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『校長が築いた密やかな王国』  作者: 中村 忠政
23/28

理論ゲーム発売

石橋家が次に出したのは、教育でも娯楽でもない“境界上”の製品だった。


**理論ゲーム。**


---


前提は極端にシンプルに設定されている。


「すべての人間が、自由に情報を得られる世界」


この一文だけで始まる。


---


プレイヤーは、その世界における「情報開放率」を選ぶ。


・1%

・10%

・30%

・50%

・70%

・100%


そして各段階で、必ず同じ現象が発生するよう設計されている。


・騒乱

・思想の侵食(偏り・極端化)

・見えない形での影響力の集中


---


普通のゲームなら、段階ごとに結果は変わる。


だがこのゲームは違う。


**どの割合でも“同じ種類の問題が起きる”**


ただし違うのは「発生の仕方」だった。


---


1%では、


・情報を持つ少数が支配的になる

・騒乱は局所的

・影響は見えにくい


---


10%〜30%では、


・情報の断片が広がり始める

・誤解による小規模対立が増える

・思想のズレが顕在化する


---


50%では、


・意見の衝突が常態化

・正しさの基準が分裂

・騒乱が広域化


---


70%では、


・情報過多による判断停止

・感情による選択の増加

・影響力の“見えない集中”が進む


---


100%では、


・すべてが可視化されるが統一されない

・誰もが発信者になり、同時に混乱源になる

・結果として、別の形の“支配”が自然発生する


---


プレイヤーはここで気づく。


「情報量を増やしても、問題は消えない」


---


むしろ重要なのは別だった。


・どう流れるか

・どう受け取るか

・どう処理されるか


---


このゲームには“勝利条件”がない。


あるのは観察だけ。


---


国民に販売されたとき、最初は娯楽として受け取られる。


だが一部の者はすぐに気づく。


「これは未来予測ではない」


「構造の再現だ」


---


そして奇妙な現象が起きる。


プレイヤーたちは、現実のニュースや社会の動きを

ゲームの段階に当てはめて考え始める。


---


王宮の分析官はこう報告する。


「国民の一部が、情報そのものではなく“情報の振る舞い”を見るようになっている」


---


石橋家の記録には、短くこう残る。


「自由な情報は解決ではない。条件である」


---


こうして理論ゲームは広がっていく。


娯楽として。

思考訓練として。

そして誰にも強制されないまま、


**社会の見方を変える装置**として。


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