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フライングガール!  作者: Jack...
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苦労人の汐田殿

あっしですかい?


汐田(うしおた)っていうチンケな元ヤクザでやす。


一年半くらい前に組を潰されて、これでオレもどこかでノタれ死にか、と、思っていたんでやすが、なぜか、サラリーマンとして生き延びておりやす。


組を潰された経緯というのも、みっともない形でやす。


元々、大したヤクザでもなく、人相が悪いのでカタギを怯えさせるのが関の山。

そんなハンパもんなんで、有名所の二次団体、三次団体ではとてもやっちゃぁいけんかった。

名字が似てる、というだけで、ここの塩田(しおだ)組というところに引き取ってもらったのはいいが、組長(オヤジ)は温厚なジジイで、本当にヤクザか?と思ったほどです。


実際、街としてもそれほど元気のいい街というわけでもなく、そこがシマの組の威勢なんてのも知れてるもんです。


暴力団とは言ったものの実際に抗争みたいな話にはとんと不向きの、カタギを脅すのが精一杯なメンツでした。


とはいえ、外国人労働者の中には不良もいるわけで、最低限の抑止力として存在を許されていたのと、丘野上のアニキという自称自衛隊のレンジャー崩れという助っ人はおりました。


このお人はカタギの人が思うようなヤクザです。ケンカ好き、酒好き、女好きで、まあ、問題児。


所謂客分としての所属でしたが、地元で呑むと問題を起こすことがわかっているので、ヨソの街で呑め、と言われるようなお人でした。


もう、黄泉の国のひとなので心配ございやせん。


塩田のオヤジも、あと何年かでどうやって穏便に畳むか? を真剣に考えていたようで、「あとのモンは今でも経済ヤクザみたいなもんやからどうにかなるんやが、シオタは顔がなあ・・・」と口癖のように言ってました。


一応自分の名字は「ウシオタ」なんすけど、オヤジはご自分が「シオダ」ということもあり、あっしは「シオタ」と呼ばれてました。

なんせ最初の紹介からそうですから、当然のようにシオタと呼ばれ、顔だけは迫力があるもんで、オヤジの遠縁かと思われていたようです。


丘野上のアニキはあっしより後で客分として入って来ましたが、あっさり顔だけヤクザと見破られ、けっこう小突きまわされました。

まあ、慣れてるんで適当にイナしてましたが。

正直、死んだと聞いたときは「どっかで無茶な喧嘩売って刺されたか?」と思いましたが、せいせいしました。本当にガマンのできない喧嘩馬鹿でしたから。


そんな自分も今ではサラリーマン。


不思議なもんです・・・おっと電話ですか。


はいはい、シオタです。社長、おつかれさまです。


「うむ。私だ。来週のどこかの午後で2時間くらい時間を作れるか?」


社長のご命令ならお作りします。


「そうか、では担当のものに電話させる」


いや、せめて何をやるのかくらい教えてくだせえ。


「ちょっと寸劇をやるので、顔を貸して欲しいのだ」


寸劇ですか?・・・できねえと思うんすけど・・・


「いや、演技は不要だ。お前の顔だ。以前のように強面でオラついていればいいだけだ。できれば後二人、計三人がよいぞ」


・・・おっさんヤクザの絵柄が欲しいということで?


「その理解でよろしい。如何にも的アロハシャツなどはあるか?」


ありますが、今は社長の命令通り、白ワイシャツに黒チノパンですから、事務所の回りでそれを住民に見られるのは県警的にも社長的にも問題があるかと・・・


「配達用のバンで着替え、帰りは直帰すればよいであろう?」


それで出勤扱いにしていただけるのであれば問題ございやせん。

あと、少々痩せて、迫力が落ちていると思いやすが・・・


「かまわぬ。高校生がヤクザの役をやるよりは本物感があろう」


そりゃ、元本物ですから・・・


「では頼む。追加業務ということで寸志も出すので、後で皆で呑め。大人しくな」


切れたよ。まったく・・・いつもの事か。


この偉そうな口調の社長は現在女子高生で、中学生のときに塩田組にカチコミを掛けてきたとんでもねえヤツでした。


ヤクザといっても田舎のヤクザじゃ大したこともできねえですから、実際の仕事は今と変わってねぇです。


花屋やオシボリの配達と印刷屋です。


要は呑み屋やスナックに花やオシボリを少し割高な価格で届けるかわりに、敵対的勢力や不良外人が来たときには実力行使に出るってことです。

印刷屋ってのは商店街のみなさんからチラシの注文を取ってきて店頭または新聞屋まで届けるっつうことで。

こちらも割高ですが、困った時の実力行使付きです。


実は今もまったく同じ仕事ってのが驚きさね。


スナックの姐さん方や商店街の皆さんからすれば割高度は減って、自分らも、小遣いでなく、ちゃんと給料をもらうようになりやした。


上部団体への上納金が無くなりやしたからねぇ・・・ハネる上前が少なくてもいいんでやしょう


まあ、あれをカチコミと言うどうか微妙ですが、まあ、カチコミの内でしょう。


           ・・・


「うむ、ウチの叔父貴(おじき)のスポーツショップに割高な商品を強要しているという話を聞いた。()めろ」


商店街のほとんどの店は必要経費と割り切って昔のウチ、組の事務所の会社にチラシ印刷を発注していたんすけど、どうしても従わないスポーツショップがありやした。


中央高の指定運動具店というのもありやしたが、地元的に結構強めの血筋というのもありやした。


まあ、こちらはそれが商売っすからなんとか入れてくれや、と恐喝にならねえように『お願い』をしやしたんすけど、社長、当時はその店の姪っ子が切れてウチの事務所に来やしたんすよ。


叔父貴・・・こちらの業界みたいな言い方やね。一応ヤクザ的な組織ということは判ってんのか?


「まあ、そうだろう。若いのをノサないと入れなかった故にな。致命傷は与えておらぬ。いわゆる暴力団という存在だとしたら、アレに死ぬようでは構成員として、力、能力が足りぬと言わざるを得ぬ」


いくら暴力団員とはいえ、そちらから手を出したら違法ですぜ。


「わかっておる。そちらの若手は我慢が足りぬ。バカ、アホ、小僧がイキってるのか?的に嗤うだけで手を出してきた。カウンターで落としただけだ。ボディカメラも見てわかるだろう。装備しておる」


まあ、あいつら普通のヤンキーにすぎねぇからな・・・。ボディカメラ装着で入ってくるってことは、『ヤル気』か?


「その意味は不明だが、叔父貴の店に嫌がらせをするのはやめろ。これは要請ではない。命令だ」


命令だと?従わなければどうする?


「殴る蹴るでなんとかするのが暴力団の面子には理解しやすいと思っておる」


そっちがその気なら手加減できねえぞ?いいのか、美人のねーちゃん。


「かまわぬ。先刻コンビニで買ってきたフランクフルトを食べるので10秒くれ」


と、フランクフルトを食べていたんでやす。

あっしは、ボクシング風の動きをしてやした。ボクシングなんて、ブラフもブラフ、まったく経験ねえんすけど・・・


「ほう、ボクサー崩れか?、一つ相手をしてもらおうか!」

と、相手にされてしまいやした。

あっしは焦りましたが、しょうがなくジャブっぽいのを牽制で打つ、というか普通に殴りにいってただけで、しかもそれをパンチで打ち落されて・・・あ、やべえ、こっちが先に手を出したことにされちまった・・・


と、思った隙に、さっきの串をあっしの目に向けて突き刺して来やしたんすよ


で、流石に目はヤバいって腕でガードしたんすけど。スネにキックを一発二発食らって転がされてしまいやした。


で、腕をフランクフルトの串で刺された痛みが来やした・・・こりゃあ、只事じゃねえぞ。怖ええのは見た目だけで弱ええ俺にはわかる。こいつはヤバいと・・・


若いイキってるヤツらが日本刀を持ち出して、オヤジが「やめろ!!」と言うのも聞かずに切り掛かっていきやしたが、なんと、またもや串一本でバシンと受けられやした。


そして揉み合っているかと思うヒマも無く、あっさりと刀を奪われやした。


その後はヒドいもんでやした・・・

他の刀を持った若いもんも年嵩のもんもどんどん倒されていきやした・・・

何人かは血を流していやしたが、手加減したようで、指や腕が体から離れちまうようなこた無かったです。


数分で思いやした。「終わったな」って。


「組長殿。県警には話を通すので、解散届けを出すこともお考えいただけないかな?」


「それは、このジジいの首に刀を置きながらする話かな?」


「すまぬが、そちらの若者の流儀に従った結果だ。先に手を出したのも、刀で切り掛かってきたのもそちらからだ。これは防衛の一環に過ぎぬ」


この後の話はしねえでも想像がつくと存じやす。


塩田組は解散、オヤジは隠居。構成員は『更生希望者』は全員新会社へ移籍となりやした。

更生希望でなかったヤツラ? 縁切りでやす。


更生希望者は元暴条項の適用範囲外になるよう、社長・・・当のカチコミを掛けてきた女子中学生が新会社の社長になりやした・・・が、県警と話し合い、厳重な監視はありやすが、銀行口座も作れやすし、自分の名前で携帯も持てるようになりやした。


なんで、どうにかこっちの番号を突き止めて掛けてきた暴力団関係者は、全て県警に名前やら番号やらを報告する義務があるんで、それを知ってて去ったヤツラは、連絡を取りに来やせん。


正直、こんなチャンスは滅多にねぇですから、ヤクザを辞めてえ、と心の底では思ってたメンツは再就職の道を選びやした。

呑み屋で逆に絡まれることも増えやしたが、忍耐でやす。今ではそんなことも減り、自分の給料のことを話したら「へえ、まずまずの給料もらってんな」て言われたことで、適正な給料をもらえてたことがわかりやした。


他の配達やら自社だけでなく街全体の掃除やら、やることは増えやしたが、まあ、今では商店街のみなさんからも、正業の人扱いをしていただけやす。

社長が市の治安委員会の治安委執行役員筆頭補佐という偉いのか偉くないのかわかりずらい役柄に着任して、その手伝いをしているせいもあるでやしょう。


結局やってることはヤクザ時代の「ゴト」とあまり変化はありやせんが、「御題目」というか、公的権力側になれば「正当な業務」というわけでやしょう。


社長は「皆、腰は低く、常に笑顔で」と常々おっしゃってますが、当の社長は常に威風堂々で仏頂面なのはどうなんでやしょう・・・

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