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4話 「フリーランス部」

 放課後、仮入部届をもって、担任のところへ向かった。


 13Rの担任、吉野 由美子(よしのゆみこ)は英語の教師のため、4階の英語科準備室にいるはずだ。4階は3年生の教室が並んでいるため、1年生の、しかも登校初日の俺としてはだいぶ肩身が狭い。


 英語科準備室に到着し、ドアをノックする。


「失礼します。吉野先生はいらっしゃいますか?」


「はい」


 ハイヒールのハイヒール部分が床をコツコツと鳴らしながら、こちらに近づいてくる。


「はい」


──


 吉野先生の凛々しい(たたず)まいは、その美貌も相まって、高校入学したての青二才にとっては一瞬息をのむほどであった。


「何か用ですか?」


「ああ...えっと、仮入部の希望届を提出しに来ました」


「...君は私のクラスの者か?」


「あ、はい。病気で1週間休んでしまって、今日初登校の佐々木です」


「ああ、今日からの。すまんな、忘れっぽくて。提出ありがとう」


 クールで美しく、何事も効率を重視し無駄のない振る舞い。対面するのはまだ2度目だが、先生からはそんな印象を受けた。少しさばさばした感じもあるが、そこも魅力の一つなのだろう。


「それと先生、委員会のことなんですが...」


「ああ、そうだった。それも伝え忘れていたな。少し待っていてくれ」


 忘れっぽいところも、魅力の一つ...なのだろうか。


「先週中に委員を決めなければいけなかったので、余ったところに勝手に入れさせてもらった。えー、君は...美化委員だな」


「はぁ、美化委員ですか」


「詳細は、明日にでも女子の美化委員の遠藤に聞いてくれ」


「わかりました。ありがとうございます。失礼します」


 よし、これでミッションコンプリートっと。

 それにしても、美化委員か。教室や廊下、水道の清掃などをやるのだろうか...。

 んー。面倒くさい。やはり余るだけはあるな、美化委員。とりあえず明日、遠藤さんっていう人に聞いてみるか。


「おい、ちょっと待て」


 ギクっ。


 ...やっぱりだめだったか...。


「佐々木、なんだこれは」


「な、何のことでしょう...」


「とぼけるな、バカ者。こんなのあるわけないだろ、フリーランス部など。なんだこれは」


 ミッションは失敗だ。これより緊急離脱する。


「おい、どこへ行く。説明をしろ説明を」


 つ、捕まった...。


「い、いやこれはですね...。い、いわゆるなんでも屋ってやつです」


 数時間前に適当に思いついて佐々倉さんに説明した内容を必死に思い出す。


「なんでも屋?」


「はい。生徒からのあらゆる依頼や相談に応え解決に導く、ボランティア精神あふれる由緒正しき部活です」


 先生の表情が穏やかでなくなっていくのを肌で感じる。ど、どうしたものか。


「...まず第一に、さっきも言ったがそんな部活はうちにはない。なぜ仮入部の希望届でこれを書いた...。第二に、もし新しく作るとしても、その部を統括する顧問が必要だが、現在は全ての教師が何らかの部活動を担当しているためそんな人手はない。」

「そして第三に、その活動内容では部活動としては認められない」


「ど、どうしてですか」


「部活動には定期的な活動計画が必要だ。予算や運営の面でも、『あらゆる依頼に応える』などでは不確実な部分が多く、明確な目的がなくては部として認めることはできない。それに、部員はまだお前ひとりだろう。一人のために新たに部活を設立して顧問を付ける余裕などない」


「そ、そうですか...」


少し考えて、俺はこう続ける。


「──では、これならどうでしょうか。この部の明確な目的は、部員の問題解決能力、並びにコミュニケーション能力の向上。そして、毎月の終わりに、その月に受けた依頼と具体的な活動内容を顧問の先生に報告する。これなら、活動が透明化されしっかりと目的を持った部になりますし、活動範囲が学内なら予算も運営も負担は少ない。他の部を担当する先生が掛け持ちしてもほとんど担当の部活に影響はでません。部員は......な、なんとかします!」


 ・・・


 我ながら、熱心に語ってしまった。もとより、部活に入らず早く帰りたいという意思をくみ取って見逃してくれることを期待して書いただけで、指摘されれば既存のゆるい部活に入るつもりだったが....。


「ふふっははは」


 せ、先生が笑った。

 佐々倉さんもそうだったが、普段クールで表情を変えない人が笑うと、こんなにもかわいいのか....。


「君は面白い奴だな。明らかに部活動をやりたくないがために適当にでっち上げたものを、ではこれならどうでしょうかと、この場で即興で考えてこの私をやりこめようとするとはな」


「い、いえ、そんなつもりは...」


「....よし、いいだろう。フリーランス部の設立を認めよう」


「え、いいんですか?」


「ただし、条件がある」


「じょ、条件...ですか」


「まず、この私が顧問として、フリーランス部の活動をしっかりと見守る。そして....明日から始まる4日間の仮入部期間中に、最低でももう二人部員を増やし、明確な成果を挙げろ。もしそれができなければ、部の設立は認めん」


「は、はい!わかりました。ありがとうございます」



 それから学校をあとにし、帰路に就いた。


 な、なんと、子供のころから夢にまで見たフリーランス部の設立が叶うとは....。


 だがあの条件...。

 登校初日で友達もいない俺に、部員を二人も集められるだろうか。

 それに、早く帰りたいがために適当に考えた部活だが、顧問が担任だったり、成果を挙げて報告しなくちゃいけなかったり....なんか普通に大変そうなのは気のせいだろうか.....。


 まあとりあえず、今日は帰ってゆっくり寝よう。

 登校初日、友達はできなかったがいろいろあったように感じる。


 .......ここから俺の青春がはじまるんだ。全力で全うしてやる──。

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