公共事業は儲からない
石橋は、公共事業に関する「認識のズレ」こそが不正の温床だと見抜いていた。
多くの人間はこう考える。
「水道や橋は大きな金が動く=儲かるはずだ」
しかし実際に計算すると、まったく逆になる。
---
石橋は公務員学校で、徹底的に“総コスト”を叩き込んだ。
対象はすべて同じ。
・水道
・橋梁
・ライフライン管
・敷設工事
そして必ずセットで計算させる。
・初期建設費
・通常メンテナンス費
・中規模改修
・大規模改修(更新・総取替)
・事故対応費
・長期維持人件費
ここまで含めて初めて「本当のコスト」になる。
---
計算結果は毎回ほぼ同じ結論に落ちる。
**「利益は出ない」**
正確には、出してはいけない構造になっている。
なぜなら、
・長期維持が前提
・故障すれば社会損失が巨大
・安定供給が最優先
つまりこれは事業ではなく、
**“損失を出さないための装置”**だからだ。
---
石橋が狙ったのは、倫理教育ではない。
「構造理解」による抑制だった。
不正が起きる典型はこうだ。
・儲かるはずという誤認
・短期的な金の動きに引っ張られる
・長期コストを無視する
これを逆にする。
・最初から儲からないと理解させる
・長期コストを前提にする
・維持そのものを仕事の本質と認識させる
---
授業では繰り返し同じことをやらせる。
数字を変えても結論は変わらない。
その結果、ある変化が起きる。
「抜く余地がほとんどない」ことに気づく
---
さらに石橋は一歩踏み込む。
「もし利益が出ているなら、どこかが壊れている」
・メンテナンスを削っている
・品質を落としている
・将来コストを先送りしている
つまり“黒字”が異常のサインになる。
---
この認識が定着すると、不正の構造が崩れる。
・抜いてもすぐバレる
・長期的に自分に返ってくる
・そもそもやる意味がない
結果として、不正は「道徳的に悪いから減る」のではなく、
**「合理的に割に合わないから減る」**状態になる。
---
王宮の監査報告にはこう記される。
「倫理教育よりも、構造理解の方が効果が高い」
---
そしてストーンブリッジの記録には、石橋の一文だけが残る。
「人は善だから正しく動くのではない。間違えると損だと理解したときに正しく動く」




