やっぱり野球の実力を見せ付けられたい赤池くん
マイティさんがモルと呼び、部長や先輩がマモと呼ぶ、赤池です。
マイティさんが飛ぶ動画の一部?を撮影した次の第二の練習日のことだ。
相当にゴネられたが、野球部の第一所属全員で土下座する勢いで頼み、というか、本当に土下座した。
そして、閣下先輩まで土下座に加わろうとしたところで、さすがに「鳥居原殿まで・・・流石に止めてくれないか・・・」と逆懇願?を始めた。
閣下先輩も「俺だけが膝にもデコにも泥を付けないというのはナシだろう」と言って、土下座してくれた。
そして、「わかった・・・その一日だけだぞ?練習試合に出場するのは・・・」
と、相当渋々ながらだが、出場の確約を得た。
しかしその後すぐ、「公式戦に出れる特例とか作らせるなよ!!それに、来年になって鳥居原殿も今の部長殿も居なくなってから新部長が土下座しようがなんだろうが一切出ないからな!今年もその日だけだぞ!!」
と、まくしたてられた。まあ、かまわない。
オレも公式戦で彼女が活躍することは求めていない。
たまたま強豪高と組めた練習試合が多少因縁のある高校、多少因縁のあるメンバーが出てくることが予想されたことと、正直、第二の練習しか出てない・・・まあ、自宅でピッチングとバッティングはやっているらしいが・・・はずのマイティさんが正直、野球選手としてクラブマッチのころより格段に上手くなっている。
これはオレでなくても見てみたくなって当然だろう。
部長、彼女ならそこそこの強豪高でもリリーフ兼代打の切り札で一年からベンチ入り狙えますよね?
「ん?オレは強豪高に入ったこともなければ、シニアやボーイズの強いとこ出身でもないからわからんが、アウトローのクソボールを竹バットでスタンドインさせる打力があれば代打は確実だし、あの謎の伸びる球を始めとした速球と変化球群+ウルトラコントロールがあれば一イニングなら問題なく任せられると思うぞ」
ウルトラコントロールって・・・
「お前は受けるほうだろうけど、代わったばかりでストライク三つ入れるのがどんなに難しいことかわかるだろう?例え、『打ち頃』の球だったとしてもだ」
まあ、そうっすね。今度の練習試合では立ち上がりのよくないヤツが出てくると思います。
「シニアか?それともAチームかBチームなのか?」
U15のAチームっす。
「じゃあ、いいピッチャーってことじゃん」
まあ、そうですね。先発ならまずまずなんですが、リリーフだと何故か立ち上がりが悪いことが多かったやつなんですよ。
「気持ちはわかる。先発なら少なくとも前日に言われているだろうけど、リリーフは当日というか試合中だからな。気持ちを作るのに少し時間がいるんだろう」
そういうもんなんですね。
「そういうもん、は、ある。だってさ、シートでもケースでも本当に要求通りのところしか来ないだろう?」
はい。
「外せって指示しない限り延々ストライク投げてるよな?」
そうですね。
「しかも、マウンドに上がった一球目からな?」
おっしゃる通りです。
「無理だよ。そんなん」
まあ、そんなやつ受けたの初めてっす。
「プロのバッテリーでも無理なことやってんだよ。おまえら」
第二の練習日だけですけどね・・・
「おまえは、あの人の活躍を公式戦で見れなくてもいいみたいだけど、オレは見たい。最初から甲子園なんか目指してないが、彼女が後ろを締めてくれるんなら、県大会ベスト4や8は狙える。そこまで行ければ万が一だって有り得る」
それは分かります。でも先輩の夏は終わっちゃってますよね?
「うるさいな。ウチは甲子園関係ないから夏大負けても夏休み中は参加してていいんだよ!」
まあ、練習に参加している三年ってのは強いところでも多少はいるみたいですしね。でも練習試合に三年がガッツリ参加ってのは珍しいかもしれません。
「最近それほど勝ててないといってもあっちのほうが圧倒的に強豪だろ?それくらいのハンデはくれよ」
まあ、事前に言ってあるので断わりはしないと思います。
「で、オータニサンルールのDHも導入されたから、DHとして出てもらえれば確度はさらに高まる」
それなら、最後DH切ってクローザーですからね。
「女バスの部長が歯ぎしりしてたのも納得だ」
まあ、同意はします。でも彼女は本当に目立ちたがらず屋なんですよ。
「あんだけ目立っておいて・・・」
それは言いっこ無しです。でも、彼女もよくレトリックを使いますが、オレも使えましたよ?
「何?」
ああ、練習試合を「一日」って約束にしたんですよ。
「?・・・ああ、そういうことか・・・なるほどな」
練習試合なら珍しくないですよね?
「まあな」
・・・
オレは横溝清夜。こう見えてもU-15日本代表Aチームの二番手ピッチャーをやらせてもらっていた。ちなみに、180cm 70kgな。
まあ、Aチームとは言ってもBチームとの差は僅かだ。マモルが一番いいキャッチャーだとは思ったが、同じ県(といっても東部と西部だからそんなにカチ合わないが)の身びいきと思われてもイヤだったから言わなかった。
要はAチームはピッチャーがいいけど、相性次第で先発キャッチャーは変わる。
もちろん、みんなウマいヘタでいえばウマいほうだ。
Bチームはキャッチャーがいいけどピッチャーは普通、というか明らかにAチームに劣る。その代わり、マモルで固定で、ほかのキャッチャーは代打や外野要員兼任だ。
打力でいってもマモルは四番でもいいけど、キャッチャーだから五番とかそんな感じだ。
それ以外の打力で言うとスタメン想定は大差無いがベンチ要員、代打なんかだと明らかにAチームのほうに寄せていた感じだった。
なんで、連続して大量に試合をすれば最初はトントンでも層の厚さでAチームが勝つが、一試合だけなら正直、Aチーム有利ではあるもののわかんない、というレベル差だった。
実際、日本での国際大会でも準優勝したアメリカに先に当ったのがBチームってだけの話だ。
アメリカには負けたけど、マモルもみんなもガンガン打ってたし、そのお陰で決勝戦は楽に勝てたようなもんだろう。
決勝戦に取っておくはずのエースをマモルたちが引っぱり出したからな。
オレもマモルもウチの高校を始め、関東や大阪、各県で一、二番の強豪高から山ほどの誘いがあった。
田舎の県の私立高校が、県で一番強豪高になるってのが甲子園への近道ってのが定着してしまっているからな。
今ではベスト4くらいまではどの県もそんな高校ばかりだろう。
オレは地元が好きだったし、寮生活もイヤだったので自宅から余裕で通えるココにした。
普通に強豪高だが、割と地元主義で、県内生が半分弱いる。
ただ、近年では新設野球部に知名度アップを賭けた高校が増え、ベスト8ならともかくベスト4以上となると中々厳しくなっている。
なので、U15でベストなキャッチャーだったあいつが来て一年から組めれば、とは少しは思っていた。
まあ、あいつも寮はやだよな?と言ってたから、東部地区からじゃ難しいな、とは思っていたが。
やっぱりあいつは頭がいい。少なくとも野球脳はスゴい。それだけでなく勉強でも頭が良かったようで、地元の進学校にしっかり入りやがった。
大昔に一回だけ甲子園に出たことがあるらしいが、公立で野球推薦なんてないから超絶偏差値の独自入学試験をクリアしないと入れないってことで選手が集まらないとのことだ。
なーにやってんだか・・・と思ったが、まあ、あの進学校に入れるなら野球で大学行こうとか、プロ行こうなんて意識をする必要はないわな、ってのはわかる。
キャッチャーなんてやってるやつは、大体家が金持ちだ。
あいつも自分の防具とか、かなりイイやつ使っていたから、それなりの家なんだろう。
なぜかそんなあいつの高校と夏休みに練習試合をすることになった。
もちろん、一軍、うちのAチームは出ない。ABチームだ。
まあ、地元主義とか県内生が半分とかいっても仕掛けがある。本当の多人数チームなら四軍とかまであるところもあるが、うちはA、AB、Bの3チーム制だ。
このうち Bは楽しい野球をするところで、甲子園など目指さない。
キビしい練習もない。
AとかABの練習相手は勤めるが、一番厳しいのがトスバッティングの出し手とか、外野で球拾いくらいのもんで、練習の手伝いをしてくれる野球同好会みたいな存在なのだ。
基礎練習の繰り返し、筋トレ、食育、そういうのに参加してもいいが、しなくてもいいのだ。
これは、楽しんで野球をしたい地元の生徒を受け入れるためというのもあるが、スカウトされたけど故障してしまった非・地元選手を退学から救うためというのもある。
細かい話はしないが、わりといい制度だと思う。
復活もできるし。
実はオレも入学早々張り切りすぎて故障してBに行った。そのせいで夏はベンチ入りどころではなかったが、あっさりABには戻れて、今はABの中でもまずまず上のほうに付けている。
夏大中に故障するよりはよかったかな、と今は思っている。
つまり、ABは真面目に野球部するところだ。
なので、あいつから連絡があったとき、いくらあいつがいても公立のヒョロガリじゃウチのABとは試合にならんだろ、と思った。
「おう、久し振り、怪我したと聞いて心配したが元気か」
まずまず。しっかり直せたんで前よりいいくらいだ
「リリーフだとボール先行するクセは直ったか」
多少良くなった。が、先発のほうがいいな。
「そうか、で、練習試合だが、いくつかお願いがある。そっちのほうが圧倒的に格上だからな」
悪いがそうだな。Aチームじゃなくて、ABだが、それでもそっちよりは普通に格上だ。
「うん、わかってるって。で、ウチも夏は終わってるんだが、三年は夏休み中までしっかり野球部してるんで、今度の練習試合にも出る」
は?・・・まあ、いいんじゃないか? 言い方はよくないと思うが、それくらいじゃないと試合にならんだろう。こっちは一応強豪高って位置付けだからな。
「で、順序が逆だが、一年同士のオレとオマエの合意で大丈夫か?」
一応U15日本代表で世界選手権金メダルってのは重みがあるよ。
ABの中で選べば背番号10はもらえる。
「1じゃないんか?」
二年が一人いるからな。同じレベルなら先輩が1だろう?他の二年には負けてないと思うが。
「ま、伝統校っぽいな。オレは銅メダルだし、学力が全ての高校だから重みはあまりないな」
おい、何度も言ってるが、オマエのおかげで金メダルって言ってるだろう?本当にほぼ全員がそう思ってんだぞ。
「まあ、総監督にもそう言ってもらえたが、実際にメダルの色が違う以上、社交辞令ってやつにしか取られないよ」
まあ、いつものやり取りだな。まあ、いい、というわけで、監督にもABのコーチにも別にU15で仲良しなやつがいるんならお前らで決めてこい、と言われたから、突拍子もないことでない限りオレらで決めていいよ。
「それはありがたい。ウチには女子選手もいるんだが、出てもいいか? 公式戦は出られないから、練習試合くらいしか出られんのは知ってるだろう?」
硬式経験者で、お前から見て、試合に出しても大丈夫そうならな。
硬式でデッドボールや自打球とかも有りえる以上ヤバそうなら出さんで欲しい。
こっちも女子の顔にキズを付けるとかヤだよ。
「それは大丈夫。シニアや高校野球に乱闘とかありえんが、乱闘になったら最強女子だ。ま、そうは見えない美人だけどな」
なんだそりゃ・・・ゴツい女子じゃなくて美人?・・・まあ、『出しても大丈夫』はそっちで担保してくれい。
「OKOK。そこは絶対大丈夫」
絶対?マジか? あ、一応確認しておくと、女子に限らずそっちで言うベンチ入りメンバーはそれなりに鍛えてるってのは大丈夫か? スタンドからだけど合同チームみたいなのを見てたら、ほんとにヒョロいのもいて心配になったんだ。
「あーー、外から見たらウチの高校はそういうイメージだよな。そこも大丈夫。ウチも Bチームは実質同好会だけど、Bでも充分に鍛えてる先輩すらいるくらいだ。人数は少ないけど、野球に限らず運動部はみんなそれなりに鍛えている」
さすがに強豪高レベルじゃないだろ。
「それはそうだな。強豪じゃないもののそこそこのシニア出身が育った上に頭がいいから効率よく鍛えてるってイメージしてくれればいい」
なるほど、体はデカイんだな。じゃあ、普通にやるように言っておくよ。
正直、油断したらあっさり負けるかもだからな。
「わかった。あと、DHはありで」
ああ、もう、公式戦がそうだから、慣れといたほうがいいな。
「でさぁ、これはまだ公式戦採用されてないけど 7回戦で二試合にしないか?」
うーん、検討中のやつか。延長になったら8回からタイブレークか?
「そうそう、これもオレらが三年までに導入される可能性あるだろ?」
まあ、猛暑が止まない以上、他にとれる対策もなさそうだしな。
「最後にさぁ、その美人女子にはファンが多くてさぁ、おまえんとこの第二球場だったら多少は観客入るだろ?放送設備があるんならアナウンス女子も連れてって、そっちのチームも放送してやんぞ?」
練習試合でか?まあ、選手も盛り上がるだろうけどな。普通は観客っつっても家族くらいのもんだからな。キリっと女子だとしたらファンも女子多いのか?
「多い。ファンなんで彼女をカメラで撮りたがると思うんで、それも監督やコーチ、チームメイトに言っておいてくれよ。ダメと言われたらそっちのチームや選手の分析用ビデオは撮らせないようにするよ」
あのなあ・・・こういっちゃアレだが、公式戦で当たることはほぼ無いだろ?
「夏でそっちがシードでこっちがそこと当たるとこなら一回勝てば当たらんこともない」
それは有りえるな。練習試合をする以上そこは覚悟の上のはずだ。きっちり監督には言うよ。
「よろしく頼む。じゃあな」




