37 プロローグ
その日俺は、衝撃の事実を上司に告げられた。
「えっ!!人事異動ですか?」
「そうだ。栄転だぞ」
「それにしても・・・」
「君の年齢で副所長は凄いぞ。何かコネがあるのか?まあいい。それと併せて、こっちのほうも任せたぞ」
俺は上司が渡してきた人事異動の辞令書と命令書を確認した。
「これって・・・」
「本人に告知するのは当日だ。暴れたら面倒だからな。当日はルートナー伯爵にも来てもらうし、私も同席する」
人事異動の辞令書については、俺が騎士爵に叙勲され、オンボーロ帝国で唯一のアトラス刑務所の副所長になることが記載されていた。かなり憂鬱だ。極悪人が多数収容されている刑務所に異動なんて・・・
そして、もう一つの命令書には・・・
俺にとっては、こっちのほうが憂鬱だった。
★★★
その日の夜、実家から呼び出しがあった。
用件については、教えてもらえなかったが、俺の昇進と人事異動について報告するいい機会だと思った。次の異動があるまでは、帝都を離れなくちゃならないからな。
両親は、昇進を喜んでくれるだろうけど、帝都を離れることは少し複雑な心境だろう。
そんな思いを抱えながら、俺は実家に向かった。
実家に着くと、既に長男のマイケルは到着していた。食卓を囲みながら、父が言う。
「フィリップは少し遅れるようだから、後で言うとして、これからお前たちに言うことがある」
俺もマイケルも神妙な顔になる。
「どういうわけか、この年齢で昇進した。それも課長だ」
悪い話じゃなくて、ほっとする。
「おめでとうございます、父上」
「凄いですね。子爵位で課長クラスとは驚きです」
俺とマイケルがお祝いの言葉を述べた。
しかし、父の表情はすぐれない。
「形だけならな・・・移動先は同じ魔法省だが、備品管理課だ。まあ、噂は聞いているだろ?」
備品管理課・・・それは魔法省において、事実上の戦力外通告だ。
各省庁には慣習として、そういった部署が存在する。父の場合、形上は昇進だが実際は左遷というか、飼い殺しに近い。まるで、リオネッサ将軍のようだ。
これにマイケルが続く。
「私も昇進が決まりました。同じ教育省の資料室の室長です。この年齢で室長職は、かなり昇進が早いほうですが、実際は・・・」
教育省の資料室も閑職だ。
となると、何か大きな力が働いていることは誰にだって分かる。俺も流れで報告する。
「俺も昇進が決まりました。アトラス刑務所の副所長です。アトラス刑務所自体が謎の部署ですから、詳しくは分かりませんが、流れ的にそういった人事ではないかと・・・」
暗い雰囲気になる。
母が気を遣って言う。
「昇進は昇進よ。お給料は上がるんでしょ?だったらいいじゃないの・・・そう思いましょうよ・・・」
「そ、そうだな・・・昇進は昇進だ」
「え、ええ・・・クビになったわけじゃないですからね」
「俺もです。この年齢で副所長だったら、同期でも出世頭ですよ」
この家族は空気が読めるから、みんな落ち込んでいる気持ちを隠して、努めて明るく振る舞う。
会話は自然と仕事の話から他愛のない世間話に移っていく。
そんな時、フィリップが満面の笑顔でやって来た。
「父上!!母上!!それにマイケル兄さん!!そしてアレク!!」
どうしてコイツはこうも空気が読めないのだろうか?
「俺、昇進しました!!大隊長です!!」
フィリップも昇進してしまったようだ。
もうここまでくれば確定だろう。フィリップ以外はそう思っているが、フィリップがあまりにも嬉しそうなので、そういった会話はなかった。気を遣った父がフィリップに言う。
「ところで、配属先は決まったのか?」
「まだ決まってません。でもどこへ行っても、任務を完遂してみせますよ」
「そ、そうか・・・」
俺も気を遣ってフィリップに言う。
「父上もマイケル兄さんも、実は俺も昇進したんです。多分、マジノ砦奪還作戦の功労者であるフィリップ兄さんの影響かもしれないですね。感謝します」
「そうなのか!?やっとみんなに胸を張れる仕事ができて嬉しいよ。今日はみんなで、いっぱい飲みましょう。いい酒を持って来たんです」
それからもフィリップは上機嫌だった。
かなり嬉しかったのか、早々にフィリップは酔い潰れて寝てしまった。フィリップが寝たのを確認した父が言う。
「お前たちも気づいていると思うが、どうもおかしい。何かの力が働いているのだろう」
「そう思います。原因はマジノ砦の関係でしょうか?」
「間違いないだろう。それと、フィオナ嬢の一件も関係があるかもしれん。あれで皇太子一派に少なからず恨みを買ったからな。つまり、私たち一家を良く思わない権力者がいたということだ」
「父上、兄上・・・その流れで言うと、俺もフィリップ兄さんも・・・」
「そういうことだ。身の危険を感じるようなことがあれば、遠慮せずに辞めて帰って来い。お前なら、すぐに次の職場が見つかるだろう」
「私もそう思います。まだアレクはいいが、フィリップが心配です。軍人ですから、かなり危険な任務に就かされるかもしれませんね」
父とマイケルは閑職、俺は意味不明の謎の職場、フィリップは危険な戦地・・・絶対に報復人事だ。
俺は思わず口に出た。
「何がいけなかったのでしょうか?」
「それは分からん。人生、こういったこともある。まあ、クビになるわけでもないから、まだマシなほうだ」
食事会が終わり、帰路に着く。
俺は自問自答する。
俺はただ、安定した生活を送りたかっただけだ。
もし過去に戻れるなら、フィオナ嬢やリオネッサ将軍を見捨てる選択をしたほうがよかったのか?
当然だが、答えは出ない。
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