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異世界のんびり刑務官~異世界で無双?そんなの俺は求めてない。ただ安定した生活がしたいだけなんだ!  作者: 楊楊
第五章 副所長のお仕事

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77 視察団

 とうとう視察団がやって来た。

 厄介なことにウイリアム皇太子とその婚約者候補のエミリーも視察団に同行していた。というか、フィオナ嬢が言うには、ウイリアム皇太子は視察団の団長だそうだ。またまた問題を起こし、新たに国中を視察して周るという部署ができてしまったようだ。


 日本の社長の馬鹿息子でも、部署を新設させるなんて、なかなかいないぞ・・・


 そんなことを思いながらも、手筈どおりに視察団を迎える。

 こちらの代表者は当然、アンドリュー皇子だ。


「兄上、皆さん、お待ちしておりました」

「こんな田舎まで来てやったんだ。駄目なのは分かっているが、皇族として恥ずかしくないくらいにはしてくれ」

「は、はい・・・」


 隣のフィオナ嬢は、いつも通り無視されていた。

 今回の視察では、いきなりダンジョン付近の町に行くのではなく、一旦アトラスに来てもらっていた。それには狙いがあるんだけどな。


「な、何だ・・・あれは?」

「かなり巨大な物だが・・・車輪がついているな・・・」

「ああ・・・何に使うんだ?」


 使節団から驚きの声が漏れる。

 すかさずアンドリュー皇子が説明を始める。


「これは魔道列車です。ゴーレムの技術を応用したもので、これに乗ってダンジョン付近まで移動致します」


 これはレントン教授の手記にもあったし、馬車からゴーレムに変形するゴレームの開発を進めていたから思いのほか早く開発できた。

 そうは言っても、まだまだ開発途中でトロッコに毛が生えたくらいだけどな。


 恐る恐る視察団が乗り込んだところで、列車が出発した。

 皆そのスピードと乗り心地に驚いていた。


「これは凄いな・・・」

「ああ・・・軍としても採用したいくらいだ」

「これがゴーレムだと?誰が開発したんだ?」


 ダンジョン付近に到着後、父とマイケルと合流した。

 魔法省ダンジョン管理局局長の父が視察団に説明を始めた。


「皆様、乗り心地はどうでしたか?実はこの列車を開発したのは、あのレントン教授です。アイデアはアンドリュー皇子が出されたのですがね・・・」


 これは予め決めていたことだ。アンドリュー皇子は俺の手柄を取りたくないと言っていたが、無理やり納得してもらった。だって、俺が目立っても何の得もないからな。


「当然、魔法省としても開発に協力しております。また教育省も貴族学校の学生を中心に協力してくれております」


 父に続いてマイケルも説明を始める。


「教育省としましては、ゴーレムの開発だけでなく、多くの職場体験を学生に行っております。例を挙げますと、北部方面隊との合同訓練やダンジョン研修、また工房や商店での研修と多岐に渡っております」


 視察団のメンバーである魔法省と教育省の関係者は満足げに頷く。


「ゴーレムも魔道列車も、我々魔法省の協力があってはじめて、開発できたのだな?鼻が高い」

「教育省も十分に成果を上げることができており、嬉しいかぎりです」


 同じく合流したリオネッサ将軍も続く。


「補給線を安定させるため、軍も魔道列車を採用しようと考えております。積載量を増やすアイデアは、我々が出したものです」


 さり気なく国軍の手柄をアピールしている。

 これに続いて、フィオナ嬢とアンドリュー皇子がその他の省庁の手柄を説明する。これは視察団が多くの省庁の寄せ集めということを鑑みての対応だ。皆、自分が勤務している省庁が一番だと思っているからな。


 この作戦は上手くいき、視察団の評価は概ね良好だった。

 ウイリアム皇太子はというと、何か文句をつけたそうにしていた。ウイリアム皇太子がいなければ、上手く視察を終えることができるのにと思ってしまう。


 ここで意外な人物が助け舟を出してくれた。法務大臣だ。

 法務大臣は刑務所内のイベントにも参加しているし、女王陛下と何かしらのつながりがあると思われる人物だ。


「皇太子殿下、折角ですからダンジョンの探索をしてみてはどうでしょうか?殿下の武勇は有名ですし、研修に来ている学生にも良い刺激になるでしょう。なんたって殿下は、()()()()()()()()ですからな」


 最後はちょっとした皮肉だろう。

 確かに優勝はしたが、決勝戦はそれはそれは酷い有様だったからな・・・


「うむ、では後輩たちに指導を兼ねてダンジョンに潜ろう」


 皮肉を皮肉と気づかない馬鹿皇太子であった。



 ウイリアム皇太子とエミリーと別れた視察団は、これ幸いと視察を早々に切り上げ、すぐに飲み会を始めてしまった。

 話の分かりそうな法務大臣にこっそり事情を聞く。


「ここだけの話、ウイリアム皇太子とアンドリュー皇子の仲が良くないのは、公然の秘密だ。我々としてはそんなことに巻き込まれたくない。だから視察なんて形だけのものだ。我々官僚が皇族を審査するなんておかしいだろ?ただ、報告書の内容があまりにも現実的でないという意見があり、仕方なく視察することになったのだ」


「そうなんですね・・・」


「ただ、来てみてびっくりしたぞ。ここまでのことになっているとはな・・・てっきり、少し数字を盛って報告したのだと思ったがな。それにしても陛下は、なぜ許可されたのだろうか・・・・」


 ここでいう陛下は女王陛下のことだ。

 法務大臣も何かを知っているようだ。



 ★★★


 視察結果は特に問題がないどころか、最高の評価を受けた。

 というのも、ウイリアム皇太子はダンジョンで隠し部屋を発見し、相当なお宝を手に入れ、ご満悦になったからだ。馬鹿なだけあって、当初のアンドリュー皇子をいびるという目的を忘れてしまったことが大きい。


 まあ、これはファーベルにお願いして、そうしてもらったんだけどな。


 そのファーベルもご機嫌だ。


「低階層に隠し部屋を配置することで、低階層を入念に調べる冒険者が増えて嬉しいわ。このことを論文にしてダンジョン協会に報告したら、臨時ボーナスをくれたのよ。アレク、貴方が私の元で出世したいという気持ちが伝わったわ」


「そんなわけではないんですが・・・」


 ファーベルをのらりくらりと躱し、俺は通常業務に戻るのだった。

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