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異世界で屋台を開いたら、10番目の客が俺を故郷へ連れ帰るらしい  作者: ひろボ


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第21話 料理の力を信じるか?魔術師の最後の依頼

 路地裏屋台『向』の二十一日目。常連客たちの「進化」を見届け、拓海は帰還への覚悟を最終的に固めた。残るは、クロノスの妨害を退け、十番目の客を迎えることだけだ。ターミナル・ロックの影響で、屋台の換気扇や冷蔵機能すら時折不安定になる状態だったが、拓海の決意は揺るがなかった。


 今日の客は、魔術師ファウストだった。彼はいつものローブ姿だが、その表情は極度に張り詰めている。杖を持つ手がわずかに震えていた。その魔力の消耗と精神的な疲労は、一目でわかるほどだった。


「拓海。私は、十年前の失敗を取り返すための、人生最後の魔術に挑む」


 ファウストは静かに言った。十年前の実験失敗は、彼の家族と名誉を奪い、彼を孤独に追いやった原因だった。その失敗を取り返す魔術は、成功すれば世界に大きな恩恵をもたらすが、失敗すれば彼の命はない、危険なものだった。


「私の魔力は、もう限界に近い。だが、この魔術を成功させなければ、私の人生は十年前で止まったままだ。その前に、あなたの料理で、私の精神を安定させたい。私の心に、確かな『希望』を与えてほしい」


 ファウストは、プリンで癒やされた孤独を乗り越え、再び情熱を取り戻していたが、最後の挑戦を前に、恐れを抱いている。彼は、拓海の料理が、単なる魔力回復ではなく、彼の精神的な支柱であることを知っていた。


 拓海は、ファウストの命をかけた依頼を受け入れた。


「承知しました。あなたの心を、過去の失敗から解き放ち、未来への希望を与える料理を作ります。メニューは、『ショートケーキ』です」


 拓海は、ファウストの「希望」という願いを込めて、ショートケーキの最終的な調理に取り掛かった。


 ショートケーキのスポンジは、前日に拓海の計算し尽くされた技術で完璧に焼き上げられ、屋台のチート機能である最高の鮮度維持機能で保存されていた。ターミナル・ロックの中でも、冷蔵機能だけはかろうじて維持できていたのだ。


 現場では、拓海の技術が試される。冷蔵庫から出した生クリームを、手動の泡立て器で丁寧にホイップしていく。生クリームの温度と固さの調整は、魔術の成功率を左右するファウストの集中力のように、寸分の狂いも許されない。そして、拓海が苦労して作り出した「苺」を、一つ一つ丁寧にカットし、飾り付けに備える。


 拓海は、スポンジを三層に切り分け、生クリームと苺で優しく包み込むように組み立てていった。クリームを塗り広げるコテの動きは滑らかで、一切の迷いがない。その組み立ての美しさは、ファウストの目指す「完璧な魔術の構造」そのものだった。


 拓海は、ケーキの最後の仕上げに、静かに語りかけた。


「ファウストさん。ケーキは、どんなに崩れても、クリームで優しく包み直し、また立ち上がることができます。失敗は、あなたの人生を崩壊させません。むしろ、その失敗こそが、このケーキの『深み』になるんです。大切なのは、何度でも立ち上がり、最高の形に作り直すことです」


 完成したショートケーキは、白と赤のコントラストが美しく、路地裏を甘い香りで満たした。


 ファウストは、震える手でフォークを取り、一口食べた。その瞬間、彼の顔から、すべての緊張と過去の重荷が消え去った。


「ああ……これは、温かい。私の心に、雪解けのような温かさが広がる……。この甘さと、苺の酸味が、私に『未来』を信じさせてくれる。この完璧に調和した構造は、私の魔術に、揺るぎない確信を与えてくれた」


 彼はケーキを一口食べるごとに、過去の失敗の重荷から解放されていくのを感じた。


「拓海。そなたの料理は、単なる食べ物ではない。これは、私の過去の未練を浄化し、未来への情熱を注ぎ込む魔術だ」


 ファウストはケーキを完食した。彼は、自らのローブの袖を切り取り、複雑な魔法陣を描き込んだ。


「これは、感謝の証だ。この起動符を握りしめ、魔力の流れが途絶えそうになったら起動させろ。屋台の周囲に、強固な結界を張るだろう。……万が一、私が失敗した時の、そなたへの最後の贈り物だ」


 ファウストはそう言い残し、拓海に結界魔術の起動符を託した。彼の目には、もはや恐れはなく、静かな決意と自信が満ちていた。


「必ず成功させる。そして、またそなたの料理を食べに来る。……そなたの帰還を、路地裏で待っている」


 ファウストはそう言い残し、路地裏の奥へと消えていった。拓海は、ファウストの成功を信じ、託された起動符を胸に、静かに屋台を片付けた。彼の心は、常連客の命がけの挑戦を見届け、さらに強固な決意で満たされていた。

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