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異世界で屋台を開いたら、10番目の客が俺を故郷へ連れ帰るらしい  作者: ひろボ


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第22話 ドワーフ職人が叫んだ!「最高の飯とは何か」の哲学

 路地裏屋台『向』の二十二日目。昨日、魔術師ファウストは人生をかけた最後の魔術に挑むため、屋台を去った。拓海はファウストの成功を祈りつつ、彼から託された結界魔術の起動符を大切にしまっていた。


 今日の客は、鍛冶師のドワーフ、グスタフだった。彼はいつものように油で汚れた作業着を着ており、拓海の屋台の椅子にどっしりと座っている。彼はハンマーではなく、一枚の分厚い鉄板を抱えていた。その鉄板は、彼が命を懸けて打とうとしている、最高の武具の素材だろう。


「拓海。聞きたいことがある」


 グスタフの眼差しは真剣だった。彼が抱える鉄板は、彼の人生を映す鏡のように見えた。十番目の客を迎える前の、拓海にとって最後の哲学的な試練だ。


「俺は最高の武具を作る。貴様は最高の飯を作る。では、『最高の飯』とは、一体何なのだ?豪華さか?複雑さか?それとも、異界の魔力か?俺は、最高の武具を作るために、最高の飯の定義を知りたい」


 拓海は、グスタフの真摯な問いに、静かにフライパンを磨きながら答えた。その言葉には、この異世界で培った料理人としてのすべての経験が込められていた。


「最高の飯は、豪華さでも、複雑さでもありません。それは、『いつ、誰と、どう食べるか』という状況への完璧な適応ですよ。そして、何よりも、『無駄がないこと』です。すべての要素が、食べる者を最高の状態に導くという目的に奉仕していること。それが、俺の考える最高の飯です」


 拓海はそう答え、グスタフのために『究極のお茶漬け』を調理した。


 拓海は、異世界米の中でも最も粒立ちの良い米を選び、それを炊飯器ではなく、土鍋で丁寧に炊き上げる。炊き上がったご飯は、一度冷まし、出汁の馴染みを良くする。具材は、日本の梅干しに似た異世界の酸味の強い果実と、香ばしく焼いた鮭。これらの具材は、すべてが塩味、酸味、食感という役割に徹している。そして、最も重要なのが出汁だ。最高級の海藻と魚を使い、四時間かけて煮出した、透明な出汁と共に用意した。出汁は、ほんのわずかな塩気と旨味しか感じさせない、純粋な仕上がりだ。


「どうぞ。『究極のお茶漬け』です。具材はシンプル。調理工程もシンプル。しかし、すべての素材に、最高の技術と手間暇をかけています」


 グスタフは、運ばれてきたお茶漬けを、まるで武具の鑑定をするかのように、細部まで見つめた。彼はまず、出汁だけを一口飲む。


「……美味い。出汁に、一点の濁りもない。この雑味のなさは、俺が武具を鍛える際に求める、『純粋性』と同じだ。これほどまでに、素材の良さを引き出した出汁は、魔法では作れん」


 次に、グスタフは飯と具材をかき込んだ。熱すぎない出汁が、ご飯を優しく包み込み、鮭の塩気と梅の酸味が、食欲を刺激する。


「美味い……!極限までシンプルなのに、全てが完璧だ。飯の炊き方、出汁の温度、鮭の塩気。このシンプルな料理には、一つとして無駄な要素がない。すべてが、食べる者を癒やし、満たすという目的に奉仕している。まさに、究極の『道具』としての飯だ」


 グスタフは、お茶漬けを完食し、静かに目を閉じた。彼の顔には、深い納得の色が浮かんでいた。彼の中で、武具と料理の哲学が完全に一つになった瞬間だった。


「最高の飯とは、最高の技術が、無駄なく注ぎ込まれたものだ。そして、その目的が、単なる豪華さではなく、『人の命と心を支えること』にある。俺の仕事も同じだ。武具は、使う者の命を支えるために、美しく、そして無駄なくあるべきだ。このお茶漬けは、俺が武具に込めるべき『魂のあり方』を示してくれた」


 グスタフは立ち上がり、拓海の肩に、そのゴツゴツした手を置いた。その手には、武具を打ち続ける職人の魂が宿っていた。


「料理人よ。貴様は一流だ。貴様は、料理人として、誰よりも早く、最高の結論に達した。この屋台は、貴様が故郷で開く店への『修行の場』だったのだ。俺は、貴様が故郷で最高の店を開く日を、楽しみにしている。この鉄板で、貴様の店の最高の看板を作ろう」


 グスタフは、拓海に分厚い金貨を数枚渡し、再び路地裏の奥へと消えていった。彼の心は、拓海の料理によって、職人としての新たな境地に達したのだ。


 拓海は、グスタフの言葉を胸に、静かに感謝した。十番目の客を迎える前に、彼は自分の料理人としての哲学を確立できた。もう、過去に夢を諦めた自分はいない。彼に残された課題は、最後の客に「料理人としての情熱」を証明することだけだ。

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