65 プロローグ
アトラスの町もアトラス刑務所も大発展している。
刑務所内部では、もはや刑務所と呼べないくらい立派な建物が林立し、巨大ゴーレムを祀る神殿付近は、もはやちょっとした町くらいの賑わいを見せている。
というのも、刑務所内に元々住んでいた者たち以外に他の場所から移住してくる者たちが増えたからだ。移住してきた者たちは、亜人や獣人たちがほとんどで、「最近、獣人や亜人への弾圧が厳しくなった」と漏らしていた。噂では人間至上主義を掲げるルミナス神聖国が、亜人や獣人たちへの弾圧を強化したのがその原因だと思われる。
それにしても、勝手に刑務所に収容する者を増やしていいものかと思うが、もう今更だ。
それで、フィオナ嬢には新しく移住してきた者たちへの研修や相談業務をしてもらっている。
フィオナ嬢は獣人たちにも評判がよく、元から住んでいた者たちとのトラブルも起きていない。こっそり、仕事ぶりを見たのだが、驚きの光景が広がっていた。
「さあ、ゴーレム神様にお祈りを捧げるのです!!」
獣人たちに巨大ゴーレムの素晴らしさを説いている。
研修というよりは、宗教団体の入信の儀式に近いものに思えてしまう。まあ、大きなトラブルも起きていないし、見て見ないフリをしている。
一方、警備主任であるリオネッサ将軍も忙しそうだ。
なぜか分からないが、戦闘に特化した種族やゴーレム部隊員を集めて、軍事訓練を連日行っている。
「オーガ隊、オーク隊!!しっかりと呼吸を合わせろ!!ゴーレム部隊は素早く展開!!」
戦争でもするのだろうか?
またリオネッサ将軍は、フィリップが大隊長を務める北部方面隊にも出向いて、部隊員やスペンサー侯爵領兵に定期的に訓練を指導している。これはフィリップのたっての希望でそうなったようで、誰もよりも熱心に訓練しているのは、トップのフィリップだ。大隊長として、それでいいのかと思ってしまうが・・・
なので、リオネッサ将軍も忙しい。
「刑務官になったのに、軍にいるときと大して変わらんな。まあ、慣れた仕事だから文句はないのだが・・・」
刑務所内の部隊とフィリップの部隊、スペンサー侯爵領の領兵を合わせると小国なら一瞬で蹂躙してしまうくらいの戦力はある。一体誰と戦うのだろうか?
そして、アトラス刑務所の責任者であるバネッサ所長だが、一切刑務所の仕事はせず、ゴーレム研究と趣味でダンジョン関係のことばかりしている。まあ、最初から仕事をしていなかったから期待はしていないけど・・・
そんな中、俺の専らの仕事は渉外業務だ。
刑務所内での生産能力が格段に向上したため、クロネコ商会に卸す商品も増え、今では北部方面隊やスペンサー侯爵領兵、冒険者ギルドに直接武器や防具、ポーションを格安で卸している。というのも、リオネッサ将軍から相談があったからだ。
「北部方面隊の装備は酷すぎるな・・・その辺の盗賊団と大して変わらない装備だ。指導している身としては、何とかしてやりたい」
「分かりました。格安で納入できるようにしますよ」
当初は北部方面隊だけに卸していたのだが、フィリップが領兵や冒険者に自慢したことがきっかけで、冒険者ギルドや領兵にも卸すようになってしまった。
だから武器を取り扱っていないクロネコ商会は通さずに俺が直接やり取りをするようになってしまった。
今日も冒険者ギルドに商談に来ている。
ギルマスのドゥウェインさんが声を掛けてくる。
「それにしても、こんな質のいい武器や防具を卸してもらって助かっているよ。それにしても採算は取れるのか?」
「囚人の更生目的で作らせていますから、儲けは考えてません。ほぼ原材料費だけで十分なんですよ」
実際は、材料はただみたいに手に入るし、これでも十分に採算が取れるからな。
「それは有難いな。悪い役人だったら、暴利を貪るだろうけど」
「そんなリスクの高いことはしませんよ。安定した生活を送るには、それなりの給料があればいいんですよ」
「アレクは相変わらずだな・・・」
そんな雑談をしていたら、ドゥウェインさんが思い出したように言う。
「実は冒険者ギルドや国軍だけじゃなく、貴族学校もダンジョンを訓練施設として利用することを決めたそうだ。それで貴族たちも大勢こちらにやって来る」
「いい情報ありがとうございます。ミケに言えば、大喜びでしょうね。まあ、俺には関係ない話ですが・・・」
「関係なくはないぞ。アレクに頼みたいことがあるんだ。実は・・・」
ドゥウェインさんの頼みは、俺に貴族学校の学生の指導を頼みたいとのことだった。
固辞しようとしたが、「まだ借りは返してもらってない」と言われ、渋々引き受けることになった。
「冒険者は荒っぽい奴が多いから、貴族の指導には向いてないんだ。その点アレクは適任だ。実力も申し分ないし、貴族学校の卒業生だからな」
「そ、そうですか・・・」
「ということで、来月にも視察に学校関係者がやって来るから、頼むぞ」
また面倒なことを引き受けてしまった。
帰り道、ミケに会ったので、貴族学校の件を伝える。
「こうしてはいられないニャ!!貴族用の宿泊施設と高級レストランをオープンさせるニャ。料理はクマーラさんがいるから何とかなるとして、接客スタッフは足りていないニャ。センパイ・・・」
「俺は無理だぞ」
「センパイに働いてほしいというわけじゃないニャ。スタッフを用意してほしいという話ニャ」
「どっちも大して変わらないと思うけど・・・」
発展したら発展したで、忙しくなる。
俺としては、もっとのんびりしたいんだけどな。
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