68 副所長のお仕事 3
研修は思ったよりも順調だった。
その一番大きな要因は、アンドリュー皇子だ。誰もが嫌がる魔物の解体や料理番などを積極的にこなしていた。スティーブなんかは当初、「そんなものは、平民の仕事です。殿下がすることではありません」と言って反対していたが、アンドリュー皇子はそれでもそういったことを続けていた。
また、平民や獣人にも分け隔てなく接するので、多くの者に慕われていた。
そうなると、班としてもまとまりが出てくる。元々俺のコースは安全第一に設計されているので、学生間でトラブルがなければ、問題が起こらないようになっている。それも相まってみんな楽しそうに過ごしている。
当初は苦言を呈していたスティーブも最後のほうは、アンドリュー皇子に心酔していた。
「アンドリュー皇子こそ俺が仕え、お護りしなければならない御方だ。リオネッサ殿は、このことを伝えたかったのだな・・・」
実際のところ、そんなことはない。
リオネッサ将軍から聞いたのだが、ただ態度が悪かったからフルボッコにしただけらしい。まあ、いい方向に勘違いしているから、放っておくことにした。
もう一人の要注意人物であるアンナも、アンドリュー皇子には好印象を抱いているようだった。
「顔も悪くないし、料理も上手い・・・別に付き合ってあげてもいいけどね・・・」
これにはスティーブがツッコミを入れていた。
「何を考えているんだ!?平民が殿下と結婚できるわけがないだろ。身分を弁えろ」
「うるさいわね。私の魔法の才能は、皇族と釣り合うくらいはあると思うわ」
「お前くらいの才能の奴なんて、その辺にゴロゴロいる」
「そ、それは・・・」
フィオナ嬢が言うには、アンナはそれなりに才能はあるようだ。
しかし、小さい頃から天才少女として育ったため、プライドが高く傲慢だ。今後の彼女のためを思って、フィオナ嬢がフルボッコにしたらしい。それ以後は、そこまで横柄な態度を取ることもなくなったけどな。
まあ、多少のいざこざはあったものの、研修は無事に終わりを迎える。
貴族学校の担当者も大満足のようだった。
「問題児を多く連れてきたのですが、上手くいきました。本当にありがとうございます」
スティーブやアンナ以外にも問題児は多くいたらしい。あまり目立たなかったけど・・・
というか、問題児ばかり連れて来てたのか・・・
まあ、いろいろあったようだけどトラブルが起こらなかったから、それでよしとしよう。
★★★
第一陣の研修を無事に終えた俺は、これから来るであろう第二陣の研修生の受け入れ準備に追われていた。というのも、俺は学生の研修制度から手を引くことに決めたから、その引継ぎやマニュアル作りに大忙しだった。
だってどう考えても、しがない刑務官の俺の仕事じゃないからな。
そんな忙しい日も、もう終わる。
基本的な指導は冒険者ギルドに丸投げすることにして、将来戦闘職希望の学生にはリオネッサ将軍に指導をお願いした。リオネッサ将軍も快く引き受けてくれた。
「久しぶりの新兵の指導だから気合いを入れないとな」
まあ、学生が地獄を見ることになるだろうけど、俺には関係ないことだ。
ほっと一息ついたところで、フィオナ嬢から食事に誘われた。
何でも新しくレストランがオープンしたらしく、どうしても一緒に来てほしいと言われた。折角なので、リオネッサ将軍も誘って、そのレストランに向かう。
そのレストランは、値段が安い割に量も多く、それに味も抜群によかった。
「どうでしょうか?」
「これは流行ると思うな。帝都で出店しても高評価だろう」
「私もそう思うぞ。それにしても、どことなくクマーラ殿やセンパイの味に似ているな」
フィオナ嬢が嬉しそうに言う。
「気に入ってもらえてよかったです。それではここのシェフを呼びますね。実はこのレストランには「仮面舞踏会」が出資しているんですよ」
「それは驚いた。それにしても、いい料理人を見つけたな」
「はい。でも、もっと驚くことになりますよ」
しばらくして、このレストランのシェフが現れた。
マスカレードマスクを着用した少年だった。それだけでも驚きなのだが・・・
「ま、まさか・・・殿下?」
「い、いえ・・・マスクドシェフです・・・」
少年は恥ずかしそうに答えたが、どう見てもアンドリュー皇子だ。
フィオナ嬢が説明をしてくれる。
「実は殿下から相談がありまして・・・」
フィオナ嬢が言うには、アンドリュー皇子は学生の間は料理人として活動したいとの相談を受けたという。アンドリュー皇子は学生の身分だが、貴族学校は特段の事情が有れば、学校に通わずともレポートを提出すれば、卒業はできる。その制度を利用し、アトラスに住むことにして、レストランをオープンさせたようだ。
「これでも皇族なので制約があり、素顔を晒すことはできないので、こうしているんですよ」
「謎の覆面シェフが作る謎の料理・・・ワクワクしますよね?」
アンドリュー皇子は、相談する相手を間違えたのかもしれない。
「それは分かりましたが、成績が下がってしまうのではありませんか?」
「それは大丈夫です。実は・・・」
アンドリュー皇子が言うには、兄のウイリアム皇太子よりも貴族学校の成績がいいと、少し問題があるらしい。なのでアンドリュー皇子の活動は、すんなりと承認されたようだった。大人の事情なので、深くは聞かなかった。俺としては、あの馬鹿皇太子が皇帝になるよりは、アンドリュー皇子が皇帝になったほうがいいと思うけどな。
「流石に一人で、いきなりレストランを経営することはできませんので、経営のほうはクロネコ商会に助力をいただき、料理のほうも、落ち着くまでは師匠に手伝ってもらっています」
すると、厨房から現れたのは、なんとクマーラさんだった。
「この子は筋がいいよ。フィオナ嬢が言うには高貴な家の出らしいけど、偉ぶった所もないし、私もしっかり面倒を見ないとと思ったよ」
「クマーラさんにそう言ってもらえれば、繁盛間違いなしですね」
アンドリュー皇子には少し同情する。
俺とは違って、料理人になりたいという夢がある。しかし、その生まれからそれは叶わぬ夢だろう。俺だったら、何もせずにのんびりと過ごすだろうと思うけど。
それからは楽しい食事会が続いた。
大満足の料理だった。これならクマーラさんの店がいっぱいの時は、こちらを利用してもいいかもしれない。
別れ際、アンドリュー皇子に言われた。
「アレク先輩には、本当にお世話になりました。よろしければ、アレク兄上と呼ばせていただいても?」
俺は察してしまった。
アンドリュー皇子は厨房にいるクマーラさんを恥ずかしそうに見ている。
「料理にほうは、すぐにセンパイを追い越すだろうけど、アッチのほうはまだまだだね」
おい!!クマーラさん・・・
もう何も言うまい。
俺はアンドリュー皇子と奇しくも兄弟になっていたようだった。
俺と同じく、事情を察したリオネッサ将軍は苦虫を嚙み潰したような顔になり、あまり分かっていないフィオナ嬢は言う。
「センパイは慕われていますね。兄上だなんて・・・」
そういう意味じゃないんだよ・・・
まあ、これは俺の責任じゃないし、知らなかったことにしよう。
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