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異世界で屋台を開いたら、10番目の客が俺を故郷へ連れ帰るらしい  作者: ひろボ


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第15話 路地裏に現れた異世界料理の刺客!冷凍食品の逆襲

 路地裏屋台『向』の十五日目。神官クロノスのターミナル・ロックの影響は依然として残っていた。冷蔵庫は唸り、コンロの火力は不安定だ。


 今日の昼時、路地裏に派手な馬車が乗り付けてきた。馬車から降りたのは、真っ白なコックコートを纏った、帝国料理学院の主席、アルベルトと名乗る傲慢そうな青年だった。


「貴様が異界の蛮族料理人か。この路地裏の汚名を返上するため、ここで料理バトルを行う!私の神官クロノス様への献上品でもある!」


 アルベルトは、拓海を挑発した。その顔には、隠しきれない優越感が浮かんでいる。


「この路地裏という場所は、我が帝国料理界の不名誉だ!正式な教育も、許可も受けていない貴様の店が、騎士や貴族を惑わしている。こんな低俗な場所が帝国の美食の象徴になるなど、断じて許されない!私は、貴様を打ち負かし、路地裏の汚名を返上する!」


 アルベルトの言葉の端々から、彼が路地裏の屋台という存在そのものを、自らの権威への侮辱と捉えていることが伝わってきた。


「勝負を受けろ!貴様の最高の料理を出せ!ただし、貴様の鉄の魔道具(屋台)の魔力(電力)が弱まっているのは知っているぞ。不利を承知で、貴様の最も得意なものを持ってこい!」


 拓海は、アルベルトの言葉を聞き、静かにフライパンを構えた。劣悪な火力。異世界には存在しない、均一化された素材。この不利な条件こそ、現代日本の知恵の真価を発揮する機会だと悟った。


「いいでしょう。メニューは……『チャーハン』で。ただし、素材は、貴様が最も軽蔑するであろう、俺の故郷の『冷凍食材』を使う」


 拓海は、冷蔵庫から取り出した冷凍エビピラフを、アルベルトの前に示した。


 アルベルトはそれを見て、腹を抱えて大笑いした。「なんだその冷えたゴミは!貴様の料理の魂は腐っているのか!貴様は、その冷たい塊を温め直すことしかできないのか!」


「黙れ。この冷凍技術は、俺の故郷が持つ『均一性』という名の英知の結晶だ。貴様は魔法で食材を瞬時に完璧に熟成させる。だが、俺は、この均一化された最低限の食材を、技術だけで貴様の魔法料理を上回ってやる。これが、俺の料理人としての誇りだ!」拓海は毅然と言い放った。


 アルベルトは魔法の調理台に、異世界の七色の海産物と、古代米を並べた。魔法の炎で海産物は瞬時に蒸され、古代米は芳醇な香りを放ち始める。アルベルトは魔法を使い、具材の一つ一つに最高の旨味を閉じ込めていく。その手際と魔法は、まさに帝国料理学院主席の威厳に満ちていた。


 一方、拓海は、冷凍エビピラフを高温のフライパンに投入した。ターミナル・ロックで弱まったコンロの火力では、米を温め直すだけで精一杯のように見える。しかし、拓海が集中したのは、米一粒一粒を熱でコーティングし、油で撥水させ、米本来の旨味を最大限に引き出す、究極の火入れだ。フライパンを操る手首の角度とスピードは、まるで鍛冶師グスタフがハンマーを振るうように正確で、無駄がない。


 路地裏の常連客たちは、固唾を飲んで見守っていた。ザンバは「火力が足りない!」と叫び、ファウストは「あれは魔術ではなく、純粋な物理現象だ」と感嘆する。


 アルベルトが巨大な皿に盛り付けたのは、珍しい異世界の海産物を魔法で蒸し上げた、華麗なリゾット風の料理。見た目は満点だ。


 そして完成した拓海のチャーハン。具材はシンプルだが、米粒は黄金色に輝き、パラパラとして美しい。


 審査員役を買って出たバルカスとシルフィードが、両者の料理を試食する。


 アルベルトの料理は、複雑で洗練されていた。しかし、バルカスの評価は厳しかった。


「美味い。だが、味が複雑すぎて、頭が疲れる。そして、どこか魔法に頼りすぎている。この複雑さは、顧客の心を掴むには重すぎる」


 そして、拓海のチャーハン。シルフィードは、慎重に一口食べた。


「……!この米の温かさ、そしてパラパラとした舌触り……。米一粒一粒に、作り手の魂が宿っている!そして、この冷凍食材は、確かに高級ではない。だが、この極限まで均一な品質だからこそ、拓海の技術が光る!」


 バルカスは目を見開いた。「この味は……!シンプルだが、完璧な熱伝導!米一粒一粒に旨味が閉じ込められている!拓海、お前は技術だけで、魔法を凌駕した!」


 ファウストも、静かに頷いた。「この料理には、余計な魔力や飾りがない。あるのは、純粋な料理人の技術と、芯の強さだ」


 拓海の勝利だった。勝因は、「冷凍食品の均一性と、フライパンによる究極の火入れ」という、現代の知恵と技術の勝利だ。アルベルトの魔法料理は、拓海のシンプルな技術の前に敗れた。


 アルベルトは敗北を認めず、「あの冷えたゴミが……!私の最高級の食材が……!」と叫びながら、路地裏を這って去っていった。拓海は、このバトルを通じて、現代の知恵と技術の強さを改めて確信した。

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