杉山くんはクラブマッチの先発
中央高、二年、杉山日向です。
第一所属は野球部。第二は理学部です。
名前的に男女ともありそうなので男子と宣言しておきます。
172cm 67kg。野球部としては、もう少し大きな体になりたいっす。
そして今、まだ5月だと言うのにずいぶん暑い日のグラウンドに立ち尽していいます・・・
その原因は数日前に遡ります。
・・・
え、櫛谷先輩、いや、部長、野球のクラブマッチ組まれちゃったんですか?
「そうだ。理学部が2チーム、文学部が1チームだな」
それだと、理学部で一戦して、勝ったほうと文学部が戦って、勝ったチームがウチとやるわけですね?
でも、文献に残っているパターンだと勝ったチームが相手の強いメンバーを吸収してベストチームになるとか?
「そうだな・・・。あっ。これ、一度言ってみたかったんだが、『いいニュースと悪いニュースがある』!」
まあ、言ってみたいはわかります。ではいい方をお願いします。
「閣下が出場選手登録に同意してくれた。代打の切り札確保だ!」
まあ、外野守備も普通にうまいですし。なんつっても代打成功率が6割ですからね。第一になってほしいっす。
「ああ、そうだな。あの子は女子だから公式戦には出られんがなぁ・・・」
こないだからそればっかですね。気持ちはわかりますが・・・
で、悪いほうは何ですか?
「あー、クラブマッチで赤池が理学部に取られた・・・」
マジですか!!理学部マジで勝ちに来てるじゃないっすか!!
アイツ第一でしょ! こっちに優先権ないんすか?
「それがなー、マイティさん、彼女が閣下を説得する材料として赤池を第二の理学部から出すことを求めて来たんだよ・・・」
ううう・・・野球部にとってはあくまで遊びのクラブマッチと公式戦を天秤に掛けろ、ですか・・・
櫛谷さん・・・部長の判断は・・・正しいと思いますけどね・・・
「まあな。そうくるか、と、思ったが、閣下曰く『マイティにしては緩い条件だな?』だそうだ」
で、マイティさんは見事鳥居原さん、閣下先輩を説得したと。
「正直、あいつもああ見えて案外情にもろいし、彼女は従妹で妹分だから、基本的には甘いらしい。しかしお前、去年まで閣下先輩なんて言い方してなかったろ?」
ああ、マモがあんまり言うから伝染りました。
「マモ、マモルのことか。ああ、二文字で言う文化もどっかにあるな。まあいいや。アイツらとの対戦を精々楽しみにしとこう」
オレも彼女の投球見ちゃいましたから。つーかあのバッテリーとやるんですね・・・マモもウマいもんなー
部長はよく楽しみなんて言えますねー
「半分強がりだよ! 言わせんな! あんなん打てるかっつーの!」
でもそう言いつつも打つつもりはあるっすよね?
「タリメーだろ! 打つつもりで打席に入んなきゃ打てるわけねーっつーの!」
あっ、でも例の慣習はやるんすか?
「そうだな。二年主体のチームがスタメンだ。負けてる場面にならないと三年というか、レギュラー候補、すくなくとも1番から10番くらいが付きそうなやつは出さないっていうやつな。あと、敬遠は無し。まあ、これも伝統だからな」
えっっっと・・・そうするともしかして左二枚は三年ですから・・・オレに話に来たってことは、オレが先発ですか?
「そうなるな、まー、低ーーーーいサイドアンダーのお前なら、初見なら手こずってくれるさ」
そうなりゃありがたいですけど、ストライク入るかな・・・
「まあ、例の伝統のおかげで、逆に弓岡は出れるからな。受けてもらえるよ」
ああ・・・背番号はもらえるだろうけどスタメンじゃない・・・ってことっすか? 同級生なのに結構ドライっすね。
まあ、慣れてますし、ドカさん、的が大きいから助かりはしますが・・・
「夏大に限らずトーナメントは一発勝負だからな・・・おまえまだドカさんとか言ってんのか。全然似てねーと思うけど。まあいいか。
で、マモルのバッティング見たろ? オレ、閣下、マモルがクリンナップだったらまだ打線に希望が持てないか?ピッチャーとしてさ」
うーん、部長は公式戦では先発でしょうから、9番に回ってもらって・・・
先頭よしやん、DHで閣下、三番マモがいいっすね。三回以降は部長スタートのマモが実質四番ですよ。
「ああ、確かに・・・DH使えるんだったな。まだ無いころに慣れててなぁ。うん。そっちのほうがいいな。なんかメジャーっぽいな。参考にするよ」
うちは実質バッテリーだらけの野球部で、強打のサードとか外野が少ないですからね・・・
「それは仕方ない。そういうやつはここを受けるっつー頭すらねーよ」
受けるって考えが最初から無い、受けるだけの学力がそもそも無い、両方っすね。
「・・・言うなぁ・・・でも、そうだな・・・あっ!!」
何すか?
「そういや、お前赤池のことをマモっていうけど、自分がヒナって呼ばれるのは嫌がるじゃんか」
今ここでそれっすかっ!! そりゃ呼び名がヒナじゃ女子じゃないっすか!
ちょっとキツいっすよ!! でなきゃ鶏の雛みたいじゃないっすか!!
正直ヒナタだって男女区別付きづらいっすから!!! 本名っすけど!!
「ヒナ、本名じゃ、しょうがねーだろ?ww」
正論でブツのはやめてください!!せめてヒナタでお願いしゃーす!!
・・・
そんな放課後から二日後、理学部同士の一回戦を見にいった。
見に行ったてゆーか、ウチには野球専用のグラウンドがある。
クラブマッチが開催されると部活で使えないけどいつもの習慣でつい、というわけっす。
一番ピッチャー、マイティさん。
彼女が先攻の先頭バッターっすか。左投げ左打ち・・・ね。
ん? 木製バットか?・・・公式戦では低反発金属バットしか使えないとはいえ、それでも金属のほうが飛ぶっすけど・・・あえて木っすか?
そもそも学校行事にすぎないクラブマッチなら、良く飛ぶ規制前の金属を使うってのもありだと思うんすけど・・・
スッコーン・・・音があまりよくないが・・・低いライナー?・・・ライトポール際?伸びる・・・うっそ。あれがフェンス超えるの?初球ホームランかよ・・・
なんつーか、彼女、絵にはなるっすね。まあ、高身長モデル美人なのは事実っすから。
しかし・・・打ってもすぐに走りださずに、バットを丁寧に置いて一周っすか。
その後もガンガン打つ。この打線。
・・・なー、これ第一の野球部より得点力あるんじゃね?
・・・まー、閣下先輩もマモもいるし、元第一も多いしな・・・
打者一巡した二回目の打席。ツーアウトフルベースで彼女に回ってくるって、『持ってる』感じっす。
その打席も初球でした、お見事!と言うしかないっす。打った瞬間ってやつっす。
相手のピッチャーも、ああ、行った・・・と打球を見る前にあきらめるタイプのグランドスラム。センターの一番深いところへ余裕のホームラン。
ソロ・満塁ホームランの二本放って、彼女一人で5打点。
次の二番ジョージが三振で計8点先取。コールドペースじゃん・・・
そのあと一回裏のピッチャーマウンドへ。
クラブマッチは学校行事なので、45分を超えたら次のイニングに入らないというルールがあるんっすよ。
サッカーとかは20~25分ハーフとかで約一時間くらい、に調整できるけど、野球は時間が読めないゲームだからっすね。
いやー、ウマいっすねー。彼女達のチームは。
大幅リードしてんだから、時間を使えるなら点はあげてもいいよ?
っつー感じっすね・・・。
ロコツに緩い球投げて打たせたり、守備でも時間つかってるし・・・
結果、理学部同士の初戦も、翌日の対文学部も一回裏で終了っす。キレイに50分程度で終わってるっす。
彼女は4打数4安打4本塁打9打点・・・打率10割かよ・・・
閣下先輩は7割5分 3打点。ジョージも一本だけ二塁打打ってる。
内野安打じゃなくて外野に飛ばしているのは生意気だ!と、いいたいっすけど、この一ヶ月で体が明らかにデカくなってるっすからねー。
なんで一年なのに知ってるかって?
そりゃ、第二とはいえ、彼女の専属マネ的な感じで野球部入ってきてるっすから。マネじゃなくて普通に野球してるけど。
で、第二の日に彼女が来たときはシートになるんで、ガタイの変化も気付きます。
ジョージもバッティングなら、一年なら余裕の合格っす。しかもスイッチ。身長もマモとあまり変わんないんでデカいし目立つっす。
第一なら夏大から背番号もらえるかも?
まあ、自分が左なんで、マウンドからは右バッターボックスのジョージしか見たことないっすけど。
はあ・・・なんつーか・・・これとやるの?県内の強豪チームとの練習試合くらいにキツくない?
その場に居合わせた第一の連中は先輩も同期も含んでそんな顔してたっす・・・
もちろん自分もっす。先発でこれとやるんか・・・っす。
・・・
暑い・・・。そしてツラい・・・。
理学部対野球部のクラブマッチ、櫛谷先輩の予告通り、ジブンはピッチャーマウンドに立ってたっす。
昨日までみたいに、初球で打たれちまうのかな?と思いつつ、気合だけは負けねーって、ドカさんのミット目掛けて投げました。
初球、ライト。あ、やられたか?と思ったっすが、切れてファール。
助かった、と思いつつ二球目、レフト。これも行ったか?と感じつつもファール
三球目はまたライトへの大ファール・・・このあたりから、遊ばれてる?・・・と思いはじめたっす。
結局、30球連続ファール。0-2なのにハズれ気味の球も見逃してくれない・・・いや、クソボールでも無理矢理打ってこられて大ファールっす・・・
絶対わざとやってるっす・・・心が折れるってこういうことなんすかね・・・
弓岡先輩、ドカさんも、もう真ん中に構えて、「打たせていこーぜ!」しか言ってないっす。もう充分、打たれてるっす・・・
31球目、センターへの大ファール・・・じゃない、ホームランっすね。
はは、センターにファールはないっす。メンタルやられてますね・・・
打たれた途端、ショートから部長がやってきました・・・
「ヒナタ、辛かったろう・・・悪かったな、まさかこんなんしてくるとはな・・・」
こんなん、っすね。これやられたんで、公式戦でメッタ打ちくらってもツラくないっすよ
「強がりやがって・・・まあ、野球部員としては、そのほうがいいが、今はキツいだろ、阿波瀬と代わってもらうから、降りていいぞ」
そうっすね。そうさせてもらうっす。一回0/3、自責点1。防御率無限大っす。
「ま、ま、まあ、そう言うな。こんなん例外だ。公式戦なら審判に止められるレベルだからな・・・」
部長、これ、何分くらいかかりました? 阿波瀬さんがベンチから走ってきてますね・・・
「10分は超えてる。球拾いも行かせたからな。まったくポンポン入れやがって
・・・時間的には打者一巡メッタ打ちにされてる程度かな・・・これも時間の使い方ってやつか・・・」
そうっすね。これで時間を使ってもアレですからさっさと降りますね。阿波瀬さん、よろしくお願いするっす。
「おう・・・しかし容赦ねぇなあ・・・ピッチングもすげーけど、バッティングもこれほどとはな・・・。
シートでは手加減していたとか・・・このためにか? まさかな・・・
ま、ボールよこせ。部長もショート頼んだぜ」
「おう!」
はー、三イニングくらい投げた気分っす。
阿波瀬さんも打ちこまれ、二度目の彼女のバッターボックスでは、部長が叫んでたっす。
「マイティさん、もうやめてくれ!!頼む!!ホームランでいいから!!」
三年が一年に「さん」付けっすか。気持ちはわかるっすけど・・・
一応、結果だけ言っとくっすね。初球のインローのシュートをライト、右中間にホームランっす。
インローってのは、あとで、阿波瀬さんから聞いたんすけどね。横からじゃ低いしかわかんねーっすから。見逃せばボールの低さっす。
「体に食い込んでくシュートを左バッターにライトに放り込まれたのは初めてだ・・・」
見逃しでなきゃ、普通、空振りか内野ゴロっすよね・・・
自分もクソボールさんざん打たれましたし、その衝撃はわかるっす・・・




