84 帝国崩壊
俺は今、国の行く末を決める重要な会議に出席している。
帝都で行われているこの会議には、ウイリアム皇太子とその側近、アンドリュー皇子や宰相と一部の大臣クラスしか出席していない。
そんな会議になぜ俺が出席しているかって?
それは俺が仕組んだからだ。
因みに俺は、アンドリュー皇子の従者として出席している。一応、アンドリュー皇子が統治する町は刑務所出身者が多いので、彼らを監督するという名目で、監督官という肩書きをもらっている。ウイリアム皇太子からすれば、俺なんて覚えてもいないだろうし、獣人や魔族以外の従者が少ないアンドリュー皇子が、数合わせで用意した程度にしか思われていないだろう。
会議が始まると、宰相から会議の趣旨が説明された。
「皇帝陛下が行方不明となり、早半年となります。今も懸命に捜索は続けておりますが、未だ発見には至っておりません。それで申し上げにくいのですが・・・」
ウイリアム皇太子が話を遮る。
「早く申せ!!つまり、俺が即位するという話だな?早く議決をしろ」
「そ、それが・・・陛下の遺言書が発見されまして・・・その・・・法務大臣、説明を」
法務大臣が説明を引き継ぐ。
「皇帝陛下は、こういった事態を想定されておりまして、私及び教育大臣の立ち合いの元、遺言書を作成され、法務省で厳重に保管、管理をしていたのです」
「だったら、早く見せろ。俺に即位しろと書いてあるのだろう?」
法務大臣は何も言わずに遺言書を示した。
「そ、そんな・・・アンドリューを即位させるだって!?」
「えっ!!僕が皇帝ですか?それは困ったなあ・・・断ることはできないんですか?」
法務大臣が言う。
「陛下の言葉は絶対です、アンドリュー皇子」
「困ったなあ・・・最近、レストランをオープンしたばかりなのに・・・」
ウイリアム皇太子が叫ぶ。
「そ、そんな馬鹿な話があるか!?遺言書は偽物だ!!」
「制約魔法が掛かっておりますので、間違いありません。また皇帝の権威を示す聖杯、また実務で必要な帝国印は、アンドリュー皇子にしか引き継げなくなっております」
「クソ!!俺が皇帝になるはずなのだ。それなのに・・・折角、危ない橋を渡ったのに・・・」
おい、皇帝暗殺事件の犯行を自供してるようなもんだろ!!
というツッコミは、誰も入れなかった。
アンドリュー皇子が何かを思いついたように言う。
「だったら、僕が一旦即位して、すぐにウイリアム兄上に譲るというのはどうでしょうか?」
「できなくはありませんが、制約魔法が掛かっていますので、半年後にはなるかと・・・」
「うーん・・・それしかないなら、それでいいけど・・・」
「それですと、国に混乱が起きかねません。厳しいかと」
「そうか・・・監督官、何か案はないかな?」
ここで俺に振られた。
「こういうのはどうでしょうか?まず、半年後まで皇帝陛下の無事を装う。そして、形だけアンドリュー皇子殿下が皇帝として即位する。そして制約魔法の効果が切れれば、皇太子殿下が即位する。ここにお集まりの皆様が黙っていれば、バレることはありません・・・」
ウイリアム皇太子が諸手を挙げて賛成した。
「そこの従者、いい案だ。褒めてやろう」
何度も俺と会っているんだけど、ウイリアム皇太子は俺のことを覚えていないようだった。
法務大臣がアンドリュー皇子に念を押す。
「本当によろしんですか?皇帝の座をそんな簡単に手放すなんて・・・」
「僕はしがない料理人だからね。僕自身はあまり帝都に顔を出したくないから、ここでウイリアム兄上に帝位を譲るという誓約書を書いてもいい。それと皇帝の仕事はしたくないから、今までどおり頼むよ」
「しかしですなあ・・・帝国印を押していただかなければならない重要書類がありますし、皇帝陛下の裁可が必要な案件も・・・」
アンドリュー皇子が少し考えて言う。
「どうしても必要な書類があれば、ニューアルトモまで持って来てよ。文句なんか言わず、帝国印を押すからね。それに難しい案件はウイリアム兄上にお願いしてよ」
これにウイリアム皇太子が続く。
「アンドリューの言うとおりだ。宰相、それで構わんか?」
「皇太子殿下がいいのであれば・・・」
「よし、手続きを進めてくれ」
そこからは迅速に手続きが行われた。
ウイリアム皇太子は、嬉しさを隠しきれないでいる。
「まずは、エミリーの実家に挨拶に・・・即位式の準備もせねばならんな。教会にも根回しをせねばならんし・・・」
ウイリアム皇太子の側近たちが早速ゴマをすっている。
「折角ですから、即位式は豪華に致しましょう」
「お抱えの商人をご紹介致しますよ」
それを尻目に俺たちは、そっと会場を後にした。
★★★
転移魔法陣でアトラスに戻った。
アンドリュー皇子が声を掛けてくる。
「案外、上手くいきましたね」
「そうですね。これでゆっくりできますね」
法務大臣も会話に入ってくる。
「殿下、ここからが正念場ですぞ。各国との交渉など、やることは山のようにあります」
「迷惑を掛けるね。僕ができることは何でもするよ」
心の中で、法務大臣に「ご愁傷様です」とつぶやく。
「それでは一つお願いがあります。そちらの監督官殿を私にお貸しいただけますか?」
「もちろんだよ。いいですよね?アレク兄上?」
俺が答えに窮していると、法務大臣が言った。
「女王陛下の許可はいただいております」
もう逃げられないようだ。
こうして、俺のスローライフとは程遠い生活が始まってしまったのだった。
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