暇がないのは嘘じゃない。


楓は、町に甘味屋を開いている

この町一の甘味屋と評判で、団子や汁物が絶品と噂になり、今では蜀の将軍たちも時折遊びに来てくれる

常連の武将の1人が、この張飛さん。


この店も大分繁盛しているけれど、店の手伝いの人を増やせないので、力仕事等は僕がしないと営業は無理。

…何故手伝いを増やさないか、と問うと、楓は案外簡単に答えてくれた

そのコタエが単純すぎて逆に納得してしまう


『だって、ここは”私たち”の店でしょう?

私は、家族である貴方(・・)と、限りある時間を共有したいの。他人が入って来たら、玲とあまり話せなくなってしまうもの』



単純明快な言葉。


だけど楓の考えに僕が逆らうなんて、できるわけがない

というより、逆らったって彼女には敵わない。なんてったって、育ててくれた、いわば親なのだから。

僕は楓の為だけに店の仕事をしている。

ただそれだけだ



…ただそれだけなのに。



街の人はみんな言う。


「玲は親孝行じゃのう」

「玲はお母さん想いね」

「玲は_____。」


聞き飽きたと行っていい程、耳にこびりついて離れない 鬱陶しいだけの賞賛

それは、僕に取っては不愉快きわまりない言葉。


それを言うのなら、楓に言ってほしい。

見ず知らずの、ボロ雑巾のような僕を、綺麗に洗って、食べ物を与え、言葉や文字を覚えさせ、幸せを見せてくれた

あの優しい女性を.....。


「どうした?」

「あ、えと…何色がよく似合うかって考えてたんですよ。」

「そうか!!俺ぁてっきり、今日の晩飯が何かと考えてるんだろうと思ったんだがよ!」

「あれ、バレてました?」

「はっはっは!!!!!やっぱり玲は面白ぇな!!!!」


豪快に笑う張飛に手を振り、簪の売っている所に走る

あまり時間がかかりすぎると楓が何かと心配するし、適当に理由を付けて帰ろう。

...張飛さんにも言った事だし、

楓に似合う簪を選ぶのに時間がかかったとでも言おうか



僕は、楓に似合いそうな、蒼の簪を手に取った

爽やかな風のような、海の様に深い心の持ち主には相応しい、美しい簪だった

自然と彼女の微笑みが浮かんで、思わず口元が緩む


それを見た簪売りの親父が、にやついて、「仕様ねぇ!まけてやらぁ!」

と叫んだ


「ありがとね、おじさん」

「ぉうよ!!!!…って今の所はお兄さん、とか言う世辞があるだろうが」

「だって僕、本当の事しか言いませんから」

「この餓鬼ゃ、なめた事言いやがるなぁ」


おじさんに小突かれてすみませんと笑う

こんな普通の会話までもが、大昔の事なんだと思うと、

少し寂しく感じた


「早く帰らなきゃ…じゃ、お兄さん、また今度」

「おぅ..嘘言わないんじゃなかったのかい!?」

「あはははっ その話はまた今度!!」


僕は笑顔で家へと走り出す

もちろん、早くこの簪をさしてほしいから。



*    *    *    *    *    *    *



「ただいま!」


勢い良く扉を開けて、満面の笑みで家に入る

すると、奥の方から楓の声と、他にもう2人の知らない声が聞こえた

 

少し遅れて、楓の大声が響く


「机上に置いてあるおまんじゅう食べて待ってて!すぐ行くから!」

「はいはーぃ」


僕は、あえて何も聞こえなかったフリをした




僕の嘘は一度もバレた事が無い。

ちゃんと証拠も作ってしまうからなんだけど

昔から、人を欺く事に関しては十二分に長けていた



最初に大きな騙しをしたのは隣の厳ついヤクザだったかな

遠い昔の事のように思える。

確かアレは12歳の時だったか....


あの時はビックリした。

流石に警察沙汰にはならなかったけれど。





ちょっと現実逃避しながら暇をつぶすか。













暫くしてから、楓が出て来た

普段、顔が青ざめる事なんて無かったから、表情を見て悪い事なんだと察した

同時に、声の主に怒りが込み上げてくる


それを抑えながら、僕は買って来た簪を楓に差し出した

きっとすぐに笑顔になってくれるだろうと、期待を抱いて




「はい、これ。」

「え?」

「いつもお世話になってるお礼だよ….って言ってもお母さんのお金だけどね」

「…..。」



今まで見た事も無い表情に、不安をかき立てられる


良いとも悪いとも解らない、放心状態とか そんなんでもない

もしかしたら、気分を害する色があったのかもしれない

もしかしたら、欲しくないのかもしれない


僕は、少しだけ声のトーンが低くなっているのにも気付かず、笑顔で話しかけた


「えと…..違う色がよかった?」

「…..。」

「あ、それともお母さんの事だから食べ物の方が..」

「…..。」


「…っ、」


長い沈黙に耐えきれず、僕は無理矢理に簪を楓の手からひったくると、

強がって笑顔を見せて、立ち上がった


「ごめんねっ! 僕、用事思い出したからちょっと行ってくる!!!」

「…え?あ!!待って!!!待って、玲!!!!」


悲痛な叫びを聞くのも、悲しげに眉を寄せるその表情(カオ)も見たくない。

僕は、思わず家を飛び出した



丁度、張飛さんが店に遊びに来る時刻だったからか、戸を開けると大きな影が僕を隠した

それを跳ね飛ばして走り出す


後ろから楓の声と、張飛さんの声が聞こえた気がしたけど

そんなの気にも留めずに走り続けた

気になってたのは、瞳から溢れ出る雫に誰かが気付いてしまう事ぐらいだろうか



….馬鹿だなぁ、僕。

冷静になって考えれば、解る事なのに。






楓には、蒼が似合う?






…楓が好きじゃない人と結婚して、それでもその人と愛し合って



幸せに近づいて、笑っていた頃


2人の婚儀の一ヶ月後に、楓の夫は殺されてしまった








その人を殺めたのは


青い旗の色をした 曹魏だった





のに、



絡み合う運命

繋がれた赤い鎖は、大きな力に耐えきれず、軋む


孤高の気高き獣は、涙で頬を濡らし、咆哮する。

その姿には、哀愁が漂う


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