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5話 「お口直しには新キャラを」

 4月15日 火曜日。

 登校二日目にして、俺、佐々木佐竹は重大なミッションを背負うことになった。


 昨日、吉野先生から言われた、フリーランス部設立に際しての条件...。

 

  ①部員を最低二人増やすこと

  ②明確な成果を挙げること


 これを仮入部期間の金曜までにできなければ、部の設立は認めない...か。

 まずは部員になってくれる人を見つけなくては...。


「あ、さき。おはよー」


「おはよ」


 さ、佐々倉さん....。


 昨日帰ってから、部員の候補を考えてみた。

 昨日のうちに話したのは、佐々倉さんと天野、化学の子と、体育で数人。この中から誰を選ぶか。まあ、親密度から考えれば、佐々倉さんと、不本意だが天野が妥当だろう。

 佐々倉さんとは昨日フリーランス部について話したし、なんならあのときおもしろいねって笑ってくれた。バスケ部に入るって言ってたけど、もし兼部ができるなら、不定期参加でも大丈夫って言えば入ってくれるかもしれない。いや、昨日の感じ、向こうから部活について聞いてきたし、意外とすんなりOKしてくれるのでは....。と、とりあえず聞いてみるか....。


 長い間ほこりを被っていた佐々木家に代々伝わる 勇気 とやらを引っ張り出し、声をかける。


「さ、佐々倉さん」


 こういう時は、昨日の会話が続いてるかのように、自然に話しかけてしまえばいい。


「あ、佐々木くん、おはよう」


「お、おはよう。あの、フリーランス部のことなんだけど....」


「フリーランス部?」


・・・


「あ、えっと....」


「....あー! 昨日言ってた部活のやつね、ごめんごめん。それがどうかしたの?」


「あ、いや......」


「ん?」


「せ、先生に言ってみたら、新しく部活として認めてくれることになったんだ。い、一応言っておこうと思ってね、昨日ちょっと話したし、ははは...」


「ほんと? すごい、よかったね。楽しい部活になるといいね」


「う、うん。頑張って....みるよ」


・・・


 会話は終わり。

 椅子を前に向け直し、HRが始まるのを待つ。


 ──情けない。


 何を考えていたんだろうか、俺は。

 少し話をしただけなのに、仲良くなったと、親しくなったと、そう思ってしまった。

 昨日のことは佐々倉さんにとって、困っていたクラスメイトをデフォルトの善意で助けたに過ぎない。

 部活の会話も、沈黙を避けるための話題の一つ。ただの取るに足らない会話。明日になれば忘れてしまうのは仕方がない......。



 お昼になってお弁当を取り出し、中庭へ向かう。

 昨日の散策で、一人で落ち着いて食べられそうなところを見つけておいてよかった。


 ──佐々倉さんが昨日話したことを忘れていたのなら、もう一度説明をすればいい。彼女に興味を持ってもらえるよう努力をして、部員になってくれないかと、そう誘ってみればいいのだ。断られたっていい。バスケ部だってあるわけだし、むしろ断られて当然なくらいだ。なにもおかしなことではない。


 けれど俺はそうしない。断られることがわかっていたら、傷つくことがわかっていたら、そんなことはしない。いや、自分が傷つくことが嫌だ、ということですらないのだ。俺が佐々倉さんを誘い、それを彼女が断った。その事実が怖い。俺が誘ったことで佐々倉さんが何を思うのか、もし周りにこの事実が広まったら、周りからどう思われるのか。それが怖い。怖くて、だから、──何もしない。


 彼女にとって昨日の会話が取るに足らないものだと分かってしまった時点で、俺は一発KO。もう一度立ち向かう勇気は残っていない。

 

 ──本当に情けない。


 いつも他人の目ばかり気にして、他人に合わせて、自分から動こうとはとしない。

 自分がそんな人間だったということを、改めて思い知った。


 イメチェンをして高校デビューだ、なんていうが、人間の本質は変わりっこないのだ。

 皮を被ったところで、そんなもの、すぐに剝がされて終わる。


 

 お弁当をもって中庭のベンチに行くと、すでに先客がいた。

 今日は一人で落ち着いてお昼を食べたかったのに....。まあ、ここまで来てしまったんだ。わざわざ教室に戻ることもないだろう。もう一つのベンチでお弁当をいただくとするか....。


 ベンチに座る際、横目で先客の方をちらっと覗かせてもらった。そして、すぐに違和感に気が付いた。


 見知った顔だ....。

 おかしい。俺はまだ学校に来て二日目。もちろん、佐々倉さんや天野をはじめ、何人かのクラスメイトの顔は知っている。しかしこの感じは、 ”見たことある顔” 以上の何かこう、もっと話したことがあるような...。


 そこまで言って、気が付いた。



「あ! 化学のときの」


 思わず声に出てしまった。

 そう、彼女は、昨日の化学の授業で隣にいたクラスメイトだ。

 話したことある人物リストには”化学の子”として記憶していたため、顔も名前もうるおぼえであった。というか、名前に関しては聞いてすらいなかった気がする。


 お箸で卵焼きを口に運びかけた状態のまま、彼女はこちらを振り向いた。

 化学の授業では見えなかった彼女の顔が、彼女の目が、こちらをはっきりと向いている。


・・・


「はむ....」もぐもぐもぐ


 ポーズ画面のスタートボタンを押したかのように、彼女は止まった動作の続きを自然と再開してみせた。そして、こちらを見ながら申し訳程度の会釈だけして、再び元の姿勢で、楽しそうにお弁当を食べ始めた。


「あ、あの....」


 この気まずい空気のまま、のんびりお弁当を楽しむことができるとすれば、それは、他人に興味がない、いわゆる図太い人間なのだろうか。しかし、残念ながら俺は違ったようだ。気が付いたら、反射的に声をかけてしまっていた。


 すると彼女は、口に含んでいたものを飲み込み、ゆっくりお箸をおいて、再び俺の方を向いた。そして、彼女は俺にこう言った。言い放った。


「せっかく一人で食事を楽しんでいるところを邪魔しないでくれ」



 彼女のこの一言で、さっきまでいろいろ考えていたことが、全部どこかへ行ってしまった──。

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