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異世界のんびり刑務官~異世界で無双?そんなの俺は求めてない。ただ安定した生活がしたいだけなんだ!  作者: 楊楊
第一章 フィオナの逆襲

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13 再捜査

 冒険者ギルドを出て、実家に到着した。

 今日は家族水入らずでの食事会だ。というのも、長男マイケルの奥さんが三人目を妊娠して、実家に帰省しているので、だったら、みんなで食事をしようということになったようだ。俺の家族は仲が悪いわけではないからな。


 家族全員揃っての食事会が始まる。

 まあ俺も空気が読めるから、いきなりマイケルに頼んだりはしない。会話の流れに沿って、あくまでも自然に話をしようと思っている。


「ところでフィリップは、いい人はいないの?もしいないようなら、お見合いをしてみても、いいかもしれないわ。孫が増えるのは嬉しいことだしね」


 次男のフィリップは25歳だ。

 前世の日本では結婚適齢期だが、こちらの世界では成人が15歳なので、若干行き遅れた感がある。母がそう言うのも理解できる。


「母上、そのことなんですが、俺は更に上を目指して頑張ろうと思っているんです」


「しかしフィリップ、結婚しても軍務はできるぞ。それにそろそろ、他部門の仕事をしてみても、いいかもしれんぞ」


 父は暗に「そろそろ結婚して、軍を離れろ」と言っている。

 これは俺もマイケルも同じことを思っている。貴族の子弟であれば無理に軍に残り続ける必要はない。特別な才能や特殊事情があれば別だが、大抵は5年以内に除隊することが多い。現在フィリップは、小隊長で、士官とはいえ、現場を駆けずり回っている。このまま頑張ったところで、出世は見込めない。なので、もうそろそろ、夢を諦めてもいい頃だと、家族全員が思っているのだ。


 しかしフィリップは、驚きの発言をする。


「父上、母上!!結婚もそうですが、俺はもう少し軍務に専念しようと思ってます。とういうのも、30歳まで童貞でいると「勇者」になれると聞きました。今のままじゃ駄目なのは十分に理解しています。だから、それに賭けようと思っているんです」


 フィリップは決して悪い奴ではない。しかし、かなり痛い奴なのだ。

 現代日本では、30歳まで童貞だと「魔法使い」になれるという都市伝説がある。それと同じような話で、こちらの世界では「勇者」なのだ。もちろん「勇者」になんかなれるはずはない。

 多分、同僚か上司にでも、「お前童貞か?30歳まで童貞なら「勇者」になれるかもしれんぞ?」とか言ってからかわれたのだろう。それを真に受けるなんて・・・


「そ、そうか・・・マイケル、お前からも何か言ってやれ」

「は、はい・・・その・・・フィリップ、頑張れよ・・・」


「はい、マイケル兄さん。俺、頑張ります」


 長男のマイケルは、いきなり話を振られたことで、答えに窮したようだ。

 父と母がマイケルを睨みつける。

 俺は父と母の気持ちを心の中で代弁した。


 そういうことじゃ、ないだろ!?


 場はとんでもない空気になった。

 少し予定とは違うが、俺は会話に入ることにした。


「そういえば、俺が持ってきた「グレートベアのスジ肉煮込み」はどうですか?美味しいでしょう?」


「そうだな!!かなり旨いぞ。酒にも合うな。幻の名店「熊山亭」の料理人が考案したと聞いたぞ。「熊山亭」は隠れた名店として有名だったからな」


 普段は口数の少ない父が必死で話を膨らませようとしてくれている。この空気を何とかしようと必死なのだ。因みに「熊山亭」というのは、クマーラさんと亡くなった旦那さんが経営していたレストランのことだ。「グレートベアのスジ肉煮込み」を売り出すのに「伝説の名店熊山亭のシェフ考案の伝説の味!!」としたほうが売れると判断したミケが、そんなキャッチコピーを付けたのだ。

 これは大当たりして、帝都ではちょっとしたブームになっている。こういうところは、ミケの商才を感じさせる。


「結婚したての時は、二人でよく行っていたのよ。懐かしいわ」

「旨いな。おかわりを貰おう」


 母もマイケルも空気を察し、同調する。

 ここで一気にこちらの要望を伝える。マイケルにだけ頼もうと思っていたが、少し計画を変更する。「グレートベアのスジ肉煮込み」だけで、会話を維持するのは無理だからな。


「実は、みんなに頼みたいことがあるんです。それはある侯爵令嬢の事件のことで・・・」


 俺はフィオナ嬢の事件の再捜査をして、弁護活動に携わることを要約して説明した。


「アレク、変な気を遣わなくてもいいんだぞ。この煮込み料理も安くは、なかっただろうしな」

「そうよ、家族なんだから、遠慮はいらないわよ」


 父と母は好意的だった。


「アレク、お前は俺に資料の提供と捜査協力を依頼したいんだろ?それで俺だけにお土産を渡すと角が立つと思って・・・自慢の弟なんだから、父上が言ったように気を遣うな。もちろん協力するぞ。お前が自分から俺を頼るなんて、珍しいからな」


 断られるとは思っていなかったが、ここまで好意的に受け入れられるとは思わなかった。


「スペンサー侯爵とは、知らぬ間柄ではないから、私もできるかぎりのことをしよう」

「私も夜会やお茶会で、情報を集めておくわね」


「父上、母上、ありがとうございます」


「アレク、明日の午後に教育省まで来い。それまでに資料を用意しておく。もちろん極秘資料もな」


「マイケル兄さんもありがとう」


 極秘資料か・・・無理はしてほしくはないけど・・・


 完全に蚊帳の外のフィリップも続く。


「えっと・・・俺は・・・えっと・・・俺は・・・」

「荒事になったら、真っ先にフィリップ兄さんを頼りますよ」

「もちろんだ!!荒事なら任せとけ。俺はこう見えて強いからな。小隊長だし、将来の勇者だからな」

「ありがとうございます、フィリップ兄さん。そんなことはないとは思いますが、その時はお願いしますね」


 そうは言ってみたものの、これからの人生でフィリップに頼ることは、絶対ないだろう。

 俺がそう言ったのは、家族としての同情の念からだ。


 満足気に頷くフィリップ。本当に残念だ。



 その後は楽しい食事会が続いた。お互い地雷となるような話題には注意しながらだけど。

 マイケルは実家に泊まるとのことで、帰りは父が手配してくれた馬車で、フィリップと帰宅することになった。

 馬車の中で、フィリップの熱い夢を聞かされる。


「俺も頑張って、アレクの自慢の兄貴になれるように頑張るよ。みんなアレクに頼ってほしいと思ってるんだぞ。お前は小さい頃から何でもできたからな」

「そんなことはありませんよ。それにフィリップ兄さんは今のままで十分です」

「そうか?まあ、何でも言ってくれよ。兄貴として助けてやるからな」


 フィリップは、かなり痛い奴だけど、いい兄貴なのかもしれない。

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