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異世界のんびり刑務官~異世界で無双?そんなの俺は求めてない。ただ安定した生活がしたいだけなんだ!  作者: 楊楊
第四章 女王の帰還

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52 アトラスの真実

 俺は会場の隅で、楽しそうにレントン教授と料理を食べているバネッサ所長に声を掛けた。


「先程、女王陛下への挨拶を済ませました。詳しい事情については、所長に聞けと指示されました」

「それでは話してやろう。前に言ったかもしれんが、この地は多種多様な種族が平和に暮らしていた。ただ、最初からそうだったのではない。今から500年程前、初代スペンサー侯爵が様々な種族をまとめ上げたのじゃった・・・」


 バネッサ所長は刑務所にそびえ立つ壁を見ながら言う。


「その時代にこの巨大な壁も建設された。魔物が大挙して襲撃してくるスタンピード対策のためだ。初代スペンサー侯爵・・・獣人や魔族たちの中では初代魔王じゃが、彼の方のお蔭で様々な困難を乗り越えたのじゃ」


 やるじゃないか、転生者のセンパイ!!


「しかし、彼の方も完璧な人ではなかった。戦闘力があり、カリスマ性もあったが、統治方法はお世辞にもよかったとは言えん。彼の方は常々『みんなで仲良く話し合って、意見を出し合えば、きっと平和な世界が作れる』と言っておられたそうじゃ。彼の方が生きておられる間は問題は起こらなかった。しかし、彼の方が世を去られてから状況は一変する。当然じゃな・・・」


 転生者のセンパイも元日本人だ。民主主義が一番いい政治体制だと思っても仕方がない。というか、初代魔王だったとは・・・


「強い種族が弱い種族を虐げ、元々仲の悪かった種族同士で争うようになった。いよいよ危険な状態になった時にヴィクトリア女王陛下がお生まれになったのじゃ。この状況に心を痛められた陛下は、改革に乗り出す。初代魔王の教えを守りつつ、時代に合った統治をされたのじゃ」


 その方法は種族ごとに居住区を分け、それぞれが独自の文化や風習を重視する政策を取ったようだ。ただ、それだけでは種族間の対立が激化するので、お互いに認め合うことを義務付け、種族の代表者による話合いの場を持つようにしたそうだ。

 なかなか考えられている。ベストではないかもしれないが、いい政策だと思う。帝国史のレントン教授の授業で聞いた内容を思い出した。


「陛下の統治は上手くいき、立ち直るかに見えたのだが、悲劇が起こる。スタンピードが発生したのじゃ。国は荒れ果て、もう再建の道は閉ざされたと誰もが思った。しかし、陛下は希望を捨てなかった。共にスタンピードを対処してくれた人間の傭兵団に協力することになる。その傭兵団・・・というか盗賊団に近い集団がオンボーロ帝国の前身なのじゃ」


 1000年続く大帝国というのは大嘘だったようだ。元々が盗賊崩れの傭兵団だったなんて・・・


「傭兵団の団長は、中興の祖として名高いアルフレッド大帝じゃ。後の歴史学者が歴史を改ざんしたがな。アルフレッド大帝の逸話が多いのもそのためじゃ。話を戻すと、アルフレッド大帝は国を作り、国を大きくしたいという野望があった。陛下はこの地の復興と各地で虐げられている亜人や獣人の保護を条件にアルフレッド大帝に協力することになった。詳しいことは省くが、陛下の実力で瞬く間に領土が拡大し、多くの亜人や獣人たちが救われることになった。現在の領土の8割は、この時代に獲得したものじゃ」


「それは凄いですね。ところでなぜ陛下は囚人に?」


「人の世は栄枯盛衰を繰り返す。オンボーロ帝国とて、例外ではない。アルフレッド大帝の死後、徐々にオンボーロ帝国は傲慢になっていく。陛下や協力してくれた亜人や獣人たちへの敬意を忘れていく。人間至上主義の教えを掲げる教会が勢力を増してきたのも大きい。当初、陛下はアルフレッド大帝の妃であったのじゃが、都合が悪いと考えた帝国は、愛人に落とし別邸に住まわせた。副所長が以前勤務していた「嘆きの塔」がそれじゃ。そして、いつしか陛下は囚人となった。これも様々な理由があった」


 バネッサ所長は悲しそうな顔になり、言った。


「ここからは、あまり楽しい話ではない。今日という祝いの場に相応しい話ではないし、陛下の個人的な話も絡んでくる。わらわから言えるのはこれくらいじゃ」


「分かりました。ありがとうございます。最後に一つ質問ですが、なぜ陛下はこの地に戻られたのですか?」


「オンボーロ帝国を諦めたのじゃろう・・・それに・・・まあ、それも陛下が時が来れば話されると思う」


 バネッサ所長が語った内容が本当だとすれば、オンボーロ帝国の歴史なんて、嘘で塗り固められた虚構の歴史だ。それにしても、女王陛下がオンボーロ帝国を諦めたってどういうことだ?


「副所長、今日くらいは何も考えずに楽しめ。未来がどうなるか、分からんからのう・・・」


 これも意味が分からなかった。

 俺が一人で考えていると、フィオナ嬢とミケがやって来た。


「センパイ、こんな所で何をしているんですか?面白い催しをやっているんですよ」

「そうニャ。ゴーレム対戦をしているニャ。賭けもしているから、是非センパイの見解を聞きたいニャ」


「ミケは相変わらずだな。よし、見るだけ見に行ってみよう」


 よく考えたら、俺はただの刑務官だ。

 そんな大きな話なんて、関係ない。深く考えないことにした。



 ★★★


 次の日、各種族の代表者が集められ、会議が行われた。

 女王陛下が話し始める。


「昨日は楽しかったか?センパイ」


 ば、バレてる・・・

 なぜこの人は、俺がケンタウロスの女性と関係を持ったことを知っているんだ?


 不敵な笑みを浮かべながら、女王陛下が言う。


「センパイの悪食は置いておいて、我も楽しかったぞ。またこんな祭りが開けることを心から願っておる。そのために我らは、危機を乗り越えなければならん。近々、スタンピードが発生する」


 一同が騒然となった。

 女王陛下がこの地に戻って来られたのは、スタンピードに対処するためだったのか?


「もう一月も時間がない。協力して生き延びよう。特にセンパイ、期待しているぞ」


 これって、かなりヤバい流れだ・・・

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