ジョージくんはわかってる
ジョージ、ちょっといいか?
「なんですか?モルくん?」
うーん、マイティさんがモルとオレのことを呼んでいるからそれに準じてるんだろうが・・・まあ、いいか。
なあ、マイティさん、野球嫌いなのか?
というと、ジョージはめっちゃ驚いた顔になった。
「いえいえいえ、とんでもない! あちらの高校のグラウンドで見てましたよね?モルくんも?」
見てたけど・・・嬉しそう、楽しそう、には見えなかったぞ?
「あーーー、見えないと言えば見えない・・・かもしれませんね・・・」
と、腕を組んで天を仰ぐ。ここ、教室だから天井しか見えないだろうけど。
どうでもいいが、ジョージ。なんか感情表現?っていうのがかなり上手くなってないか?
「はい、そうだと思います。そうであればよいと思っています。マイティさんや会社の人達からはそういうものも習ってはおります」
・・・その割に御本人の感情表現がもう一つ、分かりづらい気がするんだが・・・
「はい、それにも理由がありまして・・・マイティさんは野球をすること自体は好きです。少なくともピッチングとバッティングについては間違いなく好きです」
そうなのか?
「そうでなければ、あのせわしないスケジュールを組んでいるマイティさんが、毎週一回とは言え、1時間も取ってバッティング練習なんかするわけありません」
まあ、それは何となくわかる。しかしそんなに忙しいのか?
「はい、朝4時半から夜10時までビッシリなこともあります」
朝練にしても早いな!!4時半って・・・夜は案外、早寝なんだな・・・
「朝4時半ですから、10時過ぎには寝ないと毎日持ちませんよ?」
そうか10時に寝て10時半までに寝れたとしても6時間睡眠か。毎日だとしたらギリだな。
「朝4時半は一応お仕事です」
そんな時間の仕事があるんだ・・・
「はい、ヨーロッパだとEU標準時のところは夜八時半、アメリカ東海岸で夕方、西海岸で昼すぎです」
まあ、時差があるから日本以外は早朝じゃないってのはわかるけど・・・何の仕事だ?いくらマイティさんでも、寝起きだろ?
「はい、寝起きの美人日本女子高生に言語を教えてあげる、というサービスです」
教えてあげる?教えてもらうんじゃなくて?
「はい。お客様からお金をいただいて、そのお客様がマイティさんに外国語を教えるというサービスです。寝起きでも美人かつ多言語に堪能なマイティさんでないと成立しないサービスです」
おう、金取るんだ。まあ・・・美少女の寝起きか・・・話したいやつもいるだろうな・・・
「そうですね。30分300ドルです」
300ドル?ああ、国際サービスだからドル建てなのね・・・って高えな!!
「会話しているとこを見るだけの会員なら、月30ドルです。最初の一ヶ月は無料です」
音楽系のサブスクかよっ!!・・・ちょっと心配になったんだが、エロおやじとかのセクハラ発言とか大丈夫なのか?
「それを抑止するのが見るだけ会員です。少ない日でも数千人が同時に見てますから、ほとんどのお客様が紳士的です。御想像の通りだと思いますが、男性が9割以上です」
ああ、『こいつを追放する』ボタンでもあると思えばいいのかな・・・
しかし数千人ね。全員が毎日見るわけでもないだろうし、30ドルの有料会員は一万人以上いるんだろうな・・・
すると、毎月30万ドルかよ・・・稼いでるなあ・・・
「なにを想像しているか想像できますが、プラットフォーマーが結構持って行ってしまいますので、そこまでの売上ではありませんよ?」
ワリいワリい。話を戻してさ、練習試合の話な。
「はい」
正直、マイティさんの野球能力?というのかな、ものすごいと思う。
オレもU15で世界大会の日本代表になって、それなりにできるつもりだったが、クラブマッチで打ちノメされたんだよ。
「うーーん・・・バッティングでもそうですが、不気味なほど正確なピッチングですか?」
お前が不気味って言っちゃうんだwww。まあ、それはデカいな。あと、あんな竹バットで芯に当て続ける技術も途轍も無いけどな。
「ですねえ・・・僕にも一本いただきましたが、本当にシビれますもんねえ・・・」
だろ?金属は低反発でもそんな痛い目には会わねーよ。
「最近、やっと座って捕れるようになったんですよ」
は?座ってって・・・キャッチャーの格好でってことか?
「はい。キャッチボールは最初のころからやってたんですが、防具付けてしっかり捕るのって大変なんですね。尊敬しますよ、モルくん」
まあな。ミットは前向けるとかも案外慣れるまで大変なんだよ。特に落ちる球な。
「そうですね。あとフルタ式で捕れ!ミットで球を追うな!とも言われていて、これは本当に厳しいです」
要求が高度だなwww まあ、キャッチボールならともかく、キャッチャー経験はないんだろ? ヘンなクセが付いてないほうが、あれはマスターしやすいと思うぞ。
「それで話が戻りますが、マイティさんはほぼ左投げなので、右肩のあたりに投げるのがピッチャーにとって楽、という認識でいいですか?」
まあ、ピッチャーにもよるけど、マイティさんはセットだから肩かそれよりちょい低めくらいが好きなことが多いと思うぞ。
「それが本当に難しくて・・・キャッチボール、立って投げてるのなら胸のあたりに投げるってのはできるんですが、座って捕ってると、マイティさんの望むテンポだと体勢が・・・」
あああ、それな。いわゆるフルタさん式だと、それも軽減できるっちゃできる。
っつーか、あのテンポはオレでもキツいぞ? 急造キャッチャーにそれをやられちゃオレの立場がねーよ。
「あれは大変なことなんですね。わかりました。ちなみにマイティさんって、投げるフォームがいくつもあること気づいています?」
うん、腕の振りもタイミングも、言いかた悪いけど滅茶苦茶だよな。そのおかげで、あの138km/h なのに見た目爆速ストレートってのがあるんだろうとは思うけど。あとは山の高さか。
「山の高さ?」
ものすごく雑にいうと、遅いボール、例えばカーブとかチェンジは山なりなの。
だから、リリースの時に一瞬でも浮いたら全力ストレートだとは思わないんだよ。
速いにしても真っ直ぐよりは遅いスライダーかなんかって思うんだ。
で、マイティさんの球は速いのでも全部浮くんだ。
正確に言うと、140km/h前後の球でもちょっとは浮くんだけど、それより浮いてる。山の高さが高く見えるんだよ。
それなのに全力投球の真っ直ぐみたいな球が来るから見た爆ストレートが成立するんだろうとは思う。
「見た爆ストレートですか・・・面白いネーミングですね」
まーー、投げ方はまったくわからんけどなーー!
「そこです」
どこ?
「実際に素早く返球すると安定しない、というのを実感してますが、まあ、なんとかマイティさんが捕れるところには返せてます。そこからそのままフォームに入っているのに、ちゃんとコースに来るんですよ」
普段のキャッチボールでもサイン出してるの?
「出しません。右上、右下、左上、左下、真ん中低め、真ん中ど高めのボールのローテーションです。5回で30球ですね」
ストライク指示は?
「四隅はどっちとでも取れるとこ、真ん中低めはしっかりストライク、高目はしっかりボールで固定です」
まあ、それはそれが安定して投げられるんなら途方もないコントロールだよな・・・そういや球種はあちら任せのまま?
「そうです。どこに来る、が、分かってますから何とか捕れますが、速い遅いどちらも変化球が豊富で・・・ミットで追うな、が、辛いです」
それは分かる。そこは練習だな・・・ちなみにいつ投げてんの?
「毎朝、ランニングのあとスイミングがあるんですが、その間です」
あー、プールがあるっていってたな・・・リッチマンだなあ。じゃあ、ジャージで受けてんだ。
「はい、メットとマスク、スロートガードが一体になったのと、プロテクターだけ付けてます」
ああ、ホッケーっぽいやつね。まあ、あれは安全だし面倒ないな。レガースは?スネに当たると痛いだろう?
「バッターいませんから。最初は低いとこ、特に変化球が捕れなくて当たること多かったんで付けてました。カップもですが」
あれは痛いwww 付けてても痛いもんなwww
どんくらい時間掛けてるの?
「朝は忙しいですから、5分弱でしょうか」
速えーよ。一往復10秒ないじゃんか
「マイティさんは3分にしたいという目標をお持ちです」
マイティさんよりお前がキツいよ、それ。
「それはそう思いますが、そんなペースなのにアウトハイ、アウトロー、インハイ、インロー、真ん中低めと高めの釣り球って、ばしばし決まるのおかしくないですか?四隅は遅い変化球も多いんですよ?」
あれな・・・右バッターへのエグいシュートとかこないだも使ったな。
あのサインで配球というか『私の投げる球種を制御しろ』ってやつだ。
速球・インハイ・しっかりストライク、だと、高確率で右バッターからはビーンボールに見えるシュートを投げてくる。
遅い変化球が低いとこに来ても「どっちとでも取れる」程度の外れかたなの?
「いえ、特にサークルチェンジは地面にミットを伏せないとパスボールしたり、普通にワンバンも来ます。カーブは外れても前向きで捕らないといけないところなのでキツいです」
よかった。もし完璧すぎたらどうしようと思ったよ。
でも、ぐーチェンジもあったはずだから、サークルチェンジが分かるってことはシュートしてんだ。すげえな。
「ぐーチェンジは真ん中含めて低めに投げてきますね」
まあ、それがカタいな。
で、キャッチングが少しできるようになったジョージくんは、そんなことがデキるマイティさんの制球力が気持ち悪く感じちゃうんだな。わかるよわかる。
「分かるんですか?」
分かるよ。これでも元・日本代表で世界戦を戦ってきたんだ。中坊とはいえ、日本代表ともなるとな、気持ち悪いほど凄いやつが普通にいるんだよ
こないだの強豪高の一年投手のセイヤも日本代表だったんだけど、マイティさんほどじゃないけどコントロールは抜群で140km/h出るんだよ。中三、高一のレベルじゃないんだよ。
中継ぎだとちょっと立ち上がりが悪いんだけどな。
敵、各国にもそんなバケモノが普通にいるしな。
「どうするんですか?」
どうするもなにも、すげえやつだなって思うだけだよ?
「はあ・・・?」
味方なら頼りになるヤツ、敵なら手強いヤツ。特にピッチャーの性能はキャッチャーが引き出してやってこそ、ってオレは思うから、性能や性格は把握したいと
思うけど、試合でどう引き出すかは本人だけじゃなくて監督やコーチとも相談するよ。
「そういうもんですか・・・」
こないだの三球三振三連発 x 2だって、ジョージが座ってたらできない。
「まあ、僕じゃ守れませんから、そうでしょうけど」
いやいや、マイティさんせっかちというか、効率優先というか、そういうとこあるでしょ? それに、ケンカ売るのも好きだよね?実際のケンカはあまりやらないから挑発的態度といったほうがいいか?
「はい、ありますね。そしてヒヤヒヤします・・・」
そして、案外普通というか素直な面もある。
「おっしゃる通りです」
それを投球にというか、こっちからサインを出してそういう投球をさせるように誘導すれば 6 三振が取れるってこと。
まあ、18球で 6 三振はできすぎだけどさ。
第一さ、あの読むだけでも二時間はムリゲーな新歓を一時間で解ききって全教科99点狙いなんて意味不明級に超絶なる天才なんだ。
運動能力があるのはわかってんだから、恐しいコントロールを持ったピッチャーでも驚けねーよ。
さっきサークルチェンジは普通に外すって聞いて、外す球もあるんだ、って思ったくらい。
「言われてみれば・・・そうかもしれません。受け入れればよい、ですね」
そうそう、あんなピッチャーで受ける練習ができるキャッチャーなんて滅多にいないんだから光栄に思ってればいいよ。
「そうですね。不気味は取り消します。最高に正確、にします」
それでいいんじゃね?
「はい。あっ、最初の話ですけど」
なんだっけ
「マイティさんが楽しくプレーしているように見えない件です」
そうだ、それをオレから聞いてたんじゃねーか。オレもアホだな・・・
「いえいえ、僕から、話をごちゃごちゃにさせましたから僕も良くなかったです」
それはもういいよ。ジョージの悩みもある程度解決したっぽいしな。
「はい。さっきモルくんが、マイティさんは案外素直なところもあるって言いましたよね?」
言った。あるよね?無いの?
「あります。そして、マイティさんは特別扱いに慣れすぎています」
そうだね、いつもの先生への態度は普通に問題児扱いされてもおかしくない。
「例えばそれを圧倒的な学力で押し潰しているとも言えます」
まあ、あの学力だから許されているというのは・・・中央高なら理解できるな。
「そして、『普通』に憧れているんだろうな、という言動もあります」
学校では聞かないが、あんだけ特別だと普通に憧れることがあるかもしれねーな。
「で、7月の期末の前の高嶺祭企画決めのLHRでモルくんが言っちゃったじゃないですか?」
ん??何か言ったっけ?野球やってるとこ写すだけで絵になるんじゃね?くらいだと思うし、こないだみんなで撮ってたよな?
「それも言いましたが、そこじゃないです」
どこだよ?
「高野連が特例を作っても不思議じゃない的なこと言いましたよね?」
・・・言ったな・・・
「それ以降、第二でシートをやってるとき、最初から打てる球投げてるの気付いてます? ジャージにふわふわ帽子はあい変わらずですが」
・・・そういやそうだな。前は最初すげーの投げてきたけどな・・・
「しかも、春から球速が10キロくらい速くなっちゃってるんですよ」
・・・そうだな、春は128km/h、こないだは138km/hだったな。
「それに、モルくんのリードも評価してるんですよ」
そこは素直に嬉しいけどな。
「一応彼氏扱いされている自分として、こういう言い方はどうかと思いますが、あの自分勝手な人が、一試合目でしっかり逆転ホームラン打っといてからのパーフェクトリリーフしたんですよ? 野球が嫌いだったら二試合目で一番DHなんて引き受けませんよ。『私は帰る』ってどんなに引き止めても帰る人ですよ? 力じゃ数人がかりでも、かないっこないですからね」
なんとなくわかっちゃったけど・・・新しい『特別扱い』がイヤで、喜べない、とかそんなんか?
「そうです。あれは僕にはわかりますが、投げても打ってもですが、ガッツポーズなんかしそうになって、必死でそれを堪えているから不機嫌に見えるんです」
あんな練習試合に高野連関係者なんか来ないぞ?
「でも動画サイトに上げる人はいるかもしれないし、高嶺祭では放映しちゃいますよね?」
・・・う・・・確かに・・・
「でも素直だし野球自体は好きだから、打てる球は打っちゃうし、モルくんのリードには従って三振取っちゃうんですよ」
それで誰かの目に止まって特例を作ろうという流れが来ても「野球なぞ好きでもなんでもない」って主張するために喜べないってことか?
なんだよ・・・オレの思いはよ・・・でもオレのせいだったのか・・・
「自宅に帰ってからはルンルンのウキウキでしたよ?二軍だとは思うが、強豪高にも通用するんだって」
二軍なのはわかるのね。ぶっちゃけ一軍でも通用するとは思うよ。
しかし彼女のルンルンやウキウキは想像しにくいな・・・
「はい。それは僕の特権だと思ってます」
ノロケかよっ!!




