85 帝国崩壊 2
アンドリュー皇子が皇帝に即位して半年が経過した。今日はウイリアム皇太子の即位式が帝都で行われる。因みにアンドリュー皇子は、1ヶ月前に既に退位の手続きは取っている。
思えば、この半年は忙しかった。碌に休みを取れなかったからな。それも今日で終わる。今日からは再び、安心安全な生活が返ってくるのだ。
ドレスを身に纏ったフィオナ嬢と軍服姿のリオネッサ将軍が声を掛けてくる。
「センパイは行かないのですか?」
「そうだ。馬鹿皇太子の驚く顔を見るのは一興に値するぞ」
「俺は関係ありませんし、見たいとも思いませんよ。それにアンドリュー皇子も体調不良ということにして、欠席しますしね」
「そうですか・・・」
「センパイらしいと言えば、センパイらしいか・・・」
「土産話を期待して待ってますよ。楽しんで来てください」
二人を見送ると、俺は久しぶりに刑務所内の巡回に出ることにした。
刑務所内は特に異常は・・・大ありだった。
「巨大ゴーレムが完成している・・・」
バネッサ所長が嬉しそうに言う。
「いつでも実戦投入できるぞ」
「そ、そうですか・・・」
もう見なかったことにしよう。
大丈夫だ、きっと・・・
★★★
巨大ゴーレムをどうしようかと、悩んでいるうちに日が暮れた。
もう考えるのは止めよう。勤務も終わったしな。
書類を片付け、休む準備をしていたところ、フィオナ嬢とリオネッサ将軍が帰還した。
「胸がすく思いでしたわ」
「ああ・・・センパイにも見せてやりたかったぞ」
「そうですか。ということは、成功だったのですね?」
「言うまでもない」
「ええ・・・これまでにないほどに滑稽でしたわ」
俺が仕込んだ作戦は、アンドリュー皇子が皇帝のうちに属国や植民地をすべて独立させ、紛争地帯もすべて、相手国に譲ることだった。そのため、各国との調整なんかで大忙しだったわけだ。疑り深い属国なんて、なかなか信じてもらえなかったからな。
つまり、皇帝に即位したところでオンボーロ帝国の領土は帝都周辺しかないってことだ。
ウイリアム皇太子は大帝国の皇帝のつもりだったのだろうが、実際は小国の王様、いや少し大きな領主程度の領地しかない。
「属国の君主が出席しなかったことに気づいた馬鹿皇太子は大騒ぎしていたな」
「私をわざわざ出席させたのも、自分の力を見せつけるためだったみたいですわ。私はいいものが見られて、嬉しかったのですが、婚約者のエミリーは顔面蒼白でしたわ」
「それはよかったです。そのうち、俺たちが裏で糸を引いていたことに気づくでしょうけど、これから各国との対応に追われるし、国軍も大幅に縮小したので、どうにもできないでしょうね」
怒って馬鹿皇太子が攻めて来ないともかぎらないので、その対策もしているのだ。
「ということで、これからはのんびりと過ごしますよ」
それから、三人で女王陛下の元に報告に向かった。
女王陛下の元には、アンドリュー皇子、ドリおじさんこと前皇帝陛下、そしてスペンサー侯爵御一家が勢揃いしていた。
「報告は聞いている。センパイ、よくやった」
「ありがとうございます。それにしても大勢で何かありましたか?」
アンドリュー皇子が緊張した面持ちで言う。
「みなさん、ありがとうございました。それで皆さんにご報告あります。一区切りつきましたしね」
一体何のことだろうか?
俺以外の全員の雰囲気が変わる。多分、みんな知っているのだろう。
「フィオナ姉様との結婚が決まりました。ささやかですが、宴を開きたいと思います。会場は刑務所内でと考えてます。ご迷惑を掛けるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
青天の霹靂だ。
そんなことになっていたなんて・・・
思えば、けっこう仲が良かったな。
だから、ここに双方の家族が来ていたんだな。
「ささやかなんて、とんでもない。盛大な宴にしますよ。刑務所のみんなも協力してくれるはずです」
リオネッサ将軍が続く。
「私も報告がある。私も結婚が決まった。この年齢で結婚するなんて思わなかったがな」
「おめでとうございます」
そんな物好きがいるんだなあ・・・
そう思っていたら、リオネッサ将軍が驚きの話を始めた。
「センパイは私にとって、義弟だな。これからもよろしく頼むぞ」
義弟?あれ?
「もしかして、フィリップ兄さんとですか?」
「もう知らないフリをしなくていいぞ。知っていて黙っていたんだろ?」
全然知らなかった・・・
というか、どういう流れでそうなったんだ?
リオネッサ将軍が嬉しそうに馴れ初めを話し出した。
「一緒に修行をしているうちに自然とな。成り行きというやつだ。まあ、アッチのほうは、センパイには及ばないが、フィリップも頑張っているぞ」
どうやら、別の意味でフィリップと兄弟になっていたようだった。
俺が混乱していると女王陛下が俺の手を握ってきた。
「めでたいついでに、我も報告しよう。実はセンパイはアルフレッドの生まれ変わりなのだ。それで長い時を越えて、もう一度結ばれることになった」
これには一同が驚いている。
そんな時、スペンサー侯爵が言った。
「そうか!!そうだったのだな!!つまり初代スペンサー侯爵であるアトラス様の生まれ変わりが、アルフレッド大帝で、そのまた生まれ変わりがセンパイということですな?」
「そうかもしれんな」
「そうかもしれない」じゃなくて、絶対に違う。なぜなら、俺は元日本人だからな。
しかし、この流れは止められず、スペンサー侯爵御一家とフィオナ嬢、それに前皇帝とアンドリュー皇子が俺に臣下の礼を取った。
「「「お帰りなさいませ、初代様」」」
「「お帰りなさいませ、アルフレッド大帝陛下」」
「い、いえ・・・多分、違うかと・・・」
これを女王陛下が遮る。
「皆の者、まだ記憶が十分戻っておらんのだ。その辺にしておけ」
「「「はい!!」」」
「ということで、宴はみんなで楽しくやろうぞ」
もう違うという雰囲気では、なくなってしまった。
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