86 帝国崩壊 3
全くよく分からないまま、結婚が決まってしまった。勢いのまま、両親との顔合わせも済ませてしまった。
ついでにフィリップとリオネッサ将軍の顔合わせも済ませたのだが、もうどうでもいい。
当然、両親は反対なんてしない。
もう諦めよう・・・
そんなことを思いながら、勤務に就く。
実は即位式の一週間後にスペンサー侯爵領とニューアルトモもオンボーロ帝国から独立した。そして、フィオナ嬢とアンドリュー皇子の婚約を機に双方が合併し、オンボーロ公国となった。アンドリュー皇子はオンボーロ公爵を名乗り、国家元首となった。
また、スペンサー侯爵領の最大都市ムーデンは自治都市となり、初代市長がミケの母親であるミカさんが就任することになった。これは獣人たちの地位向上のための施策だという。それにミケの一族が、初代皇帝の血を引くということを公にしたことが大きく、スペンサー侯爵が初代皇帝に配慮しての意味もあるらしい。国の運営はスペンサー侯爵、アンドリュー皇子、ミカさんの合議で決まるらしいから、特に今までと変わりはない。
俺としても、仕える国が変わっただけで、しがない刑務官であることには変わりはないけどな。
変ったことといえば、ミケのアプローチが激しくなったことだ。
「センパイ、第二婦人でいいので結婚してほしいニャ」
「それは無理だぞ。女王陛下が許してくれないだろ?」
話を聞いていた女王陛下が言う。
「我は構わんぞ。アルもそうであったしな。センパイもそうだが、アルも激しかった。一人では耐え切れんしな」
「そ、そんな・・・」
とりあえず、その場を離れ、また先延ばしにする。
★★★
よく考えてみれば、女王陛下は美人だし、束縛もしない。
それに人格者だ。地位も高いし、このまま永久就職もいいのではないかと思い始めてしまった。食いっぱぐれることもないしな。
もしかしたら、これが究極の安心安全な生活なのかもしれない。
そんなことを思っていたら、事件が起きた。
緊急で会議を開くとの連絡を受け、刑務所内の会議室に集合する。
国家元首となったアンドリュー公爵が事情を説明する。
「ウイリアム兄上が、こちらに兵を率いて攻め込んでくるようです」
なぜだ?そこまで馬鹿なのか?
でも、戦力なんてほとんどないはずだけど・・・
「アレク兄上の言われたとおり、今のオンボーロ帝国に他国を攻めるだけの余裕はありません。なので、教会の力を借りたようです。これは様々な調査で判明したことなんですが・・・」
教会はオンボーロ帝国を内側から支配する計画を立てていたようだ。
前ドリエスト帝は、本人は自身を無能と評していたが、一般的に名君として知られている。おかしなことがあれば女王陛下に相談するし、無能と思っているから決断は慎重だし、無茶なことはしない。実際、沈みかけのオンボーロ帝国を何とか持ちこたえさせていたのは、ドリエスト帝の手腕だ。
なので、皇太子だったウイリアムを篭絡することにしたようだ。
教会の工作員であるエミリーを送り込み、フィオナ嬢との婚約を破棄させる。いくら馬鹿でもフィオナ嬢と結婚し、スペンサー侯爵が監視していれば、そう馬鹿なことはできないからな。
この計画は途中まで上手くいっていた。
実際、フィオナ嬢との婚約は破棄されたし、スペンサー侯爵の影響力もなくなった。それにウイリアムとエミリーとの結婚が決まったしな。
そんな時、ウイリアムを皇太子から外し、皇子だったアンドリュー公爵を皇太子に据えるという情報を掴んだ教会は強引な手に出ることになる。皇帝暗殺だ。
これにはウイリアムも関与しており、もう教会とウイリアムは一蓮托生というわけだ。
「アレク兄上は知っていると思いますが、確認のため説明させてもらいました」
そんなの知っているわけがない。俺はしがない刑務官だぞ。
リオネッサ将軍が質問する。
「それでなぜ、こちらに攻めてくるんだ?そんなことをすれば、他国に背後を突かれかねん。あの馬鹿は分からないかもしれんが、そこそこまともな側近もいるだろうに・・・」
「それについては、教会が神託を出したのです。「卑しい魔族や獣人に乗っ取られたオンボーロ公国を討て」とね。つまり聖戦を発動したということです」
多くの国が教会の信者を抱えているし、教会と懇意にしている王族や国家元首も多い。それに魔族や獣人を排斥する教義を持つ宗派が主流派だ。聖戦となれば、教会から動員を要請される可能性は高い。
しかし、こんな作戦に参加する国があるだろうか?
「ほとんどの国は、聖戦には一定の理解を示しつつも、日和見を決め込むでしょう。一部の国は形だけ派兵するかもしれません。流石に聖戦を行っている国を背後から攻める国はないでしょう」
リオネッサ将軍が言う。
「この戦いに勝てば、再び求心力が増すとでも思っているのか?それにしてもリスクを冒して攻めてくる意味が分からん」
「オンボーロ帝国と教会は我が国のゴーレム技術に目をつけているのです。それがあれば、再び武力で世界を征服できると思っているようですね」
これには、珍しく会議に参加していたバネッサ所長が反応する。
「最愛の夫ルークのゴーレム技術を盗もうとするなど、許せんな。皆殺しじゃ」
「そもそも、こちらに勝てる算段でもあるのか?私の知っているかぎり、国軍に碌な指揮官は残っていないし、そもそもこちらには、あのスタンピードを跳ねのけた精鋭たちとゴーレム兵器があるのだからな」
アンドリュー公爵が言う。
「実は教会には、相当強力なゴーレム兵器があるらしいのです。そのゴーレムを作ったのは・・・」
バネッサ所長が言う。
「ルークのゴーレムか?あれは危険すぎて廃棄したはずじゃが?」
「情報によると、密かに回収して研究を進めていたようです」
「因果なものじゃな・・・」
女王陛下が言う。
「事情は色々あるが、勝てばいいのだ。センパイ、頼むぞ」
「は、はい・・・」
とうとう俺は戦争の責任者もやらされるようだ。
安心安全な生活を追い求めてきた俺がなぜだ・・・どこで間違えたのだろうか?
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