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異世界で屋台を開いたら、10番目の客が俺を故郷へ連れ帰るらしい  作者: ひろボ


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第29話 皆に振る舞う、感謝の「最後の晩餐」

 路地裏屋台『向』の二十九日目。運命の十番目の客が来店する直前の、最後の夜だ。


 拓海は朝から屋台の最終仕込みに集中していた。ターミナル・ロックの魔力は完全に解除されたが、屋台の周囲には、システムが次の客を待っているかのような、重く静かな空気が漂っている。


 拓海は、常連客たちへの感謝の気持ちを込めて、この異世界での経験のすべてを凝縮した特別フルコースを振る舞う。そのメニューは、彼らが屋台で得た「進化」の要素を一つ一つ織り込んだ、「絆と旅立ちのフルコース」だ。


 日没と共に、九人の常連客が静かに路地裏に集結した。誰もが、これが拓海と過ごす最後の夜だと理解している。普段の喧騒はなく、皆、神妙な面持ちで席に着いた。


「拓海。余計な感傷は抜きだ。最高の料理を頼む」グスタフが代表して言った。彼の言葉は静かだが、その裏には深い寂しさが隠されていた。


「承知しました。これが、俺のこの異世界での、最後の仕事です」


 拓海は、最後のフルコースの調理に取り掛かった。



 第一の皿:始まりと覚悟のスープ


 拓海が最初に運んだのは、温かいスープだった。


「これは、クロノス神官の心を溶かしたスープをベースに、エリシアさんのマヨネーズの酸味をわずかに加えたものです。スープの温かさは、ファウストさんの魔力のように心を癒やし、マヨネーズの酸味は、エリシアさんが貴族社会で闘う『刺激』を表現しています」


 温かいスープは、常連客たちの緊張を解きほぐした。彼らは、このスープが、彼らが経験したすべての困難と、それを乗り越えた絆の象徴であることを理解した。



 第二の皿:絆と勇気のメインプレート


 次に運ばれたメインプレートは、豪華な肉料理だった。ザンバとファフナのために、究極に揚げた唐揚げと、シルフィードの好きなハンバーグを組み合わせた、特製プレートだ。


「この唐揚げの衣は、ザンバさん。あなたに教えた衣の黄金比を使っています。そして、ハンバーグは、シルフィードさんのように、外は力強く、中は優しい。ファフナ、あなたの炎の力に負けない熱量を込めています」


 ザンバは唐揚げを一口食べ、目頭を押さえた。「美味い……!こんなにも誇り高い唐揚げは、故郷でも食えないだろう」


 ファフナは、ハンバーグと唐揚げを一気に平らげ、口から熱い鼻息を漏らした。「この熱量があれば、私はまた、明日から頑張れる!あんたがくれた最高のエネルギーだ!」



 第三の皿:旅立ちの飯と未来の約束


 飯物として提供されたのは、バルカスがくれた最高級の香辛料と、グスタフの米の炊き方を融合させた、至高の『カレーチャーハン』だった。


「バルカスさんの香辛料は、この料理に深い奥行きを与えてくれました。グスタフさんの無駄のない米の技術が、この味の基盤です。このチャーハンは、この異世界で得た『俺のすべて』です」


 カレーチャーハンは、常連客たちの間に、笑いと感動をもたらした。特にバルカスは、自分が提供した香辛料が最高の料理に使われたことに、感極まっていた。


「拓海!わ、私の香辛料が、こんなにも完璧に……!この味は、必ず、私がこの世界に広める!」バルカスはそう誓った。



 第四の皿:別れと記憶のデザート


 最後に、拓海はデザートを出した。苺とマヨネーズを使った、エリシアとシーナのための特製の『パフェ』だ。


「エリシアさんのマヨネーズへの情熱と、シーナさんのように甘酸っぱい秘密の記憶を表現しました。このパフェの甘さは、別れの寂しさの後に残る、温かい思い出の味です」


 エリシアは、マヨネーズと苺の組み合わせを、涙ぐみながら味わった。「甘い……そして、少ししょっぱい。まさに、貴方との出会いの味よ」


 シーナは、無言でパフェを完食した後、拓海を見つめた。「あんたの料理は、決して忘れない」


 フルコースを終えた後、路地裏は深い切なさに包まれた。ライラが最後の歌を奏で始めた。その歌は、この夜の出来事と、拓海と常連客たちの出会いを、永遠に語り継ぐものだった。


「拓海。あなたの物語は、私が歌い継ぐ。この路地裏で生まれた奇跡を、誰も忘れさせない」ライラは静かに言った。


 拓海は、常連客たち一人ひとりの顔を見た。彼らの笑顔は、拓海が故郷へ帰るための、最高の資格証明だった。


 拓海は、屋台の調理台を静かに拭いた。


「皆さん、ありがとう。俺は、もう逃げません。そして、俺の料理人としての誇りは、皆さんが受け継いでくれます」


 その時、路地裏全体が、強烈な魔力の光に包まれた。


 屋台の周囲の空間が、大きく歪み始める。十番目の客が、ついに来店する合図だ。


 常連客たちは、最後の別れを惜しむ間もなく、結界の外側へと身を引いた。彼らの目には、拓海への感謝と、無事を祈る強い願いが宿っていた。


 拓海は、ただ一人、屋台の前に立った。


「準備は整った。来い、俺の情熱」

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