72 申請
俺とフィオナ嬢とアンドリュー皇子は書類作成をしながら、アトラスの有力者への根回しを行っていた。
有力者といっても、ほとんどが縁故関係者だが・・・
まずは魔法省ダンジョン管理局局長の父の元を訪ね、事情を説明して協力を求めた。
「流石はアレクだな。直接関係のない私の所に挨拶に来るとは感心だ。お前も官吏の何たるかが分かってきたようだな」
「ええ・・・少しでもトラブルは避けたいですからね」
「うむ。それでは同意書にサインしてやろう」
父に話を通した後は、その足で教育省アトラス研修所所長のマイケルを訪ねる。
「礼を言うぞ、アレク。こちらも直接関係がないとはいえ、公に協力要請が無ければ、上のほうがへそを曲げるからな・・・」
「そう思って、ここに来ましたからね」
「それでこの後はフィリップの所か?」
「はい」
「だったら、これを持って行ってくれ。アイツも喜ぶだろうしな」
マイケルに渡されたのは、大量のお菓子だった。
マイケルとしては、俺がフィリップに気を遣ってお願いに来たことにして、フィリップを喜ばせたいのだろう。
俺はそのお菓子を受け取り、フィリップの所に向かった。
フィリップが大隊長を務める北部方面隊を訪ねると、いつも通り大歓迎をされた。
まるで皇族がやって来たくらいの歓迎だった。まあ、こちらもアンドリュー皇子がいるからある意味、間違ってはいないが・・・
フィリップはというと、特に詳しい話を聞かず書類にサインしてくれた。
「よし、悪いことをしたり、暴れたら俺がやっつければいいんだな。任せておけ」
「フィリップ兄さん、今回刑務所から外に出るのは正確には囚人ではありません。あくまでも刑務所内で育った囚人の子供たちです」
今回、アラクネやケンタウロスたちを刑務所外に出すのに、囚人ではなく刑務所内で生まれた囚人の子供という設定にした。これなら申請が通りやすいと思ったからだ。そもそもの話、彼らは囚人ではないんだけどな・・・
「まあ、何でもいい。困ったら俺を頼れ」
「は、はい・・・」
心の中では、絶対に頼らないと思ったけどな。
それからは冒険者ギルド、商業ギルドを周った。
商業ギルドは最近できた施設で、支部長はなんとミケが務めている。
「もちろん協力するニャ。それで・・・」
「分かっているよ。優秀な人材は一番に回すよ」
「センパイもよく分かっているニャ」
相変わらず、ミケは抜け目がない。
そして最後は、フィオナ嬢の父親であるスペンサー侯爵を訪ねる。
各所から集めた同意書を見ながら、スペンサー侯爵は言う。
「まあ、町の者の同意が取れているのなら、こちらが反対する理由もない。しっかりとやるように」
「はい」
帰り際、フィオナ嬢が言う。
「お父様は、こういったことには慎重なんですが、あっさりと承諾したくれましたね」
「フィオナ嬢も殿下も覚えてほしいのですが、私たち官僚は根回しが重要なのです。私を含めて、官僚とは責任を取りたくないものです。なので・・・」
俺は二人にそれとなく指導をした。
「副所長、ありがとうございました。僕の失敗をフォローしてくれて・・・でも、これで大丈夫ですね?」
「そう上手くはいかないと思いますよ」
俺としては、アトラスの有力者については、特に心配していなかった。問題は別にあるからな。
★★★
3日後、俺たちは書類を揃えて、帝都までやって来た。法務省に許可を得るためだ。
初めて利用する転移魔法陣にアンドリュー皇子は驚いていたけどな。
「こんなものがあるのですね・・・これは皇族でも知っている者はごく一部でしょうね」
帝都に到着してすぐに法務省に向かった。
かなり時間が掛かると思っていたが、すんなりと手続きが進んで行く。そして・・・
「だ、大臣・・・」
なんといきなり、法務大臣が応対してくれることになった。
「アンドリュー皇子、お久しぶりでございます。書類も完璧ですから、すぐに許可をしましょう。それと責任はアンドリュー皇子が取られるということでよろしいんでしょうか?」
アンドリュー皇子が答える。
「もちろんです」
「分かりました。陛下からの書状もありますし・・・断るなんてできませんよ」
大臣室を退出後、アンドリュー皇子に声を掛ける。
「流石は殿下ですね。私たちとは待遇が違いますよ」
アンドリュー皇子はバツが悪そうに答えた。
「僕はどちらかというと、皇族の中では冷遇されてきました。いくら僕にゴマをすっても、この国から、いずれはいなくなるからです。ここまで待遇がいいとなると・・・」
アンドリュー皇子は書類の束の中から、一枚の書類を取り出した。
それは女王陛下がサインした同意書だった。法務大臣は刑務所内の式典に出席していたし、女王陛下と何かしらつながりがあるのだろう。普通なら興味を引く内容だが、ここで深く詮索しないのが、安心安全な生活を維持する秘訣だ。
俺は話題を変えることにする。
「法務大臣の許可がもらえましたので、すぐに関係各所を周りましょう。今日中に済ませますよ」
「はい」
関係各所を周っていたところ、嫌な人物に遭遇した。
「アンドリュー、こんな所で何をしているのだ?」
「ウイリアム兄上・・・実は・・・」
皇太子のウイリアムだった。傍らには厚顔無恥な男爵令嬢エミリーもいる。
フィオナ嬢が冷たい表情になる。
「出来損ないのお前にピッタリの職場だな。皇族の名を汚すことがないようにしろよ。俺はお前とは違って、この国の中枢の仕事を任されているからな」
そう言うと、ウイリアム皇太子は去って行く。元婚約者のフィオナ嬢には一瞥しただけで、全くの無視だった。
相変わらず、最低な奴だ。
フィオナ嬢が言う。
「本当に腹が立ちます。全く成長していないどころか、更に悪化しています。それに何が国の中枢ですか!?厄介払いされただけなのに・・・」
フィオナ嬢が言うには、ウイリアム皇太子は最初は軍で勤務していたようだが、トラブルを起こし、財務省に異動になったそうだ。
俺としては、ウイリアム皇太子よりもアンドリュー皇子が皇帝になったほうが、この国はよくなると思う。
しかし、しがない刑務官の俺が、皇位継承問題に口を出すつもりは全くないけどな・・・
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




