出会いとヒロイン
急遽新シリーズをスタートしました。
俺、木下 健、高校1年生にしてオタクだ。
そして俺は高校生なってからまだ1週間しか経っていない。
そして毎日必ず一科目は居眠りは当たり前、どころか入学式もかなりうとうとで"生徒会長挨拶"なんてほぼ寝てるに等しかった。
そんな学校からの帰り道である坂を下っていた。この坂を下ると新幹線の駅がある。
流石は神戸、平地の後は六甲山がある影響で坂道の多い町だ。下りは良いが登りは地獄で毎日汗だくになりながら登校をする。
俺はあまりの暑さに水筒のお茶をがぶ飲みする。
(まだ4月なのにこの暑さかよ)
「えーと…すみません、この辺りに定期入れ落ちてませんでしたか?」
水筒を鞄に戻していた俺に誰かが声をかけてくる。
俺は突然の声にビビりながらも顔を上げた。
俺の隣には背が低くく少し幼気な顔で眼鏡をかけて微笑み、肩下辺りまで長い少し癖っ毛ぽい髪を山からの風に靡かせ、頭の上でアホ毛をポヨンポヨンと動かし白いカチューシャをした女子が居た。
(制服からしてうちの高校か?)
「それってどんなやつですか」
俺はひとまず特徴を聞く。
「ピンクで少し白い模様もあるやつです」
「一緒に探しましょうか?」
「良いんですか!?」
「はい。どうせこのあと用事もないですし」
「ありがとうございます」
彼女はかなり申し訳なさそうに頭を下げる。
夕日が俺達を照らす中、道路の端を片っ端から探した。
その時川と道の間のガードレールの柱に隠れるようにピンクの物が落ちているのが目に入った。
俺は拾って土をはらうと探し続ける彼女に見せる。
「それって……これのことですか?」
手に乗った定期入れを見た彼女の表情がパァッと明るくなる。
「すみません。探していただいてありがとうございます」
こちらをありがたそうに見ていた。
「こ、これ君の?」
「はい。すみません」
その子は癖っ毛とアホ毛を動かしながらペコペコと頭を下げる。
「それじゃ失礼します」
改めて俺に頭を下げるとその子は可愛らしい走り方で駅へと向かっていった。
ガタンゴトン
俺は電車に揺られながら考えていた
(あの子をヒロインに出来ないか……)
手に握られたスマホの画面には小説投稿サイトが開かれていた。
そう、俺の夢はいわゆるラノベ作家になる事なのだ!
世には"なろう"を原作としたアニメなどが無数とある。
そのジャンルは異世界物から探偵物、ハーレム物、ラブコメと数えるときりがない。
そして俺はその中でもラブコメで原作となりうる物を書きたいのだ。
やはりオタクとしては妥協はしたくない……
(明日、会えたら頼んでみるか)
あの子が同じ学校なのは制服を来ていたから分かっている。
「明日聞いてみるぞー」
拳を突き上げる
するとつい声に出していたらしく、周りからクスクスと笑う声が聞こえる
「やってしまった……」
羞恥心に燃える俺を乗せた電車は115キロと言う早いスピードで住宅街を駆け抜けていった。
「やぁ、急に呼んでごめんね」
職員室の入り口から少し入った場所で、担任の"有香里"先生が言う。
「えーとね、これを生徒会室に届けて欲しいの」
それは生徒からの要望書だった。
「分かりました」
俺はプリントの束を両手で抱え、職員室を出た。
職員室から生徒会室までは校舎の端から端まで歩かねばならない。
それもアニメやラノベの事を考えながら歩けば一瞬だ。
生徒会室に着いた俺はノックする。
「はい」
静かな声が扉の先から聞こえてくる。
俺はその声に聞き覚えがあると思いつつドアを開ける。
「は……」
その光景に俺は固まる。
部屋の一番奥、生徒会長の席に昨日の子が座っていた。
その子は一瞬驚いた表情をした後フッと微笑む。
「木下健君ですよね」
「は、はい。このプリントを届けに来ました」
「分かった」
その子はプリントの束を机に置くと
「これ片付けるからちょっと待って」
会長は席に座るとプリントに目を通し、時には印を押し、時にはそのまま反対側に置く。
「まさか、昨日の子が生徒会長だったなんて」
「私もビックリした。まさかあの"有名"な木下君だったとは」
「ゆ、有名って?」
「君は生徒会の中では有名」
「な、何で」
俺は食い下がる。
「君、去年生徒会に要望書出したでしょ」
「あっ」
俺はハッと思い出す。
「図書室に"ラノベ"置いて欲しいだなんて最初誰が出したのかと思った」
「ハハハッ」
俺は笑って誤魔化す。
「先輩、それ知ってたんですね」
「まぁ、あの時は副会長だったけど速攻却下した」
「ヒ、ヒドイ……」
当たり前の事なのだが、オタク的にはヒドイと思ってしまう。
にしても生徒会室で一人座って、プリントの束を片付ける会長は昨日の彼女とは別人のようにクールで確かにラノベは読まなそうだし、却下されても当然な気がした。
ガタガタ
会長が立ち上がる。
机にあったプリントの山はスッカリ片付いていた。
噂にだけは聞いていたが流石、2年生で生徒会長にして学年成績トップの三寺一葉だ。
トコトコトコ
夕日に照らされた坂に俺と会長の影法師が傾斜で縦に長く写っている。
(まさか昨日の子のが生徒会長だったとは……)
(正直お願いしづらい……)
俺が悩んでいると
「あのさ……」
「はい?」
会長の急な言葉に驚く
「正直、興味があった」
「君とラノベに」
目の前の橋の下を新幹線がフルスピードで駆け抜ける中、会長が言った。
「ふぁっ何で?、会長さんが!?」
「うーん、君の熱意が凄かったから」
「熱意?」
「そう、あの要望書の字には熱意がこもってた」
俺はここぞとばかりに言った。
「あの、会長」
「何?」
「俺のヒロインになってください!」
まるで告白かのような勢いで会長にそう告げた。
「どう言う事?」
会長が不思議そうにしている。
「いや、俺ネットでラノベ書いてみようと思って」
「へぇー」
会長は俺が差し出したスマホをマジマジと見ている。
画面はもちろん小説投稿サイトだ。
「今までかなりの数のラノベとかアニメを観てきたんですけど、毎回、俺落ち着いた清楚系な子を推しにしてて……いずれ小説を書くときにはそんな子を彼女にしようと思ってて、昨日会長に会った時、なんかこうビビッと来たって言うか……会長の清楚な雰囲気とかちょっとマイペースな話し方とかそれでいて頭が良い!完全に俺が思い描いていた彼女像なんです!」
(しまった)
つい早口で力説してしまった
オタクの人は分かるだろうがつい好きな話になると一人で話し続けてしまうのだ
俺の褒めともとれる力説に照れたように俯くと
「分かった、ヒロインになってあげる」
「本当ですか!?」
「だから」
「だから?」
「君も主人公になって」
「へ……」
「あと会長じゃなくて一葉先輩で良いよ」
か…じゃなくて一葉先輩が顔を上げ、告白した後のように少し照れたような表情で俺に言った。
そんな俺達を夕日がオレンジ色に包みこんだ
最後までお読み頂きありがとうございます
本作は急遽始めた新シリーズです
と言うのも隣の席のロリ幼馴染が行き詰まってしまった為と言うのとやる気があるうちに書かないと書かずに終わりそうだからです。隣の席のロリ幼馴染シリーズは12月頃から更新再開予定です。
そして本作は仲川さんちの四つ子家庭教師が逆五等分の花嫁感があるように参考にした作品があり、冴えない彼女の育て方です。
さえカノはゲーム開発ですが、本作はラノベを書くと言う主題の違いはありますが参考にはさせて頂いています。ちなみに本作の企画はかなり前からありましたが上手くまとまらず没にしてました。でも今回さえカノを見て意外と行けるかもしれないと一気に書いてしまった作品です。おまけで本作は筆者の日常でもあります(笑)
次回もお楽しみに。