73 相談
いよいよアラクネやケンタウロスたちを町に出す。
初日ということもあり、北部方面隊、領兵、冒険者の部隊が物々しい警備をしている。個人的にはそこまでしなくてもと思うが、囚人の子供という設定だし、姿形が人間とかけ離れているから仕方ない面もある。
これから1週間はトラブルが起きないように俺、フィオナ嬢、リオネッサ将軍が付きっきりで対応する。当然、刑務所内に正規の職員はバネッサ所長しかいなくなる。かなり問題だと思うが、今更だ。
かなり心配していたが、それからの活動は順調だった。
クロネコ商会と冒険者ギルドの全面協力のお蔭で、アトラスの住民の評判も、かなりいい。ほとんどの種族が戦闘力が高く、特技を持っているので各所で引く手あまただった。例を挙げると戦闘力の高い種族は軒並み北部方面隊に雇用された。これはリオネッサ将軍の影響も大きい。この国では大隊長ともなると予算が許す範囲内で、部隊員や下士官を現地採用ができる。これを利用したようだ。まあ大隊長のフィリップは、リオネッサ将軍を崇拝しているから、ほとんどリオネッサ将軍の言いなりで、実質はリオネッサ将軍の部隊だ。オーク、オーガがメインで、戦闘が得意なアラクネやケンタウロス、リザードマンなんかも多く在籍している。
北部方面隊は冒険者のような活動もしており、彼らが勝手に冒険者として稼いでいるので、予算はほとんど使ってないようだった。
また戦闘力の低い者もミケが面倒を見てくれている。
ゴブリンは集団行動が得意で指示には忠実に従うし、アラクネのスキルで出せる蜘蛛の糸は高級な織物になるから、ミケは大儲けしている。
その中でもケンタウロスの評価は高い。
「馬車も引けるし、強いから護衛を雇わなくてもいいニャ。後は彼らが交渉や仕入れなんかをできるようになれば、もっとコスト削減ができるニャ」
そんな状況なので、アトラスの住民も彼らには好意的だ。
1ヶ月も経つと、俺はこの仕事から手を引くことにした。後は勝手にそれぞれでやってくれると思ったからだ。それになるべく仕事を溜めないことが安心安全な生活への道でもある。
★★★
それから3ヶ月が経った。
問題らしい問題も怒らなかった。偶に酒に酔って喧嘩とかはあるけど・・・
俺はというと、上がってくる報告書をまとめるだけでよかった。一応国としての事業だから、定期報告の義務がある。まあ、報告と言っても報告書を提出するだけだけどな。
そして今日、帝都に報告に向かう。メンバーは俺とフィオナ嬢とアンドリュー皇子だ。俺としては、ゆくゆくは二人にこの仕事も任せようと思っていた。なるべく自分の仕事を減らすことも安心安全な生活への道だ。
移動中、アンドリュー皇子から相談を受けた。
「実はフロッグ族のことで相談があるんです。不満ということではないのですが・・・」
フロッグ族というのはカエル型の魔族で、水中活動が得意だ。しかし、戦闘力はあまり高くない。彼らの意向としては、自分たちも他の種族と同じように自分たちの特技を生かして、活躍したいとのことだった。
フィオナ嬢が言う。
「アトラスには大きな川や湖はありません。刑務所内にはあるんですが、そこに住民を入れるわけにもいきませんし・・・」
俺もすぐには解決策は思い浮かばない。
だって当初は、観光気分で職場体験をさせて、それでお茶を濁す予定だったのだ。それが思いのほか町に溶け込み、今では彼らは、町になくてはならない存在になっている。そもそもの話、そんな状況を想定していなかったのだ。
「殿下、前回のように安請け合いしなかったことは評価できます。私も今すぐに対応策は思いつきませんが、何とか検討を重ねて・・・」
「そうですね・・・」
政治家がよくやる手だ。時間を掛けて、やっている感を出して何もしない。
そのうち、何とかなるだろうという作戦だ。アンドリュー皇子やフロック族には悪いが、多分そうなるだろう。
法務省に到着し、報告書を提出する。
担当職員に確認をしてもらっているところで、嫌な奴に遭遇した。
「アンドリュー、暇なのか?俺は忙しいのにいい身分だな?」
「ウイリアム兄上・・・今日は報告書の提出に・・・」
「ふん・・・あの囚人の子供たちとの交流イベントか?呑気なものだな。俺は国を動かす仕事をしているのに・・・ああ忙しい、忙しい」
今回もフィオナ嬢のことは無視だった。
しかし、今回はフィオナ嬢は黙ってはいなかった。
「皇太子殿下、アンドリュー皇子はそれはそれは頑張っておられました。囚人たちからの信頼も厚く、またアトラスの住民からも慕われ・・・」
「黙れ!!頭のおかしい冒険者くずれと話すことは何もない。出来損ない同士、どうでもいい仕事をやって、じゃれ合っていろ!!」
捨て台詞を残し、ウイリアム皇太子は去って行く。
後で聞いた話だが、ウイリアム皇太子は財務省でも問題を起こし、法務省に異動になったそうだ。現代日本でもよくある、社長の馬鹿息子が各部署をたらい回しにされる現象だ。
俺としては、明かにアンドリュー皇子のほうが、遥かに国の為になるいい仕事をしていると思うのだが、そう思うわない所が皇太子が皇太子たる所以だろう。
帰り道、フィオナ嬢はかなり怒っていた。
「センパイ、こうなったらアンドリュー皇子に功績を上げてもらいましょう!!このままでは終われませんよね?」
「そ、そうだな・・・」
「ぼ、僕は・・・」
「では帰還後、すぐに対策を練りましょう」
アンドリュー皇子は乗り気ではないのだが、フィオナ嬢の勢いに負けてしまっている。
帰還後、バネッサ所長に報告を行うため、俺一人で所長室に向かった。
所長室にはバネッサ所長だけでなく、ダンジョンフェアリーのファーベルがおり、楽しそうにお茶を飲んでいた。
俺に気づいたファーベルが声を掛けてくる。
「久しぶりね、人間。貴方に仕事を持って来てあげたわよ。実は新たなダンジョンを作ろうと思っていてね。貴方の実力を確かめるために、そのダンジョン製作を任せてあげてもいいと思っているのよ」
ファーベルは妖精なだけあって、かなり人間のことを下に見ているし、人に物を頼む態度ではない。
俺はこれ以上仕事を増やされたくないと思い、それとなく皮肉を込めて言った。
「言っている意味がよく分かりませんし、それに私は貴方の部下ではありませんが?」
「そう?だったらバネッサ、この人間に手伝うように言ってくれる?お礼に珍しい魔石をあげるからね」
「うむ。副所長よ、ファーベルを手伝うように」
上司の命令なので、断ることはできず、俺は途方に暮れるのだった。
それにしても、俺が頼まれている仕事は3つある。
1 フロッグ族が活躍できる職場づくり
2 アンドリュー皇子に功績を上げさせる。
3 新たなダンジョンづくり
状況を整理してみて、思いついた。
これって、一遍に解決できるんじゃないのか?
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