39 護送 2
旅は順調だった。2週間の日程だったが、大きなトラブルは起こらないし、行く先々でかなりのもてなしを受けた。
というのも、宿泊先はほとんどが領主館か、その町の最高級の宿屋だったからだ。料理も美味しいし、サービスも凄かった。俺がこの世界に来て経験した中で、一番優雅な体験だった。
囚人の護送と知らない一般人にしたら、大貴族のご旅行としか思われなかっただろう。
まあ、そんな順調な旅も多少のトラブルは起こる。
その原因となったのは、兄フィリップだ。旅の最初の頃は、護送されている閣下に上から目線で接していた。
「きちんと罪を償って、更生しろよ。もし就職先に困ったら、俺が面倒を見てやってもいい。下女の一人くらいなら、大隊長権限で雇えるからな」
これには俺もフィオナ嬢もリオネッサ将軍も青ざめる。
閣下を下女扱いするなんて・・・
流石の閣下も動揺しているようだった。
「そ、そうか・・・その時は頼む・・・」
「任せておけ。刑務所では掃除や洗濯、料理なんかを習うといい。高い給料は払えないが、生活に困らないくらいの給料は出せるはずだ」
そんな馬鹿な兄貴のフィリップだが、滞在先の領主や有力貴族の態度を見て、流石に閣下がヤバい人だと気づく。フォクスさんや他の部隊員は初日で気づいていたけどな。
俺もそれとなく、フィリップに言う。
「閣下は無実の罪かもしれないんです。名前も言えないような高貴なお方で・・・」
閣下が無実かどうかは分からないが、フィリップがこれ以上、閣下に無礼を働かないようにするためにそう言った。嘘も方便というやつだ。
するとフィリップは、驚きの行動に出る。俺の言葉を真に受けてしまった。
旅が始まって4日後、閣下に臣下の礼を取っていた。
「閣下!!必ずやこの私が閣下の無実を晴らしてみせます。こう見えて私は、オンボーロ帝国軍元帥のリオネッサ将軍の一番弟子で、最も信頼のおける士官でもあるのです。閣下のためなら、軍を動かすことも可能です」
どこからツッコミを入れていいのか分からない。
リオネッサ将軍の一番弟子でも、最も信頼のおける士官でもないし、リオネッサ将軍の力を持ってしても、軍を動かすことはできない。その前に個人的な理由で、軍を動かしたら駄目だけど・・・
「期待しているぞ。その時は騎士団長に取り立ててやろう」
「はっ!!ありがたき幸せ」
大隊長が勝手にどこの誰とも分からない人の騎士団長になったら駄目だろう・・・
俺は、そっとしておくことにした。
そんなフィリップだが、リオネッサ将軍やフィオナ嬢にも絡んでいた。
ある日の休憩時間中の話だ。
「俺はリオネッサ将軍の一番弟子だから、君たちにちょっと指導してやろう。どこからでも掛かってきなさい」
知らないって怖いね・・・
今はライオンマスクという冒険者の恰好をしているが、中身はリオネッサ将軍だし、フィオナ嬢も変な恰好はしているが、Aランクの冒険者だ。フィリップが敵う相手ではない。当然、フルボッコにされていた。
落ち込んでいるフィリップを可哀想に思ったのか、フィオナ嬢はフィリップに風魔法を足や背中から噴射して高速移動する技や拳に風魔法を纏わせて殴るトルネードブロウを教えていた。
特にトルネードブロウはフィリップの琴線に触れたようだった。
「魔法少女ナナ、貴殿のことを師匠と呼ばせてくれ。俺も仕事が休みの時は魔法剣士フィリップとして、冒険者活動をしようと思う。よければ「仮面舞踏会」に入れてくれ」
「まあ、練習生からであれば・・・」
フィオナ嬢が困っていたので、俺が「適当に話を合わせていたら、そのうち忘れる」と助言した。
フィリップは身体能力も高いし魔力量も多い。器用か不器用かで言えば、かなり器用なほうだ。風魔法による高速移動とトルネードブロウを身につけたフィリップは、自分で応用を始めた。
これにはリオネッサ将軍も感心していた。
「馬鹿な奴だが、向上心は人一倍あるな。それに応用力もある。奴が無名なのが信じられん・・・」
調子に乗ったフィリップは、火魔法で応用していた。
剣に火魔法を纏わせて、その辺にいる魔物を狩っていた。この時点で、護送という本来の任務を忘れているのだが・・・
「ファイヤースラッシュ!!」
勝手に必殺技に名前を付けていた。
かなりの威力で、魔物は真っ二つになり、黒焦げになっていた。
「アレク、どうだ凄いだろ?」
「そ、そうですね・・・凄いです」
俺が開発した技の応用だとは、言わないことにして、褒めてあげた。
ここからがフィリップの残念なところだ。移動中も常時、剣に火魔法を纏わせていたので、魔力切れで気絶してしまった。火魔法を纏わせている間は、常時魔力を消費する。少し考えたら、子供でも分かることだが・・・
リオネッサ将軍が言う。
「奴が無名のままだった理由が分かった気がする・・・」
これで終わらないのが、フィリップのフィリップたる所以だ。
ある日の移動中に突然、フィリップが悲鳴を上げた。
「ギヤー!!」
フィリップを見ると全身が火だるまになっていた。
俺が慌てて水魔法を出して消火する。
「フィリップ兄さん、どうしてこうなったんですか?」
「背中から火魔法を出したら、カッコいいと思ってな。そしたら服に燃え移って・・・」
俺も子供の頃に同じ失敗をしたことがあるが、大人になって同じ失敗をする奴がいるとは思わなかった。
それから、フィリップの治療やなんかで、その日は野宿になってしまった。
急遽行程を変更する場合は、手続きが煩雑なんだから、勘弁してくれと思ってしまう。
「火魔法を背中から出すのは駄目だな・・・今度は土魔法にしよう」
もうやめてくれ・・・
★★★
そんな賑やかな旅も終わりを迎える。
俺たちはスペンサー侯爵領の領都アトラスに到着した。町に入る前から巨大な壁が目視できた。高さ100メートルはある壁だ。多分あれがアトラス刑務所なのだろう。
すぐにアトラス刑務所には向かわず、俺たちは領主館に向かった。領主であるスペンサー侯爵に挨拶をして、それから領兵と共にアトラス刑務所に向かう行程だ。なので、ここでフィリップとはお別れだ。
「アレク、何かあれば俺を頼れよ」
「はい、フィリップ兄さんもお気をつけて」
フィリップは俺だけじゃなく、みんなとも挨拶を交わしていた。
「魔法少女ナナ師匠、また指導を頼む」
「今度は一緒に冒険の旅に出ましょう」
「うむ」
「ライオンマスク、貴殿には一度も勝てなかったな・・・」
「気にすることはない。貴殿はセンスがある」
「ありがとう。リオネッサ将軍に挑戦する前にまずは、貴殿を倒すことを目標にする」
「いつでも掛かってこい」
知らないって怖いねえ・・・
そして閣下にも挨拶をしていた。ここでも臣下の礼だった。
「必ずや閣下の無念を晴らしてみせます」
「うむ・・・無理はするなよ・・・」
颯爽と去って行くフィリップだった。
フィリップが去った後、俺はみんなに謝罪をする。
「兄が本当にすみませんでした」
「私は楽しかったですよ」
「私に真っ向から挑戦してくる奴は久しぶりだ。新鮮だったぞ」
「退屈しなかったから、気にするな」
みんな、フィリップには優しかった。
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