3話 「友達募集中」
昼休み中に校内を散策することにした。
──この東京都立日比山高校は都立校の中でもトップクラスの学校で、都心の一等地に位置している。国会議事堂に集る人々のシュプレヒコールが授業中のBGMとなって、生徒たちの学問への意欲を掻き立てるらしい。どんな学校だよ。
俺も受験のためにかなり勉強したし、入学が決まって親も喜んでくれた。出だしはこけてしまったが、せっかくいい高校に来たんだ、いろいろ楽しまなくては。
まずは、一階から見て回るか。この学校は入り組んでいてわかりにくそうだ。
それにしても....
──
「私のお弁当分けようか?」
「へ? い、いや大丈夫! あんまりおなかすいてないしさ、さ、佐々倉さんこそ教室戻ってお弁当食べてきたら? 俺は少し校内を見て回ってくるよ」
──
はぁ...。自分がこんなにも愚かだとは思わなかった。あの一世一代のチャンスをみすみす逃してしまうなんて...。自分の不甲斐なさにもあきれたものだ。
「あ、佐竹」
校内をしばらく歩いていると、第二号の声が聞こえた。
なにやら重たいものを担いでいるようだ。
「なにしてるんだ? こんなところで」
俺がどこで何をしていようとお前には関係あるまい。と、思いつつ、クラスメイトが教室から離れた別棟を手ぶらで歩いていたら、そう声をかけるのも自然だなと気づく。やはり俺はどこかひねくれているのだろうか。いや、そんなわけはない。ひねくれているとしたら、この学校の構造かこの世界そのものだ。
そこまで言って、やはり自分はひねくれているということを自覚した。
「ちょっと校内を散策しようかなと。お前こそ何してるんだ?」
「体育委員の仕事でね。先生に言われて、次の体育に使う新しいポールを運んでいるんだ」
「へえ、委員会に入っているのか。大変そうだな」
「委員会はクラス全員がどこかに入るから、君も何かの委員なはずだよ」
へ?
そんなことは聞いていない。あの担任教師め、ホウレンソウがなっていないぞ、ホウレンソウが。かわいさだけで生きてきたのだろうか。この世はかわいいだけじゃダメに決まっているのに...。
「おんなじクラスの人?」
「そう。紹介するよ、転校生の佐々木 佐竹くん」
ちげーよアホ。入学して1週間で転校するやつがどこにいる。
・・・
.今の発言はこの時代、セーフだろうか。まあ、1週間で転校することもなくはないか....。まったく、生きづらい世の中になったものだ。やはりこの世界がひねくれているとしか思えない。
「あ、どうも、佐々木佐竹です。転校生っていうわけじゃないんだけど、病気で最初の1週間ほど休んじゃって...」
「そーなんだ、そりゃ大変だったな。俺は石井。隣の14Rの男子体育委員だ。よろしくな。」
「14ルーム?」
「知らないのか? この学校じゃ、学年とクラスの番号を合わせて○○ルームって呼ぶんだぜ。俺は1年4組だから14Rってわけだ」
「へえ、そうなのか」
なんだろう、俺はやっぱり転校生なのだろうか。この学校について少し知らないことが多すぎるように思える...。
「そういえば、佐竹は仮入部の希望届は出したのか?」
「ああ。いや、今日の放課後出しに行こうと思ってる」
「そうか、じゃあその時一緒に、先生に委員会についても聞いてみるといいよ。じゃあ、俺たちは仕事があるから。次の体育、遅れるなよ」
遅れはしないさ。一緒に体を動かし汗を流すことで仲良くなるものだ。次の体育で友達爆増間違いなしだ──。
そのあと、ぐるりと外を見て回り、教室に戻った。
みんな体育の着替えに行ったのか、教室を出る前より人数が減っており、佐々倉さんの姿もなかった──。
「気をつけ、礼」
「ありざっしたー」
今日の授業が終わり、経過報告。
・・・友達って、なんだろう。
友達ができないことへのショックで、つい哲学的な問いを立ててしまった。
体育では何人かとは話せたものの、ペアを組んで練習する形式だったため、みんなはすぐに友達を見つけてペアを組み、余った俺は基本先生と練習していた。誰かと話をしていても、すでに友達となったやつを見つけては、俺との会話なんか一瞬で忘れて、違うところで楽しそうに新しい会話が始まる。
天野の奴も、すでに仲良くなった人間や隣のクラスの奴らと楽しくやっているだけで、俺のことは見向きもしない。
やはり友達などではないじゃないか....。
すでに出来上がっている関係に部外者が入るのは難しい。それは当たり前のことなのだろう。ましてや、俺みたいな受け身で生きているような人間には、高すぎるハードルといってもいい。
──くそ。なんでインフルエンザなんかにかかったっちまったかなぁ...。
世界中に向けて声高に嘆いていると、またもや後ろから背中をつつかれた。いや、訂正しよう。背中をつついてくれた、くださった。
「佐々木くん、お昼大丈夫だった?」
「あ、うん、まあなんとか。佐々倉さんも今日は、あ、ありがとう」
「全然いーよ。またなんかあったら何でも聞いて。じゃあね。」
”終わり良ければ総て良し” なんていう魔法の言葉があるが、全くその通りである。
今日の最後に佐々倉さんと話せたなら、友達ができなくたって問題ナシ。佐々倉さんの存在が友達10人分みたいなところはあるな、うん。