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異世界で屋台を開いたら、10番目の客が俺を故郷へ連れ帰るらしい  作者: ひろボ


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第19話 システム解明。屋台の制約と、10番目の客の条件

 路地裏屋台『向』の十九日目。拓海がナポリタンを通して過去の未練を断ち切った翌日、屋台の周囲の空気はかつてないほど冷え込み、神官クロノスの魔力による圧力が頂点に達していた。ターミナル・ロックの魔力は、路地裏の地面すら凍らせるような冷たさを発していた。


 今日の午後、拓海が一人で仕込みをしていると、神官クロノスが路地裏に現れた。彼のローブの深紅は、以前よりも濃く、魔力の波動はより強烈だ。そして、今回はクロノス一人ではなかった。最初の客、エルフの騎士シルフィードが、硬い表情で彼に付き添っていた。


「拓海。彼は、我々騎士団の最高顧問。そして、古代の文献の管理者でもある。彼の言葉は、帝国の意思だ」シルフィードが説明した。シルフィードは、拓海を信じつつも、帝国の秩序を乱す異界のシステムに警戒している。彼女の剣を持つ手は、緊張で震えていた。


 クロノスは冷たい目で拓海を見た。


「貴様の料理は、人の心を揺るがす。その力は危険だ。これ以上、私を煩わせるな。だから、貴様のくだらない帰還システムについて、全てを教えてやる」


 クロノスは、屋台のシステムが隠し持つ、重大な真実を告げた。


「あのターミナルは、貴様が言うように、十番目の客で閉じられる。だが、その十番目の客は、貴様が単に故郷に帰るためのチケットではない。それは、貴様の『過去の総決算』だ」


 クロノスは続けた。「十番目の客とは、貴様が元の世界で失った『何か』を擬人化した存在だ。夢、情熱、あるいは愛。貴様がこの世界で、料理人としての『誇り』を取り戻した今、その『情熱』こそが十番目の客として顕現し、貴様の前に立つだろう。だが、貴様はその情熱に勝てるのか?」


 拓海は、やはりそうかと納得した。彼が過去に諦めた情熱こそが、彼を異世界に繋ぎ止める鎖だったのだ。しかし、クロノスの冷酷な表情は、それだけでは終わらないことを示唆していた。


「そして、問題はそこではない」クロノスは声を低くした。「そのシステムの真の機能は、貴様の帰還が、この世界の運命と直結していることだ」


 シルフィードが驚きに目を見開いた。彼女は、クロノスの言葉に、剣を持つ手をわずかに緩めた。


「どういうことだ?俺一人の帰還が、なぜ世界の運命に関わる!」拓海が尋ねる。


「この屋台のシステムは、かつて異世界に召喚され、故郷を失った先代の異界の民たちが、自らの未練を断ち切るために残した遺産だ。彼らは、自らの異界の技術がこの世界に与える影響を恐れた。だから、貴様が帰還を決意すれば、この屋台と共に貴様の異界の知識もすべて元の世界に戻り、この世界の均衡が保たれる」


 クロノスは、冷酷な笑みを浮かべた。


「しかし、貴様が、この異世界に残ることを選んだ場合、システムは貴様の異界の知識をこの世界に定着させ、屋台は消滅する。そして、この世界の技術と秩序は、異界の知識によって永遠に混乱に陥る。貴様の料理は、毒になる。貴様の料理は、あまりにも人の心を揺さぶり、秩序を破壊する」


 拓海は、十番目の客を迎えるという行為が、「個人の決断」ではなく、「異世界の運命」を左右するものであることを知った。


「貴様には資格がない。貴様は過去に夢を諦めた。そんな中途半端な決断で、世界の均衡を乱すことは許されない。だから、私はこのターミナル・ロックを解除しない。貴様は、この不完全な屋台と共に、ここで朽ち果てるべきだ」クロノスは、冷たい目で拓海を追い詰める。


 拓海は静かにフライパンを置いた。彼はシルフィードとクロノスの両方を見た。


「クロノス神官。俺はもう、過去の俺じゃない。俺は、この路地裏で、常連客たちに料理を振る舞うことで、料理人としての誇りを完全に取り戻した。俺の料理は、誰も不幸にしない。それは、彼らの笑顔が証明している」


 拓海は、クロノスが焼きおにぎりで見せた一瞬の涙と、彼が抱える孤独を指摘した。


「あなたも、かつては料理を愛していたはずだ。その心を閉ざしているのは、過去に何かを諦めたからじゃないのか?俺は逃げない。十番目の客に、俺の復活した情熱をぶつけます。そして、この世界の均衡を崩すことなく、必ず帰還する。俺の帰還こそが、この世界と、俺の故郷、そして俺の過去にとって、最良の決着だ」


 拓海の強い決意に、クロノスはわずかに動揺を見せる。シルフィードは、拓海の覚悟に、剣を持つ手をわずかに緩めた。


 クロノスは、何も言わずに、路地裏の暗闇に消えていった。しかし、その重い魔力は、屋台の周囲に依然として残っている。


 拓海は、常連客たちに誓った。「俺は、必ず帰還します。そして、この屋台のシステムが、平和な形で終われることを証明する。そのために、俺はこの路地裏で出会った大切な常連客たちに、料理人として最後の贈り物をします」

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