第一話 あぁ、そうだった
陽だまりは気持ち良いものだ。
縁側に腰掛け一人、淹れたての茶を啜っていると
手入れを怠っていた鉢植えに蝶がとまっている様子に思わず顔が綻ぶ。
あぁ、今年も春が来たか、と。
するとどうであろう。
田舎町の古びたこの一軒家に、小さな来訪者。
どうも見たことのある顔だな……。
なんだコイツ、今まで何処をほっつき歩いてやがった?
昔わたしが飼っていた、三毛猫のジェイムズではないか。
悪びれた素振りもなくわたしの膝の上に跳び乗ってきやがった。
丸まった背中を優しく撫でてやると、目を細めゴロゴロと喉を鳴らしやがる。
嫌ではない。
むしろ、懐かしさとこの小さな温もりに胸の奥が熱くすらある。
当時、縁の下で鳴いていた産まれたばかりの子猫を飼おうと言い出したのはわたしの妻だった。
暫くの間、母猫が戻ってくるのではないかと様子を見ていたのだがその気配はまったく無かった。
親猫に捨てられたのだろうと、不憫に思った妻は私が面倒を見ますからと嬉々として譲らなかったのだ。
そのような妻も一昨年の春、わたしを残し天国へと旅立ってしまいよった。
長年連れ添った妻が亡くなったのだ、子の無かったわたし達にとって唯一の家族と呼べるのはこの猫しか居なかった。
そのジェイムズが、突然居なくなってしまったのである。
わたしの悲しみは毎夜の嗚咽となって積み重ねられていった。
そして今日。
春の訪れと共に懐かしい我が子が戻ってきたのだ。
嬉しいなんてものではない。
例え難き幸せの到来に、思い残すことなど何があろうか。
そのように考えたとき、わたしは思い出してしまった。
妻が亡くなった翌朝、ジェイムズは玄関先で妻の帰りを待つかのように小さく丸まり冷たくなっていたのである。
あぁ、そうだった。
そう言えばこのわたしも、昨日のいまじぶんこの縁側で寿命を終えたのだったな。
きっとお前は、わたしが一人寂しかろうと迎えに来てくれたんだろうね。
どうかお願いだ。
妻が待つ場所へ、このわたしを案内して貰えないだろうか。
終わり




