51 女王の帰還
今日はいよいよお祭り当日だ。
朝から騒がしい。そういえば、お祭りの進行なんかはノータッチだった。まあ、飲んで騒いで踊る、その程度だろう。
会場には神殿のような物が建設され、その中には巨大ゴーレムが祀られている。
これには理由がある。地下室でゴーレムを完成させた場合、管理棟を壊さないと巨大ゴーレムは出撃できない。流石にゴーレムを出撃させるために管理棟を壊すなんてありえない。
バネッサ所長が言う。
「そんな単純なことも気づかなかったのう・・・」
バネッサ所長ような人は総じて、どこか抜けていることが多い。今の段階で気づいたことは、不幸中の幸いだと思う。
神殿の周りには、各種族を象徴するゴーレムも祀られている。
今もクーネがゴブリンの子供たちをアラクネゴーレムに乗せてあげている。俺に気づいたクーネが手を振ってきたのだが、どうにも気まずい。
その周りには、多数の屋台が立ち並んでいて、既に出来上がっている者も大勢いた。
俺が一番驚いたのは、来賓だ。
スペンサー侯爵御一家はもちろんだが、帝都で何度か顔を見た貴族もいる。確実に分かるのは法務大臣だけだが、誰もが局長や大臣クラスなどの上級官僚だと思われる。そんな中、何とミケが来賓席に座っていた。
「何でお前がここにいるんだ?」
「それはセンパイでも言えないニャ。クロネコ商会の次期商会長としての出席とだけ言っておくニャ。それ以上のことは、口が裂けても言えないニャ」
意味が分からない。
同じ来賓席には、正装をしたレントン教授が座らされているが、他の出席者に比べたら、今更だと思う。
俺は一緒に会場を周っていたフィオナ嬢に聞いてみた。
「フィオナ嬢は何か知っているのか?」
「はい・・・でも言えないんです。流石にセンパイでも・・・」
謎は深まるばかりだった。
しばらくして、リオネッサ将軍の気合いの入った声が響き渡った。
「総員傾注!!静粛に!!これより御帰還の儀を執り行う!!」
リオネッサ将軍が司会?
それも聞かされていない。それに御帰還の儀ってなんだ?
バネッサ所長が仮説ステージに登場し、遅れて閣下もステージ上に現れた。
そして、閣下は何とマスカレードマスクを外し、フードを脱いだ。閣下は褐色の肌をした魔族の女性だった。俺たち人間と姿形は変わらないが、額に角が生えている。
魔族なんて、絶滅したというのが定説だ。俺はかなり驚いていたが、来賓はおろか、会場の誰も何も言わない。
式典は進行し、バネッサ所長が閣下の前に歩み出て、書状を広げて読み始めた。
「魔王国女王ヴィクトリア殿。ここに懲役200年の刑が終了したことを認める。第110代オンボーロ帝国皇帝ドリエスト・オンボーロ」
閣下が魔王国の女王?
それに200年の刑が終了した?
流石に皇帝陛下の名を騙ることはないだろうけど。
俺が困惑していると、再びリオネッサ将軍の気合いの入った声が響き渡る。
「総員!!敬礼!!」
来賓の貴族を含めて、会場にいる全員が跪いた。
跪いていないのは、俺とレントン教授だけだった。そのレントン教授もバネッサ所長が魔法で操って、ワンテンポ遅れて跪く。
俺は空気が読めるほうだ。
流石に立ったままだと、不味いと感じた俺は、みんなに習って跪いた。意味が分からないけど、そうすることがこの場では、正解だと判断した。
一呼吸おいて、バネッサ所長が言う。
「お帰りなさいませ、女王陛下」
それに合わせて、皆が唱和する。
「「「お帰りなさいませ!!女王陛下!!」」」
しばらくして、閣下が話し始める。
「うむ。皆の者、待たせたな。あれこれ長い話をする気はない。難しい話は明日行う。今日は盛大に飲んで騒げ。我の出所祝いだ。飲んで歌え!!」
そこからは、乾杯の合図もなく、盛大な宴が始まった。
そこら中から、「女王陛下バンザイ!!」という声が聞こえてくる。呆気に取られている俺にフィオナ嬢が言う。
「これは私も最近知ったことなんですが、閣下は、魔王国のヴィクトリア女王陛下だったのです。スペンサー侯爵家では、当主と次期当主以外は知らされない情報です。私は陛下と近い関係にあり、そのうち知ることになるということで、早めに教えていただきました」
俺とフィオナ嬢が話していると、ミケもやって来た。
「クロネコ商会も陛下とは関係が深いニャ。私も次期当主に認められて初めて、このことを知ったニャ。これは極秘事項だから、センパイにも言えなかったニャ。ごめんなさいニャ」
「情報が情報だけに怒っていないよ。でも流石に思考が追いつかないな・・・」
「私も聞いた時はびっくりしました。詳しい事を教えて差しあげたいのですが、どこまで話していいのか分かりませんので、直接陛下にお聞きになられてはどうでしょうか?」
「直接聞くのか?」
「ええ・・・陛下はセンパイのことを高く評価しているので、教えてもらえると思いますよ」
「私もそう思うニャ」
俺はフィオナ嬢とミケに促されて、女王陛下の元に向かう。
貴族や各種族の族長たちが、女王陛下への挨拶の順番待ちで列をなしていた。順番を待ちながら、どんな作法なのかを学ぶ。どうやら、決まった作法はないようだった。
俺の順番が来たので、皆に習ってお祝いの言葉を述べる。
「女王陛下、この度はご帰還おめでとうございます」
「センパイ、驚いたか?」
「はい、とても・・・」
「時間がないので、今この場で詳しいことは教えてやれないから、バネッサにでも聞いてみることだな。我が許可したと言えば、教えてくれるだろう」
「ありがとうございます」
別れ際、女王陛下は言った。
「センパイからは多くのことを学んだ。センパイが常々口にしている「安心」「安全」「安定」「穏やかな生活」・・・その意味が分かった気がする。つまり、誰もが安心して平和に暮らせる国を作り、安定させよ、ということだな?引き続き我に力を貸してもらうぞ」
「は、はい・・・」
「期待しているぞ」
女王陛下も俺に勘違いをしているようだった。俺はただ安心安全な生活を求めていただけで、国を良くしようとかは、微塵も思っていない。
その場の空気に流されて、女王陛下に力を貸すと約束してしまったが、このことがきっかけで、安心安全な人生とは程遠い人生を送ることになるとは、この時は夢にも思わなかった。
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