第23話 炎上する屋台!評論家とドラゴン娘のデスマッチ
路地裏屋台『向』の二十三日目。拓海がグスタフとの対話を通じて哲学を確立した翌日、屋台には最後の騒動が持ち込まれた。常連客のカウントは残り一人、いつ十番目の客が現れてもおかしくない状況だ。
午後の営業中、一台の派手な馬車が路地裏に乗り付けてきた。中から降りてきたのは、あのグルメ評論家ザラスだった。彼はコロッケで舌を破壊され、冷凍チャーハンでプロの矜持を打ち砕かれた屈辱を忘れられず、屋台の評判を地に落とす最後の嫌がらせにやってきたのだ。
「貴様、異界の料理人め!私の舌はまだ貴様の庶民の味に惑わされている!この屈辱、今日こそ晴らしてやる!貴様の店には、美食の品格がないことを証明してやる!」
ザラスは、拓海を罵倒しながら、屋台の周囲に異世界の高級食材を並べ始めた。彼は、自分の料理ではなく、拓海の料理の品格を貶める目的だった。
「貴様が作るものは、精々が子供騙しの甘いものか、脂っこい肉だ!真の美食は、高貴な食材と、洗練された刺激によって成り立つ!この低俗な路地裏には、最高度の刺激が必要だ!」
ザラスはそう言うと、持参した袋から、見るからに辛そうな、真っ赤な異世界の唐辛子を取り出し、屋台の目の前で粉々に砕き始めた。猛烈な辛味の刺激臭が、路地裏全体に広がる。
「どうだ!この洗練された刺激に、貴様の低俗な料理は耐えられるか!」ザラスは高笑いした。彼の目的は、屋台の周囲を辛味の地獄にし、客を遠ざけることだった。
その瞬間、屋台で休憩していたドラゴン娘ファフナが、目を覚ました。彼女の鼻が、その刺激臭を捉えた。
「ん?なんだ、この匂いは……!辛い!辛いけど、美味そうな刺激だ!」
ファフナは、激辛の刺激臭に興奮し、目を輝かせた。彼女は、ザラスの目の前に立ち塞がった。
「あんた!それ、全部私にくれ!辛いもの、大好きだ!その刺激は、私の魔力を活性化させる!」
ザラスはファフナの存在に気づかず、驚愕した。「なんだ、この獣は!邪魔をするな!これは私の芸術だ!」
「邪魔なのはあんただ!私の求める最高の刺激を、独り占めする気か!」
ファフナは、ザラスが砕いた唐辛子の粉末に手を伸ばそうとする。ザラスはそれを阻止しようと、ファフナと食材を巡るデスマッチが勃発した。
ザラスは、辛味でファフナを撃退しようと、残りの唐辛子をファフナの顔めがけて撒き散らした。しかし、ファフナは鼻息一つでそれを焼き尽くし、逆にザラスの高級な服を焦がした。ファフナは口から小さな火を噴き、路地裏の地面を焦がす。完全に制御を失った炎だ。
拓海は、この無秩序な騒動を見て、笑いをこらえながら、ある決断をした。
「わかりました。ザラスさん、ファフナ。無意味な戦いは止めましょう。俺が、あなたたちが求める最高の『刺激』を提供します」
拓海は、激辛を求めるファフナと、洗練された刺激を求めるザラスのために、『地獄の激辛ラーメン』を調理した。
拓海は、異世界で手に入れた最も辛い唐辛子と、日本のタバスコや豆板醤に近い調味料を組み合わせ、辛さの奥に旨味を凝縮させた。ラーメンのスープは、ファフナのドラゴン族の熱にも耐えられるよう、辛味と熱量を極限まで高めた。火力を上げるために、拓海はターミナル・ロックの不安定な魔力と戦いながら、全神経を集中させる。
完成した激辛ラーメンの丼から、赤い湯気が立ち上る。路地裏は、辛味と熱気で満たされた。
ファフナは目を輝かせ、ラーメンを豪快にすすり始めた。「辛い!熱い!最高だ!この辛さこそが、私の魔力を活性化させる!もう一杯、くれ!」
一方、ザラスは、恐る恐るスープを一口飲んだ。彼の顔は赤から紫色に変わり、目から涙と鼻水が溢れた。
「うぐっ、ぐぐっ……!これは、辛い!だが、なぜだ!この辛さの奥に、確かな旨味と、料理人としての魂を感じる!私の求める刺激は、この熱狂だったのか!」
ザラスは辛さに敗北し、舌が麻痺しながらも、辛さの奥にある拓海の技術に感動していた。彼は辛さに悶絶しながら、拓海に叫んだ。
「拓海!わ、私は負けた!貴様は、私の舌とプライドを、完全に破壊し、そして再生させた!この辛さの奥には、貴様の料理人としての愛がある!私は、貴様の店のレシピを要求する!」
辛さのデスマッチの末、ザラスは敗北し、改心した。彼は、拓海の料理が持つ「真の力」を認め、屋台のレシピを要求した。
拓海は、そんなザラスに、激辛ラーメンの後に『デザートのプリン』を提供した。辛さの後に食べるプリンの優しさに、ザラスは再び涙を流し、完全に降伏した。
「ああ、この優しさ……!私は、真の美食とは、辛さと優しさのバランスだと知った!拓海、あなたのレシピは、帝国料理界の宝だ!」
ザラスは、拓海の料理のレシピをすべて書き留めることを条件に、拓海への協力を約束した。彼は、神官クロノスの指示を裏切り、路地裏の屋台の味を、世界に広めることを決意した。




