27 再捜査
俺は今、オンボーロ帝国軍第三駐屯地に来ている。
どういうわけか、まるで皇帝陛下でも到着したかのような、盛大な歓迎を受けた。多くの部隊員が整然と整列して、俺に敬礼してくる。
「待っていたぞ、アレク!!」
「フィリップ兄さん、これは一体?」
「そんなの俺に相談に来た可愛い弟のために決まっているだろ」
俺が訪ねたのは、痛すぎる兄フィリップだ。これでも小隊長をしているからな。
しかし、俺に頼られるのが嬉しいのは分かるが、やりすぎだろう。小隊長の職権乱用に他ならない。この時点で、来なければよかったと思ってしまった。
すぐに応接室に案内された。
「家族の中で、まず俺に相談してくれたことは本当に嬉しい。ところで、どんな相談なんだ?」
「実は拘束されているリオネッサ将軍のことで・・・彼女を助けたいんです・・・」
「つまり、リオネッサ将軍の身柄を奪還するってことだな?よし!!部隊員、全員集合だ。緊急任務だ!!」
フィリップは窓から外に向かって叫んだ。
すぐに部隊員が応接室に駆け込んで来た。
「フィリップ兄さん、何もリオネッサ将軍の身柄を無理やり奪還しようってことじゃないんです。そもそも犯罪だし・・・軍法会議で無罪を勝ち取れるように協力をしてほしくて、ここに来たんです」
「そ、そうか・・・それで具体的に何をすればいいんだ?」
「できれば、軍関係者しか見られない資料などを見せてもらいたいんです。今はとにかく、情報が欲しいんです」
「分かった。おい!!作戦変更だ。これより極秘資料の回収任務を行う!!」
作戦変更も何も、作戦を指示してないだろうが!?
まあ、ツッコミを入れるところは、そこじゃないか・・・
その時、一人の部下が声を上げた。狐獣人の中年の男だった。雰囲気的にベテランの下士官っぽい感じがする。
「小隊長、極秘資料と言われましても、色々と種類があります。まずはアレク様に一般的な資料を見てもらってから、作戦を遂行したほうがいいかと愚考します」
「そうだな、フォクス。その資料ってやつを持って来てくれ」
「はい、すぐに準備いたします。それで部隊のほうは、どうしましょうか?」
「とりあえず、すぐに出動できるように待機さておいてくれ」
「了解しました」
それから、運ばれてきた資料を確認する。
集中して読みたいのにフィリップが、「何か困ったことはないか?」と仕切りに聞いてくるのは、かなりウザかった。
フォクスさんが用意してくれた資料は、少し公になっていない情報も含まれていた。
フォクスさんが解説してくれる。
「実は、リオネッサ将軍の事案は軍部でも意見が分かれるところでして、色々な部隊でケーススタディや議論が行われています。そういった学説に近い物も用意致しました。もちろん、小隊長のご指示です」
「ありがとうございます、フォクスさん。それにフィリップ兄さんも頼りになります」
「まあ、俺はお前の頼りになる兄貴だからな」
フィリップは鼻高々だった。
というか、フォクスさんはできる男だ。フィリップの部隊が部隊の体を成しているのも、フォクスさんのお蔭だろうと思う。今回も、フィリップのことを思って、指示されたことにしたのだろう。
それは置いておいて、資料を読み込んで行くことにした。
★★★
マジノ砦は、オンボーロ帝国の最南端、ドミノ王国との国境にある砦だ。度々紛争が起こっていて、もう100年近く、この砦を巡って、小競り合いをしている。一度紛争が起こると、双方に毎回結構な数の被害が出る。個人的には、馬鹿なことはやめればいいのにと思ってしまう。
そして2年前、リオネッサ将軍が率いる部隊がマジノ砦防衛の応援部隊として、着任した。
毎回、双方にある程度被害が出れば、なし崩し的に戦闘は終了するのだが、リオネッサ将軍はそれをよしとしなかった。奇抜な作戦に出たのだった。
マジノ砦の後方は山岳地帯となっており、街道も1本しかない。
リオネッサ将軍の作戦は、マジノ砦の後方の山岳地帯に新たな砦を築くというものだった。当時のマジノ砦は、草原地帯に位置していて、ここで敵を迎え撃とうとすれば、かなり被害が出ると考えたようだ。素人の俺が見ても、あまりいい場所に砦を設置してないと思った。
というのも、少しでも領土を広げたいと思った当時の皇帝が、無理やりドミノ王国から領土を奪い取り、砦を建設したという経緯がある。領土が少し広がったとて、大した利益は得られない。プライドのためだったらしい。
そんなことのため、紛争が続き、多くの犠牲が出るのは、馬鹿としか思えない。まあ、あの馬鹿皇太子のご先祖様だから、仕方ないか・・・
新たな砦・・・新マジノ砦が完成したところで、リオネッサ将軍は行動に出る。
申し訳程度の戦闘を繰り返した後、思い切ってマジノ砦を放棄して後退した。マジノ砦を陥落させ、悲願であった領土を奪還して、大喜びしたドミノ王国軍であったが、そう上手くは行かなかった。
砦には爆発する魔石が大量に仕込まれており、大爆発を起こす。
資料によるとドミノ王国軍は、全滅に近い状態となったようで、向こう5年はこちらに侵攻してくることはないというのが、大方の予想だ。
これで、めでたしめでたしとは、ならなかった。
合理的に考えれば、ドミノ王国軍にこれ以上ないくらいの打撃を与え、多少の領土とマジノ砦を失ったとはいえ、費用対効果を考えれば十分な結果だと思う。
しかし、「先祖代々守って来た土地が・・・」「我らの誇りマジノ砦が・・・」という意見も噴出した。まあ、そんな気持ちも分からなくはない。
リオネッサ将軍の供述によると、こういった事態になることは想定できていたので、事前に参謀本部に伺いを立て、承認をもらったとのことだった。
しかし、ここからおかしな話になっていく。参謀本部は、「リオネッサ将軍からそんな話は聞いていない」と主張した。それで「リオネッサ将軍が保身のために虚偽の供述をしている」との疑いが強くなり、軍法会議にかけられることになった。
今回の争点は二つ。
一つはリオネッサ将軍が正規の手続きを行ったかどうかだ。リオネッサ将軍が主張するように参謀本部に伺いを立てたのであれば、何ら問題はない。責任は承認した参謀本部にある。
もう一つは、作戦の評価だ。
敵に大打撃を与えたことは事実だし、領土を奪われたことも事実だ。これは評価が難しい。
ざっと資料を読んで感じたことだが、リオネッサ将軍は嘘をつくような人ではないことを考えると、この事件は闇が深そうだ。
フォクスさんが質問してくる。
「他に資料は必要でしょうか?」
「今のところは、何とも・・・それで軍法会議について分かるものがあれば見せてください。自分は法務省の役人ですから、普通の裁判であればある程度分かりますが、軍法会議となると、ちょっと勝手が違いますからね」
「分かりました。すぐにご用意します」
因みにフィリップはというと、いびきをかいて寝ていた。
よくこれで、小隊長が務まるなと思ってしまう。
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