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2話 「お弁当は忘れるに限る」

「気を付け、礼」

「ありがとうございましたー」


 午前の化学の授業が終わり、昼休みになった。


 結局午前中話せたのは、天野と化学で隣だった人だけ…。それも、あれはかなりおとなしい個体だった。

 なかなか思うように友達が増えないな…。まあ、まだ午前が終わったばかりだ。気を落とすには早いだろう。


「おーい、金田ー。中庭で一緒に飯食おうぜー」


「いいねー、いこー」


 化学の授業から戻り、各々が昼休みを満喫し始める。


 そうだ。昼休みこそ友達を作るチャンス! 一緒にお弁当を食べながら親睦を深め…。


 カバンに手を入れお弁当を取り出そうとする。


 ──あれれ、おかしいぞ。


 いくら探しても、出かける前にカバンに入れたはずのお弁当が見当たらない。

 これにはコナン君もびっくりである。

 

 どうやらお弁当を忘れてきてしまったらしい。──さて、どうしたものか。


 カバンの中を何度も覗いたり周りをきょろきょろしたりしていたら、後ろから声をかけられた。


「佐々木君、もしかしてお弁当忘れちゃったの?」


 だ、第一号!

 うれしさのあまり、つい声に出してしまいそうになった。やはり、『佐々』のつながりは偉大であったか。


「あ、うん。そうみたい…。ここって、購買とかってある?」


「あるよー。えっとね、教室出てすぐの階段を地下まで降りてー、えーっと、それから…」


「そしたら私、案内しようか?」


 ──インフルエンザ、万歳。そう思わずにはいられなかった。


 い、イベント発生きたー!この申し出を断る理由など、この世に存在するはずがない。


「ほ、ほんと? それじゃあ──」.


「さきー、こっちで一緒にご飯食べよー」


 先ほどの佐々倉さんとのファーストコンタクトに水を差した人物の声が、再び僕らを襲った。


 あ、あいつ!

 また俺の佐々倉さんを横取りするつもりか。 俺に何か恨みでもあるのかこんちくしょう。


「うーん ちょっと待っててー、あとで行くー」


「じゃ、行こうか」


 ──ビクトリー…(すっ泣)。ふっはっはは、これで一勝一敗だな金髪娘よ。次は勝ち越してみせる。


 俺と佐々倉さんの時間を奪おうとした金髪女子に勝利宣言のまなざしを送りながら、佐々倉さんの後を追って教室を出ていく。金髪女子は自分の犯した罪を自覚していないようであった。

 もう一人、教室を出ていく俺らを誰かが見ていたような気がするが、気のせいだろうか。とりあえず今は、このイベントをいかに成功に導くかに尽力しよう。



 ──とは意気込んだものの、教室を出てから少し沈黙が続いてしまっている。なんとか話題を振ってなにか話をしなければ…。


「さっき話せなかったけど、佐々木君は部活どこに入るか決めてあるの?」


 さ、先に話題をふられた! 男としてふがいない…。


「ぶ、部活かー。佐々倉さんは何か決めてるの?」


「うん。私はバスケ部。中学の頃からバスケやってたから」


「そ、そうなんだ」


 スポーツ女子か。素晴らしい。


「で、佐々木君は?」


「あ、ああ。特に決めてないな。フリーランス部でもあればいいんだけど」


「フリーランス部?」


「んーなんていうのかな、なんでも屋みたいな? なんでもやりますよーって言っていろんな依頼を引き受けたり、ときには自分で好きなことをやってみたりするんだ。俺のボランティア精神の高さは天をも突き抜けるほどだからね、これ以上俺にふさわしい部活はない」


 まあ、依頼なんてそうあるわけないし、たださっさと帰りたいだけなんだが。


「ふふっ。佐々木君、おもしろいね」


 ・・・


 佐々倉さんが笑った。

 それまでずっとクールな感じで、どこか落ち着いた雰囲気をまとっていた佐々倉さんだったが、不意に見せたその笑顔は、あまりにも美しく、俺の心を魅了するには十分すぎるほどであった──。


 かわいいのにどこかそっけなさもある。スポーツができて他人にもやさしい。佐々倉さん、ぜひともお友達になっていただきたい。そんな願いを伝える勇気もなく、ただ彼女の後ろ姿に心を奪われていると、いつのまにか購買の前まで来ていた。


「さ、ここが購買…って…ありゃー。全部売り切れちゃってますね、これ」


 お、俺の昼飯が…。


「どうする?」


 まあ、一日くらい昼めしを抜いても大丈夫だろう。初日で緊張しているせいか、正直そんなに食欲もない。


「仕方ないし、今日は我慢するよ。わざわざ案内ありがとう、佐々倉さん」


 んー、と佐々倉さんがつぶやく。そして、次の発言に俺は自分の耳を疑った。


「…わたしのお弁当分けようか?」


 ──へ?


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