撮ったはいいが繋がらない・・・
増田です。
これは僕の責任だな・・・
「そんなこと言わないで!助監督兼スクリプターの私も連帯責任よ・・・」
そう、香盤表を作るまえに、マイティさんスライダーを撮ってしまったのが原因です。
豪快な映像は撮れました。その場で学校のPCで仮で繋いでもいい雰囲気だったんです。長さもそれなりに有りましたし、伸ばすも縮めるもそれなりにやりようがあるように見えました。
そのシーンだけ見れば、ですが。
水野さんも僕も、こんな迫力ある映像ならどこかに使い所はあるだろう、と思っていました。根拠が無いにも関わらず。
そのあと、僕の脚本を元に各カットを撮っていったのですが、最終的にOKカットを繋ごうとしたときに気づきました。
・・・スライダーのシーン、入れるとこないじゃん・・・
最初は、もっと適当に、PV/MV 風に、特に繋がりがなくても、意味なく場面転換してく予定だったものが、水野さん発案により、わりと綿密な撮り方になりました。
一言でもいいから出演したい、というクラスメイトには1~3秒の出演場面が当てられ、写りこめればいいけどセリフはイヤ、という人は、ガヤとして。
裏方がやりたいのでクレジットだけされれば充分というメンツは、完全未出演です。
正直、演技はマイティさん以外、だいたい全員下手です。けど、スピードシスターズはアテ書きしているので、それなりに見えますし、頷くだけ、驚くだけ、ならそんなに不自然じゃないです。
特に最後の乱闘シーンは普通にみんな驚いていましたから、自然な表情やあわてかたですwww
ざっくり10分で流れはシンプルです。
・中央子の論理的説明
マイティさんと吉村先生が物理実験室で中央子と重力遮断について議論
マジの議論すぎてまったくわかりませんでしたが、ホワイトボードに書かれた数式や概念図など、それっぽい画は撮れました。
そこにオーバーレイでスピードシスターズのクラスマッチ画像が入ります。
このときユカさんが理論①のあれを使った、とか、リコさんが実践③のこれを使った、みたいなやつです。
まあ、リコさんのは単なる三年男子に対する武力行使にしか見えませんが・・・
・日常のドタバタ
まあ、みんなを写すための場面です。
最後は渡り廊下をゆっくり歩いてくる担任と自転車装備のまま中庭から昇降口を通らずに、校舎の壁面を4Fのクラスまで驚異的身体能力で飛びこんでくるマイティさん+受けとめるジョージくん。
受けとめたはいいけどそのパワーでジョージごと机や椅子を巻き込んでがらがらとふっ飛んで、じわじわと階段を登ってくる担任と、あわてて机や椅子を並べなおしているクラスメイトの対比で、ギリギリ間にあって教壇側のドアが開くところで締めです。
特撮というか、逆回しや、動画ソフトで念の為の安全帯や仮設台やなんやらを消したりして合成しました。
まあ、彼女の超絶パワー頼みだったのは否めません
・突然の反マイティさん勢力、トクリュウの手先が校内に?
暗い部屋に黒っぽい衣装ですから、撮るのはちょっと大変でしたが、別の利点がありました。
動きはよくても演技が下手。逆に、声が良くても見た目があまり迫力ない。みたいなクラスメイトの出番を一気に作れました。
一部のメンバーは、完全アフレコ、アテレコです。
ももかんちゃんが攫われるところでは、ジョージくんが本人役以外の二役目で出ています。
スピードシスターズの中ではちんまりして見えますが、普通に165cm+厚底バッシュもありますから、そこから見て威圧感のある男子はあまり多くありません。
黒タオルを頭に巻き、黒いマスクをしてサングラスという、顔はほとんど出ない役なので、声を当てる人を別に立てれば問題ない、というのと、ももかんちゃんが見られ慣れてて、別に今さら恥しがらないという理由で彼になりました。
そう、ももかんちゃんを羽交い締めにして連れ去る役です。
正直、ちょっと、うらやましかったです。
悪のトクリュウのボス役の赤池くんは、予想外に演技がうまかったです。サングラスはしていなかったので、悪役感があまりありませんでしたが。
・大乱闘からの大団円
トクリュウのバックにいる暴力団員が来るらしい、ということで緊迫する中央高のクラス内のシーン。
そこ校門前に移動して、引きで撮ってからズームしていく校門からの侵入。
そして、マイティさんのいつもの硬い言葉からの意味不明な関西弁に変化する長セリフからの大乱闘。
ほうほうの体で逃げていくヤクザ風社員さん達。
時系列的に合わないけど、いきなり夕日の場面になって、ヤクザの手先のトクリュウになっていた連中も改心した感じに集い、マイティさんがふっと上を見上げて指差した先にカメラを向けると夕焼けに染まる富士山。
最後の場面の表情といい、ポーズといい、プロのモデルなんだなーとみんなが思った瞬間でした。やわらかな笑み、という感じでしたもん。まったく普段そんな表情見せませんしね。
まあ、地理的な要因で、富士山エンドでいいっしょ? みたいな、みんなの総意でそうなりました。
でも、それが撮るのに一番時間がかりました。
だって、夏場に夕焼けと富士山が見えるのって、実はレアケースなんだもん。
四日で済んでラッキーとすら言えます。
著作権フリーの効果音楽もわりと得意なメンバーにダウンロードしてもらい、URLとか表示すべき名称なんかの確認と同時に本当に著作権フリーかの確認を別のメンバーにしてもらいました。
そこまでできて、廊下を飛行しているシーンをどこに入れればいいのかわからなくなってしまった、という冒頭の状況に戻ります。
どうしようか・・・水野さん・・・
「・・・ん・・・いっそのことご本人に聞くっていうのはどう?」
そういや、スライディングレーンの考え方もご本人でしたね。
「ね、行ってみましょう。まだジョージくんもいるでしょ?」
そうだろうね。・・・はあ・・・
・・・
水野さんと僕は連れだって理学部首脳部の根城、物理準備室に向かいました。
入ってもよろしいですか?とノックをしたところ、
「はい、どうぞ」
「あ、ジョージくんの声ね。じゃ、二人ともいるわね」
ドアを開けて入ると、割と迫力のある三年生が揃っており、手元のノートPCから目線を上げ、こちらを見ています。
真ん中の偉そうな席にマイティさんが座っており、ノートPCに向かって仕事しています。その斜め後ろにジョージくんが立っています。
ちょっとビビります。少し遅れてマイティさんが目線を上げてこちらを見ると、
「どうした?カントクではないか? 私に何か用か?」
ちょっと高嶺祭の展示の話で・・・
「・・・では、場所を変えよう。鳥居原殿、今日は物理実験室を使う予定はなかった認識だが。部長の書類仕事も、あとは皆に任せて良いと考える」
「だね。いいと思うよ」
・・・
やれやれ、理学部の首脳陣ともなると、なかなか迫力あるメンバーだね。
「まあ、そうだな。・・・ん・・・どうせ、私が一番迫力ある、とでも繋げるつもりか?」
いやいや、本当に一年なのに部長なんだなあ、とは思ったけど。
「新歓の成績順だから仕方あるまい。最初は部長のやりかたなどわからず、お飾りのようなものだったが、やっと分かってきた。それなりに忙しいし、煩雑で面倒な仕事だ」
みたいだね、ビジネスマン・ウーマンみたいだったよ。
「それは性別を特定しないときはビジネスパーソンでいい」
ああ、そういうのテレビかなんかで聞いたことある。で、映像のことなんだけど
「まあ、カントクが来るからには他にあるまい」
えと、水野さん?
「あのね、マイティさん、音はまだだけど、カットだけラフに繋いで倍速再生するから、このタブレットで見てくれない?」
「わかった、クミ。ジョージも見るか」「はい、マイティさん」
・・・
「存外に良く出来ているではないか。脚本も監督も良かったということだな」
いや、八割方は、スクリプターの彼女のおかげですよ。「いえいえカントクですよ」
「・・・そういう譲り合いはいいから・・・問題無いと思うが・・・アフレコ用に声だけ撮り直しが必要とか、そういう話か?」
「マイティさん、きっと違います。僕から話していいですか、カントク?」
かまわないよ。たぶんそれだ。
「あのですね。上から目線で申し訳ないですが、これ自体、高校の文化祭レベルとしては、ちゃんとした映像作品になってると思います。そこは問題ないんですが、夏休みの最初に撮ったマイティさんの豪快滑走シーンを入れる余地がないか、入れるとしたら、ずいぶんと唐突に入れるしかないって話だと思います」
その通りです。無理に入れれば入りますが、無理感がでちゃいます・・・
「まあ、そうだな。では、ボツにすればいいのでは?」
マイティさんはボツでもいいんですか? 結構みんな気合い入れて撮ったと思うんですが・・・
「慣れの問題だな。時間を掛けて苦労して撮った構図がボツ、は、モデル稼業では珍しくない」
そうなんですね。でもそれだと困ることがありまして。
「何だ?」
大道具のクラス展示にあのスライダーの屈曲部分と、マイティさんの偽の足を使うことになっているんですよ。
それありきでデザインを作っちゃってるんです・・・
「Oh! umm・・・確かにそれだと映像だけなら兎も角、クラス展示や装飾が映像と繋がらないな・・・今からではデザイン変更も難しいであろう」
そういうことです。ボツにするとマイティさんが慣れの問題でさほど気にならない、というのは想定外で、結構怒るかも、とすら思ってたんですが、大道具やソロバンのやつは怒るだろうな、と思ってます。
「そうだな、珠算は怒るか極めてガッカリするか、まあ、良い反応は得られないだろうな」
あのスライダー台は、クラス総力戦でしたから。なんとか入れたいんですが、どこに挿入しても違和感しかないんですよ・・・
「確かに、話がまとまっているから、途中にアレを割り込ませるのは難しそうだな」
というわけで、すっかり困って、ご本人に相談に来た次第です。
「なるほど。承知した。しかし、どうしたものかな・・・」
「マイティさん、カントク、オープニングに使うのはどうですか?」
オープニング?
「子供の頃、アニメとか見てて、オープニングって内容とまったく無関係じゃなかったですか?毎回同じですし。まあ、ウチにはテレビが無かった時期もあるのでこーちゃん・・・神田くんちで見てましたが」
テレビが無いウチ? まあ、そういうこともあるか・・・確かに、タイトルコールから主題歌、提供スポンサーまでは基本変化がないな。
「ふむ・・・検討に値するな、ジョージ。カントク、あのシーンであれば、皆のスマホ映像なども使って伸ばせるだろう? そこに本来映画であれば最後に流れるスタッフロールを載せるのはどうだ? 最後だと帰るやつもいるだろう?」
それは・・・思いつきませんでした。
「県警や市の治安委、そしてウチの会社も確実に観客に見えるところに協力のクレジットを載せてやったほうが喜ぶはずだ」
おっしゃる通りです。
「で、あれば、追加でワンカット撮るか?」
なにをですか?
「まさにここだ。吉村教諭との会話で、私から中央子の存在とその意義について振るのが最初だったろう。ここで撮ったはずだ」
そうですね。ここなら日も当たりませんし、照明も蛍光灯ですから、明るさを調整すれば、マイティさんだけ撮り直せば繋げられそうです。
「では、リハというわけではないが、一回話してみるので、カントクとして行けそうか見てくれ」
わかりました。念の為カメラ持ってきてよかったです。
あ、少し離れます。そちらのホワイトボードの横に立って下さい。
少し寄りで撮れば、このまんま繋げることもできるかもしれません。
いいですか・・・5,4,3,・・・
「と、このように実際に飛べてしまったわけだ。私の中にはそれなりに解釈可能な理論のようなものがあるが、まだ、『の、ようなもの』の、過ぎぬ。私は数論なら道半ばとは言えまだしも勉強中。しかし、物理学的、量子力学的な知識はまったく勉強不足だ。申し訳無い。恐縮ではあるが、吉村教諭に御知恵を拝借したい。少々お時間と頭のほうをお借りできれば幸いだ」
・・・はい、カット。
しかし、一発でプロンプトも指示も出していないセリフを完璧にしゃべって演技するかぁ? 目線もちゃんと映像の方向通りだし、すげーな、しか出てこないよ。
「ビデオチェックしましょう、カントク」
はいはい、水野さん。手ぶれや明るさの問題はないね・・・
いいね・・・
・・・これならフェードで繋げられるかもしれないね。
「どうだ、クミ、行けそうか」「イケてます!! 超、行けそうです!!」
「重畳である、な。」「はい、マイティさん」
ふう・・・・・・いつも通りのジョージの合いの手が心地良いよ。
マイティさんの武将喋りもね。




