40 アトラス刑務所
アトラスの町は、領都とは思えない程、こじんまりとしている。
のどかな田舎町といった感じだ。フィオナ嬢が言うには、これには理由があるという。
「我がスペンサー侯爵領で一番発展しているのは、最南端の都市で玄関口となるムーデンです。領都に近づく程、町の規模は小さくなっていきます。領都アトラスは最北端の町で、これには理由があるのですが、話が長くなるので、父のほうから説明をしてもらいます」
そんな話をしている内に俺たちは領主館に到着した。
この頃には、フィオナ嬢は魔法少女ナナから元のフィオナ嬢に戻っていた。コスプレ状態で家族に会うのは流石に不味いと思ったのだろう。
領主館では、盛大なもてなしを受けた。
領主のスペンサー侯爵自ら、閣下に臣下の礼を取っていた。
「ようこそお越しくださいました。ささやかですが、宴を準備しております」
「ご苦労。楽しみだな。ここの料理は旨いからな」
すぐに案内され、宴が始まった。
言葉どおり、スペンサー侯爵側は、スペンサー侯爵、侯爵夫人、フィオナ嬢の弟で次期当主のヘンリー君しか同席していない。こちらは、ちゃっかりミケとクマーラさんが同席していた。顔つなぎのためだそうだ。
しかし、料理は豪華ではなかったが、味は最高だった。
それにこの料理はなんと和食だった。転生して初めての和食に俺は一心不乱に掻きこんだ。
「センパイは気に入ると思っていましたよ」
フィオナ嬢に続いて、ミケとクマーラさんが感想を述べる。
「どことなく、センパイの料理と似ているニャ」
「そうだね。食材や何かは違うけど、同じ流れを汲む料理といった印象を受けるよ」
それはそうだろう。だって俺の前世は日本人だからな。
お腹も落ち着いたところで、スペンサー侯爵がおもむろに言う。
「センパイ・・・いやアレク・サンドル殿。我は貴殿が初代当主アトラスの生まれ変わりだと思っている」
衝撃の発言だった。
俺が驚いているのも気にせず、スペンサー侯爵は話を続けた。
「貴殿がフィオナに語った魔法少女伝説は、初代当主アトラスの語った異国の物語に酷似しているのだ。普段は目立たない普通の男が、変身して悪を打ち倒す・・・おい、あれを持って参れ!!」
スペンサー侯爵の指示で運ばれてきたのは、初代当主アトラスの肖像画だった。
痛い・・・痛すぎる・・・
普通の肖像画と、覆面を着けて変身したバージョンが数種類あった。完全に痛い奴だった。
覆面やコスチュームはどう見ても、日本の戦隊ヒーロー物をモチーフにしていた。秘密の変身ヒーロー設定なのに素性がバレているところがまた痛い。フィオナ嬢が魔法少女にこだわった理由も何となく理解できた。
「初代アトラスは異国から転生したと語っていたそうだ。その時、創造神から大いなる力と使命を授かったようだが・・・」
話を聞くかぎり、俺より前に転生した元日本人のセンパイなんだろう。
そこからは、延々とアトラスの武勇伝を聞かされた。
その話の中には興味深いものもあった。転生者には使命があるということだ。そういえば、転生の時に女神様は、俺に何かをしてほしい空気を漂わせていた。結局俺は、使命とか気にせずに転生してしまったのだが・・・
「アトラスのジョブは、「変身ヒーロー」というジョブで、変身すると能力が格段に上がるといったものだった。その分、普段は冴えない男だったようだが・・・まあ、真偽の程は定かではないがな」
多分、アトラスはこの世界で戦隊ヒーローのようなことをしたかったのだろう。
「アトラスの時代に高くそびえ立つあの壁を建設したようだ。アトラスの遺言には「必ず、壁を守れ」と記されている。そういうわけで、我らスペンサー侯爵家は代々この地を領都として、守り続けているのだ」
フィオナ嬢が言う。
「センパイ、どう思いますか?」
俺にコメントを求められても困る。
「そうですね・・・素晴らしい方だったんでしょうね。ただ、俺はアトラスの生まれ変わりではないとは思いますが・・・」
「転生の時に記憶を失うことがあるとのことだ。まあ、気長に思い出してくれ」
俺の前に先輩転生者がいても不思議ではない。それについてはそういうものだと思う。でも使命については気になるな。
「ところで、アトラス様が授かった使命とは何なのでしょうか?」
「それは分からないのだ。その使命が何なのか分かれば、我々子孫も動きようがあるのだがな」
「そうですか・・・」
まあ、使命については気にしないことにした。
俺は、女神様から使命を授かったわけでもないから、転生させてもらったお礼に少しは、女神様の願いを叶えてあげたいと思う程度でしかない。
ただ、安定した生活が送れればそれでいいしな。
そんな感じで、食事会は楽しく終了した。
美味しい和食を食べられたし、アトラスの話もそれなりに面白かったし、大満足だ。
★★★
領主館で一泊した俺たちは次の日、ミケやクマーラさんと別れ、アトラス刑務所に向かう。
ここでも盛大な見送りを受けた。囚人にここまでするのかと思ってしまうが、もう今更だ。
アトラス刑務所の門で、同行してくれていた領兵とは別れた。
魔法少女ナナとライオンマスクはそのまま同行する。
「お二人もここで任務完了ではないのですか?」
「事情があるんですよ」
「私もな」
まあ、俺一人だと心細いから助かる。
だって、アトラス刑務所がどんな施設か分からないからな。
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