46 予算が・・・
俺たちは、これから8年間無給という衝撃の事実を知らされ、途方に暮れていた。
すぐに生活に困ることはないが、流石に8年間も無給だと将来設計が狂ってしまう。
フィオナ嬢が言う。
「8年間無給は流石に厳しいですね」
「うむ。私にも多少の貯えはあるが、流石になあ・・・ところでセンパイ、何か策はないのか?」
俺はすぐに刑務所の規定を確認した。
刑務官はあまり副業は奨励されていない。副業をするには刑務局長と法務大臣の承認が必要だ。俺もフィオナ嬢もリオネッサ将軍もアトラス刑務所に勤務して1年未満だから、承認される可能性は低いだろう。
となると・・・
「副業をするのは、現実的ではありませんね。なので、刑務所の事業として収入を得て、それを俺たちの給料に当てようと考えてます」
「具体的にはどうするのだ?」
「ミケに一肌脱いでもらいましょう。散々世話をしてきましたからこの際、借りを返してもらいましょう」
俺が考えたのは、特別な策ではない。
刑務所内の各種族が作ったり採取した物をミケに買い取ってもらうことだ。俺は商人ではないが、冒険者としてそれなりに目利きはできるし、依頼で商取引も経験したことがある。その俺からしても刑務所内の素材はかなりの物だと思う。目ざといミケならすぐに食いつくだろう。それに刑務所の事業については、バネッサ所長の承認があれば実施可能だ。バネッサ所長に許可を求めたところ、「妾に迷惑が掛からないなら、勝手にせよ」と言われた。
次の日、早速ミケを呼び出した。
「私に買い取ってもらいたい商品があるってことかニャ?それは構わないけど、商品によるニャ。いくらセンパイやフィオナの頼みでも、商売は商売ニャ。力になれないこともあるニャ」
「ミケ、あれ程世話してやったのにその言いぐさは何だ?」
「センパイには感謝しているけど、こっちにも事情があるのニャ。アトラスにやって来て、商売に行き詰っているのニャ。町の規模は小さいし、アトラス産の商品は軒並み競争力はないニャ。今はクマーラさんが頑張ってくれているレストラン部門の収益で、何とかやりくりしているのニャ。だから、あまりサービスはできないのニャ。力になってあげたいけど・・・」
フィオナ嬢が言う。
「そうですね・・・アトラスはあまり栄えていませんからね。スペンサー侯爵領の収益のほとんどは最南端の都市ムーデンですからね。領都をムーデンに移すという案も度々出るくらいですからね。すべて断ってますが・・・」
普通ならアトラスで新規に商売を始めるなんて考えない。ではなぜ、クロネコ商会はアトラスに進出したのか?
それはミケが、クロネコ商会の次期商会長に相応しいかどうかの試験のようなものらしい。
今まで上手くいっている商売を引き継ぐのではなく、商売に向かない土地で商売を軌道に乗せることが評価の対象だそうだ。だから、ミケもそれなりに覚悟してアトラスにやって来たのだが、かなり苦労しているようだ。まあ、俺が商人でもこの土地を選ぶことはないだろう。
「ミケは他の都市に売る商品が無くて困っている。俺たちは商品を売りたい。だったら利害は一致していると思うぞ」
「それは商品を見てからニャ。流石にこっちも資金が足りないから、厳しく査定させてもらうニャ」
買い取ってくれるなら、多少安くてもいい。だって、こっちは俺たちの労力だけで原価は掛からないからな。
見繕っていた商品をミケに見せる。
しばらくして、ミケは驚きの声を上げた。
「これは凄いニャ!!金鉱を掘り当てたくらいの大当たりニャ!!ムーデンはおろか、帝都でも高値で売り捌けるニャ。特に鉱石類や武器類、酒類や織物はかなりの高値になるし、外国へ輸出すれば相当な高値で売れるニャ。これなら帝都の本店に・・・」
ミケは自分の世界に入ってしまった。
しばらくして、こちらの世界に帰って来たミケに声を掛ける。
「取引成立ということでいいか?」
「もちろんだニャ」
細かい値段についてはミケに一任することにした。流石に俺たちを騙すようなことはしないだろう。そんなことをしたら、縁を切るけどな。
商談が一段落したところで、久しぶりにミケとお茶を飲むことになった。閣下も一緒だ。
「こ、これは・・・旨すぎるニャ。どうやってこれを・・・」
ミケが言うには、ホットケーキもかなりの高額で売れるそうだ。
すぐにクマーラさんを呼び出していた。クマーラさんの到着を待って、ホットケーキの説明をする。
「この石にこんな使い方があったなんて驚きだよ。私を含めて、料理人でも洗剤くらいにしか思ってない奴ばかりだけどね」
実際、クマーラさんは洗剤としてこの鉱石を使っていた。
「後は単純だね。すぐにでも量産できるよ」
「これをクロネコ商会アトラス支部の主力商品にするニャ」
ホットケーキについては、売り上げに応じてマージンを貰うことで話がついた。
この世界に来て初めての不労所得だ。ただ、悲しいかな俺の財布には直接入って来ない。
★★★
1ヶ月後、クロネコ商会アトラス支部から入金があった。かなりの額だ。報告書を作成し、バネッサ所長に報告する。俺たち三人分の給料を差し引いてもかなりの額が残る。この資金を利用して刑務所の設備投資を行ってもいいし、新商品の開発をしてもいい。まあ、ボーナスを支給してもらっても一向に構わないけど。
しかし、バネッサ所長は驚きの発言をする。
「ほう・・・これなら更なるパーツを開発できるな。残りはすべて研究費に当てよう」
膝から崩れ落ちそうになった。
俺が呆気に取られているところで、フィオナ嬢が言う。
「所長、ところで何の研究をしておられるのですか?」
「世紀の大発明をしておるのじゃ」
「見せていただいてもよろしいでしょうか?私も魔導士の端くれ、できればそのお手伝いをしたいと存じます」
「そこまで言うなら、見せてやらんこともない。ついて参れ」
フィオナ嬢は俺に目配せをしてくる。
何とか、資金難の原因を解決してほしいということだろう。
想像だが、碌でもない研究をしているのだと思う。
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