44 帝都へ
バネッサ所長の指示で、亡くなった旦那さんとの思い出の料理を作るように命じられた俺は、フィオナ嬢とリオネッサ将軍とともに刑務所内の集落を周っている。
「まるで商人だな・・・」
「ミケが職員になってくれたら、助かるんですけどね・・・」
囚人たちに食材を分けてもらうのに俺たちは物々交換をしている。
一例を挙げると、エルフの集落で果実酒とフルーツを仕入れたら、ドワーフの集落で農具と交換し、その農具を持って、小麦を作っているゴブリンの集落に持って行く。うどんを作るためだ。
貨幣経済の便利さを改めて痛感する。
管理棟に戻って、うどんを作っていたら、バネッサ所長に声を掛けられた。
「食後に帝都に向かうぞ。帝都での手続きを教えてやる。次からは一人で行ってもらうからのう」
これから帝都って・・・一体、何日掛かると思っているんだ?
その疑問はすぐに解決する。
食後、所長室の隠し部屋に案内されたのだが、そこには転移の魔法陣があった。転移魔法なんて、伝説に近い魔法だ。貴族学校では、理論上はできるが高度の魔法技術が必要だし、莫大な魔力も必要だから実用化は難しいと習っていた。
フィオナ嬢が驚きの声を上げる。
「これは、世紀の大発明です!!まさかこんな所にあるなんて・・・」
リオネッサ将軍も続く。
「軍事の常識が根底から覆されるな。公表するにしても、まずは防衛戦略を構築してからだな」
バネッサ所長が言う。
「妾にしてみれば、大したことではない。しかし、警備主任が言ったような事態を想定して、公表はしておらん。それに魔力消費量が馬鹿にならんからな。数人を転移させるだけでもかなりの魔石を消費するからのう」
バネッサ所長によると、そう頻繁には使えないようだった。
「分かりました。こちらの準備はできていますので、いつでも出発できますよ」
「そうか。だったら、妾も準備をしよう」
バネッサ所長はそう言うと、クローゼットの中に入って行った。
しばらくして、俺たちは驚きの光景を目にする。バネッサ所長は死体を引きずって出て来たのだ。その死体には見覚えがあった。ハゲた頭、焦点の定まらない目・・・
「レントン教授!?」
「そうじゃ。我が最愛の夫、ルーク・レントンじゃ。もうこの世にはおらんが、躯は使わせてもらっておるのじゃ。プロポーズの時、『死んでも君の側に居て、君を幸せにする』と言われたからのう。約束は守ってもらわんとな。じゃから、躯をゴーレム化して使っておるのじゃ」
レントン教授にしてみたら、そこまでは想定していなかっただろう。
俺たちが呆気に取られていると、また驚きの光景が飛び込んできた。レントン教授の死体の背面にはジッパーが取り付けられていて、バネッサ所長はジッパーを開けてレントン教授に入ってしまった。
「準備は整ったぞ。副所長よ、参ろうか?」
「は、はい・・・」
思考が追いつかない。
俺が茫然としているとフィオナ嬢が質問する。
「所長・・・なぜこんなことを?流石に倫理的に・・・」
「これにはそうせざるを得ない理由があるのじゃ・・・」
バネッサ所長が幼女の姿になったのは、レントン教授の寿命を延ばすためだったそうだ。そのためにありとあらゆる実験を繰り返していたという。しかし、結果は失敗に終わり、実験中の事故でバネッサ所長は幼女の姿になってしまったらしい。
それで困ったバネッサ所長はレントン教授をまだ生きていることにして、一人二役を始めたというわけだ。つまり、貴族学校で授業をしていたのも、「嘆きの塔」にやって来て、リオネッサ将軍のゴーレムを作ったのも、バネッサ所長ということだ。
魔導士は総じて、寿命は長い。
これには魔力量が影響していると考えられている。なので、かなり高齢でも「まあ、そういうものか」で、今までは何とかなったようだった。
「流石に幼女の姿では、妾がバネッサとは信じてもらえん。じゃから仕方がないのじゃ」
それはそうなんだろうけど、これっていいのか?
「おっと、もうこんな時間じゃ。副所長、参るぞ」
「は、はい・・・」
俺はバネッサ所長に催促されて、転移魔法陣に入った。
★★★
転移した先は、帝都の貴族街にある邸宅だった。
俺もこの辺で育ったから分かる。子供の頃から幽霊屋敷として噂になっていた邸宅だ。無人のはずなのに急に灯りがついたり、人の話し声が聞こえたりという噂が絶えない邸宅だ。子供の頃からの謎が解けた瞬間だった。
「とりあえず、手続きを済ますぞ。まずは法務省からじゃ」
「分かりました」
そこからは、レントン教授になりすましたバネッサ所長とともに役所を巡る。
まずは法務省で手続きを行う。
「所長のバネッサの代理で来たレントンじゃ。手続きを頼む」
「はい。少々お待ちを」
しばらくして職員が書類を持って来た。
「こちらに受け取りのサインをお願いします」
「おい、副所長。お前がサインをせよ。今後はお前が手続きを行うからな」
「はい」
どうやら、俺への引継ぎを兼ねているようだった。
「えっと・・・副所長の・・・」
「アレク・サンドルです。刑務局に勤務しています。職員番号は57405です」
「分かりました。後の手続きはこちらでやっておきます」
手続きが完了した後にバネッサ所長が言う。
「ところで、予算の申請はどうなっておる?」
「流石に下りませんよ。既に3年分を支給していますからね」
「そうか・・・なら、仕方がない」
それで法務省での手続きは終了した。
続いて、教育省や魔法省でも手続きを行った。俺には詳しいことは分からなかったけど、バネッサ所長はレントン教授の恩給を受け取っているようだった。どう見ても不正受給だ。俺は知らないうちに不正の片棒を担がされていたようだ。
一通り、役所での手続きが終り、邸宅に帰ってきたら、もう日が暮れていた。
バネッサ所長が言う。
「折角じゃから、実家に顔を出してはどうじゃ?そうそう、ここに来ることもないしのう」
「お気遣い感謝します。顔だけ出したらすぐに戻ってきます」
「ゆっくりでよいぞ。手土産にこれでも持って行け」
手渡されたのは、アラクネたちが作った織物だった。
アラクネは下半身が蜘蛛で、蜘蛛の糸のようなものをスキルで出すことができる。それを織物にしたものだ。
俺はバネッサ所長にお礼を言って、実家を訪ねることにした。
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