試走するマイティさん
吹田です。木工が好き、とは言ったけどこれはさぁ・・・
ソロバンの持ってきた型紙からコンパネをジグソーで切り出す。
コンパネは約1.8m×0.9mなので、工作室にある機械のジグソーは使えない。また、コンクリートの型枠なので比較的硬い。
なのでみんなヒイヒイいいながら手作業で切っていった。一部は切りすぎてしまったところもあるようだが、ソロバンが、ここは大丈夫、すみませんが、ここは予備のコンパネで切り直してください、などとさらに悲鳴を上げさせる判定をしていった。
極端に不器用でない男子、一部女子も駆り出されて、木工の嵐である。何本の刃が折れたか、誰も把握していないであろうと思われる。
あまりの効率の悪さに、新しい方法が考え出された。
ほとんどのカッティングそのものは直線。
そして曲がるところで刃が折れる。
なので、切るところが多い板は普通のノコギリでざっくりカット。
そして、曲がるところに電動ドリルで穴を空け、穴と穴を繋ぐように切っていく。
これにより効率は格段にアップ。
通路板のほうもソロバンの活躍により大量の型紙が出力された。これは工作室の電動のジグソーで切った。
・・・
夏休みの週末を使って、生徒会経由で週末二日占有許可を取り、初日、土曜日にベースとなる井桁部分を組みあげるまではよかった。まだよかった。
通路の形も明確になり、ここをマイティさんが駆け抜けていくんだ、というのは通路板をハメこむ前に明確化されたと言ってもよい。
ここまでも地獄でなかったとは言い難いが、ここからのほうが地獄だった。
「えーと、みんないいかな。通路板だけど、置くだけでは危険なので固定する必要がある」
ま、そらそうだ。
「なので、コーススレッドというこの木ネジで止める」
ま、わかる。
「これの呼び径が3.3mmなので下穴は2mmで空けてもらう。板厚は16mmなので大変だけどなるべく真ん中に空けてくれ。深さは適当でいい。というか板の切断面に対して垂直に空けてくれ。それが一番大事。ちなみに深すぎる分には問題にならない」
これが大変キツい。あくまで走路に対しての『垂直』に穴を空けろ、ということはわかるんだが、井桁の土台は基本直角に交わっているが、走路は有機的に曲がっている。
なのでドリルを感覚的に垂直に打っていると板の横からドリルがコンニチワしてしまうのだ。
また、精度がイマイチのため、走路板が井桁の土台に接しきらない場所もある。
つまり、コーススレッドの頭が沈みきらないし、浮いているところもある状態だ。どうする?ソロバン?
「気にすんな。なるべくはじっこで多めに打ってくれればいい。走路板は20cm幅はある。マイティさんは5cmあればいいそうだ。さすがに倍の10cmは確保してあげたいがな。あと、走路板以外のところは一カ所適当に止めとけばいい。万が一の重大事故防止のためのものだから、ふらっとしたときに枠に手や足を取られないのが目的だ。あと、全てのビスの頭には養生テープを貼っておいてくれ」
おいおい、大丈夫か・・・
まあ、その緩い条件でも大変だった。走路板部分はなるべくスムーズになるように現場合わせて板の繋ぎめを調整し、最終的には掃除でひとまとめにしておいた大量のオガクズから適量を取り、ボンドと混ぜて硬く練った木屑ペーストを詰めて補正だ。
でもボンド使ったら分解できなくないか?
「継ぎ目だから大丈夫。明日になって固まったとしても簡単に折れちゃうよ」
そう、一日目は組立だけで終わってしまった。夏休みとは言え、夕方になってしまえば薄暗い。ちょっと撮影には向かないだろう。
・・・
翌日、朝から集まったクラスメイト達は緊張している。ここまでみんなでやれば、例え主役がマイティさんであっても間違いなく全員参加の高嶺祭企画と言い切れるが、逆にマイティさんがうまく滑走できなかったり、ケガしてしまったらここでポシャるのも確定だからだ。
最初は踊り場の予定だったスタート地点は階段途中になっていた。まあ、コース作成の都合もあるからな・・・
しかし、結構な高さのコースにも関わらず、幅は30cmくらいしかない・・・しかも途中からは斜めだ。もちろんある程度は曲がっているから、遠心力で相殺される設計なんだろうけど・・・
「では、まずは何も付けずに行くぞ!」
マイティさんが叫ぶ。カメラマンは数人いてカメラを持っているが、それ以外にも可能な限りの人数が自分のスマホで撮ることになっている。
まあ、繋げばどうにかなるという判断のようだ。
ああ、時々見たな、という感じのスポーツチャリファッションのマイティさんがスタートする。
スタート補助はパワーと背の高さからか、スピードシスターズ攻撃隊長、リコさんだ。一気に階段を掛け降り、手を離す・・・これも結構リコさんが危険じゃないか?・・・でもこれがあるから最初から斜めが可能なのか・・・
あ、一応体育で使うマットが敷いてあるのね・・・気持ち程度かもしれないが・・・図書委員ちゃんとリオンさんがリコさんを止める係なのね。
ゴゴーーーーーという滑走音とともに、マイティさんはあっというまに廊下の彼方まで飛んでいった。
ジョージがそこにいる。一応ブレードを斜めにして減速しているが、明らかに減速が間に合わないので、ジェットヘルをかぶって、かいまき?着るふとんのようなものを着たジョージがマイティさんを受け止めて、同じく敷いてあるマットにゴロゴロ転がって減速・停止する。なんつー乱暴な方式・・・
まあ、ジョージの頭にはバイク用のヘルメットが後頭部までしっかり被さっているし、マイティさんは足先こそ出ているが、ローラーブレードのブーツだし、ジョージが両手両足で全身をガッチリガード。で、ジョージの肘と膝にはプロテクターが付いている、と。
そういえば言ってたな・・・
「怖いかもしれませんが、腕を体にぴったりくっつけて、脚も閉じて、僕の鼻に頭突きをかますつもりでお願いします。そうでないと、僕が付けてるエルボーガートとニーガードでマイティさんに傷を付けてしまうかもしれないので」
(うむ)
のような感じだった。マイティさんは軽く頷くだけだったが。
しかし、周りは大歓声だ。あちこちでハイタッチが飛び交う。
そして、ジョージに抱えられて、マイティさんが無傷で立ち上がり、笑顔で手を振ると大拍手。もちろんオレも拍手した。すげえよ、あんた。
次に武庫川作のダミー足を付けて滑走し、同じように、しかし、初回よりはソフトな着陸?を果たし、同じく大歓声と大拍手を受けたマイティさんからは苦情?意見?が出た。
「完全に左足を伸ばすと、いわゆるウルトラマンポーズができないな。左膝を少し曲げてもいいか?」
ああ、段差のせいかな・・・木屑ボンドで固めたとはいえ、直線板を繋げたものだからなあ。
「ああ、いいと思うよ。みんな、今までよりほんのわずか下になるけど、意識しなくてもかまわない、同じところを撮ってていいよ」
監督モドキをやっている増田は『オレは脚本を書きたいんであって監督なんて様にならないと思うんだが』と言っていたが、まあ、なんとかなっている感はある。
しかしまあ、マイティさん、万能だこと。あんなホッソい高い誘導路からバンクを回って廊下を猛スピードで駆け抜けて(滑り抜けて?)ジョージに綺麗に捕まえられている。
更に二回、綺麗な滑走を見せたマイティさんだったが、最後に拍手に手を振ったあと、「そろそろ、大道具が限界だと思う。私の体重には耐えて後一回か二回というところか」と、アゴに手を添えて首をかしげた。
こういうところも綺麗にキメるんだよな。フォトジェニックっつーか。
「うん、充分に撮れ高はあると思う。みんな、このiPhoneにSSD繋いであるから、iPhone組はAir Dropで、Android組はあとでUSB-CのSSDを回すから自分の生徒番号でフォルダ作ってコピーしてくれ」
さて、セットのバラシか、と思ったところに声が掛かった。
「ねーねー、一回アタシも滑ってみたいんだけど」
ほぼ全員が『え゙っ』という顔をしてその声のほうを見た。
マイティさんすら
「桃花?滑りたいのか?・・・正直お薦めはできないぞ? それにジョージに抱えられないと止まれないが、そこも大丈夫なのか?」
と、 止めにかかっている。
ピンク髪の白ギャルに見えなくもないが、案外小学生高学年男子的な言動をするモモリオコンビの桃花、ももかんさんの発言だ。
「いまさらだよー。ジョージいてもマイティさん平気で脱ぐからアタシらも着替えで脱いでるし?ぶっちゃけブラ無し、パンツ無しも見せてるから?」
まじかよ。普通に裏山だな。
「はい、特に・・・特段の性的刺激を感じることは・・・無くはないですが、マイティさんがいらっしゃるので問題ありません」
どっちなんだよ。
結局、ももかんちゃんはマイティさんからヘルメットとグローブ、あとプロテクターだけ借りて、ジャージのままで、一回だけ滑走した。もちろん、みんな写真、映像撮りまくり。
「こわーーー、マイティさん!!よくこんなの何回も安定して滑ったねっ!!」
「あっさり滑ってきたお前がそれを言うのか?」
「アタシは最初の一回がベストの一回!!もう無理!!」
「あーー、リコもーももかんが倒れないように支えていただけーー。マイティさんのときみたいにー、加速させてなかったなー」
「そりゃそうだよ。あれをももかんにやったら危ない」
「私は絶対無理。桃花、よくやるわね。ミツキちゃんはどう?」
「私も『結構度胸あるね』って言われることあるけど、アレはムリね・・・」
おー、ジョージ、ごくろーさん。まあ、ももかんハグして役得か?
マイティさんのときと違ってゴロゴロ行かなかったな。
「はい、役得に見えるのは理解してますが、普通に痛いですよ? マイティさんのときは特にですが。 まあ、桃花さんは軽いです。スピードも違いますし・・・mv ですから、速度のほうが比重高いと思います」
確かに見た目でも速さは違ったな。スピード2倍ならそれだけでショックは4倍か。mのほうは・・・女子の体重に言及するのは危険が危ないからやめておくか。
さて、ばらすぞ。ヤスオ、コーイチ、みんなに声掛けてくれ!
「おう」「わかった」




