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フライングガール!  作者: Jack...
26/55

バッテリー無双を眺める櫛谷くん

本当にやれやれだぜ。


うちの野球部は、弱くはないが強いともいいづらい。


理由はシンプルで、そもそも運動部目当てに入ってくる生徒が少ない。

その上、部活の活動時間が短く、連携の練習がほとんどだ。ピッチングにしろバッティングにしろ、基礎練は各個人がどんだけ自覚を持ってやってくれるかに掛かっている。


その個人の自覚的活動にしてもだ。


家が遠くてもチャリ通を貫くとか、早めに登校して走るとか、

体育の授業が実質放置のサッカーやバスケだったらダッシュとジョグの繰り返しをひたすらしているとか、

教室移動の時に遠回りして階段の上り下りを繰り返すとか、昼飯食ったらスクワットとか、

結構涙ぐましい努力が定番だ。


練習量が足りないなら、バッティングは自腹でバッセン、ピッチングは自宅で鏡を見ながらシャドーだ。


部活の時間はセカセカとシート、ケースバッティングで打撃、守備、バント練習を兼ねてやる。ランニングとキャッチボールは微妙に部活開始時間を前倒ししてアップしている。

それなりに練習するので、そのあとはストレッチをするが、それは、部活の時間が終了したあと、部としてではなく有志でしている体裁を捕っている。時間的にはオーバーしているからな……

この辺は建前を整えるこの学校らしい制約事項だ。


なので、「やれやれ・・・」が口癖になっている。練習量の足りなさ、層の薄さ、できる奴が第二に変更したときの悲しさ、練習試合でも公式戦でも、あと一人か二人いればなんとかなったのに、という悔しさ。


部員の前では明るい表情を保つよう努力しているが、一人になると、つい、な・・・


彼も三年対一年という立場もあり、敢えて名前呼びで、マモル、と呼んでるが、心の中では赤池さん、だと、思っている。

キャッチャーとしてだけでなく、外野、ファーストとしても、入ってきた時点で部内で一番うまい。


特に、打力だ。部員の平均的な目標が「内野の頭を越すヒット」だとすれば、マモルの目標はフェン直かホームランだ。正直、比較にならん。

閣下も打つほうだが、結果フェン直とかスタンドインはあっても、あいつの場合は基本的に左中間に流すか右中間にひっぱる長打狙いで、ホームランは入ればラッキー、くらいな感覚だろう。


非常にわかりやすいのが体の厚みだ。二人とも身長は185cmに少し届かないくらいで、ほぼ、差はない。


しかし、閣下の体重は66kg。身長を考えたら多少筋肉質ではあるものの、スリムなイケメン。

マモルも顔はわるくないが、全身に筋肉みっちりつまってます!的な80kg。入学してからも普通にミッチリ度が増していると思うので、今はもう少しあるかもな。


やつは決してバカじゃないが、学力的にはここはギリだったらしい。U15の野球日本代表で偏差値70超えは普通いないから当たり前だが・・・

本人からも、世界大会後には相当無理して勉強したので、ランニングすら大してできず、体格的にもかなりほっそりになったのを戻している途中だ、と聞いている。


本人は、まだ成長期は終わってないと信じています、と言ってプロテインだのサプリだのを飲み食いしている。ちゃんとドーピングにならないやつを選んでいるそうだ。

部活後も、ほとんどの部員は食わないか、食ってもおにぎり一つくらいだ。


マモルはおにぎり二つにプロテインバーまで食べている。

「部長もいかがっすか?菓子って思っても、まぁまぁウマいっすよ?」 と、プロテインバーを渡されたが、そこまで食欲がわかなかった。

強豪高では食育も野球の練習のウチというのは、知識としては知っているが、実際ここまで違うもんだな、と、その時に感じた。

これも「やれやれ」だな。ちなみにプロテインバーはあっさりしたチョコバー風味で適度な甘さもあり、うまかった。


そんなわけで、ウチの部員にパワーでマモルに勝るやつはだれもいない。

正直、マイティの球を平気で受けられるのも、やつだけだろう。


シートバッティング二番手は同級生、三年正捕手候補の弓岡が来た。噂を聞いて大急ぎでアップして着替えてきたんだと。

順番の割り込みといえばそうだが、正捕手確実⇒背番号は貰えるがベンチスタート、が、見えつつあるので、本人が確認して納得するなら・・・と譲ってもらったようだ。

ま、気になるよな。・・・。


一応プロフィールを言っておくと、180cm 80kg 弓岡 陸人(ゆみおか りくと)。筋肉もあるが、脂肪もちょっとある、昔マンガでよく描かれていたようなタイプのキャッチャーだ。


「プレイっ!!」


オレはショートに変わってもらって守備に入っていた。


「うわーっ!!」ドッスン!!どっすん!!「っトラーイ!!」


米塚・・・審判役だが・・・今のストライクか?・・・あーー、オレへの二球目と一緒かぁー・・・右バッターにはビーンボールにしか見えんよな・・・というわけで、二つのどっすんの内の一つは弓岡のしりもちだ。適宜聞き分けてくれ。


リクトーー、ストライク!!さっさと起きる!!時間ねーんだぞ!!


「わかってるって、さっこい!」


しかし、投球間隔が短い。もう投げてる。カーブかチェンジ?あーー、待てないかーー


「ふん!」ブンっ!! バスン「っトラーイ!!」


しかし今のサインは何だ?3・チョキ・パー・チョキでインハイに構えてアウトローへのチェンジアップかな、あれ?。また、間隔速いな、もうモーション入ってるな。


「えい!」ブン!!ドッスン!!「っトラーイ!!アウッ!!」


おいおい!すげえ落ちたぞ! 1・パー・1・4でインサイド真ん中に構えて、低いどころか前向きで捕るのがやっとのとこか!しかしどういうサインだ?


おいおい、フォークも投げれんのか、マイティ!!


「フォークではござら…りませぬ。シンカーです」


どっちでもすげぇよ。しかも、二人連続三球勝負か!やるなあ!


「球数制限がございますれば。一日30球です」「ナイボー!マイティ」「「「ナイピッチ!」」」


「ナイスリード、と返せばよいのか、モル?」

「モルってオレのこと?」

「部長殿がマモルとおっしゃっておったので」

「マモルでよくない?」

「アボガドロ定数のほうが座りが良いのだ」

「なにそれ!?」


「おい、それくらいにしとけ、俺の番だ。モルはすぐ化学で出てくるよ、マモルくん」


閣下か。前に弾き返すくらいなら期待はできそうだな。


「プレイッ!!」


グー・パー・グー・4でど真ん中。頷くと少し下げたか。そのあたりだと前に飛ばすくらいなら……


ドン!!「っっっっっっっトライ!!!」


「・・・これかい?バックスピン。前に見たときより数段凄いね。櫛谷?」


入ってるよ。低いけど。米塚も一瞬溜めたろ?迷ったのか?


「スゲえよ、この子。打撃はともかくオレの目は信じろよ。スゲえ伸びてる。打席ならホップしてるように見えるだろう」「だな」「そうだな」


わかるし目は信じているが、そこを威張るなよな。打てるようになれよ。


「部長、バッテリー切れました」


そうか、川瀬、何キロくらいだった?


「速いのがシンカー含めて、128~132、チェンジは78でした」


そりゃ初見じゃ打てねぇなwww


「俺の打席、続けさせてもらっていいかな」


わりいわりい、マモル、頼むぞ!!


「はいっ!!」


1・パー・1・4でインハイか。


「ふっ!!」チッ!!「ファー!!!」


スイーパーかよww。すんげー曲がり。アウトハイ、無理矢理当てていった感じだな。何か逆球(ぎゃくだま)多いな?


「・・・カスるので精一杯か。外れてたな・・・よし、来い!!」


チョキ・4・チョキ・3でまたインハイに構えたか。


スパン「・・・っっっトライッ!!アウっ!!」「入ってたのかよ?聞いていいか、櫛谷?」


まぁ、アウトロー一杯と言えば一杯。審判にもよるが、普通は捕るとこだな。

しかし何だ今の球。遅いのに伸びる?意味わかんねーぞ。あと、サイン!どういうサインなんだ?

どうせお前も打ってみたいんだろ?変われる・・・だろ?・・・弓岡が来たから教えてやれよ。


「マイティさん、サイン教えちゃっていい?」「かまわぬ」


「基本3つです。一つめが速度。グーが全力、あとは130, 108, 80が1,2,3です

二つ目がローテーション。投手からみて時計回り、捕手からだと反時計で、グーがそのまま、1,2,3で90度ずつ回転です。

三つ目が出し入れ。1がしっかり入れろ、2が普通に入れてこい、3が五分五分で、4が外せ、です。」


三つより多かっただろ?


「はい、この方式だけだと、グー・グーとか1,1とかになる可能性があるので、素早く出せません。なので同じのが続くときにはパーか4を出します。無駄数字を入れても素早く出すほうがいいかと」


それはわかる。だが、それじゃ球種が指定できないんじゃないか?


「はい。そうです。マイティさん曰く『球種は俺様に任せろ』だそうです」「そこまで言っておらぬ!!」


よく捕れるな・・・それで。


「自分の感覚を信じないほうが捕れます。サイン通りのところに来ますから?」


「どういう意味、マモル?」


弓岡、ま、気になるよな。で、防具外しながらでいいから、コツを教えてやれ


「はい、弓岡さん、先輩達も感覚あるでしょ?この球ならワンバンしそう、とか、(うわ)ずってるとか、ここまで曲るわけねーだろ、とかみたいなやつです。それを捨ててください。

サイン出して頷いたら、流石にミリ単位はないですけどボール一個ずれたくらいまでの場所には来ます。

さっきの閣下先輩への最後の球も、2・2・3ですから、108km、インハイに構えたのでアウトロー、入ればラッキー、です。

なんで、こんなん入るわけねーだろ、とかワンバンに備えなきゃ、を、必死でガマンしてアウトローで待っていたんで捕れました」


ガチャガチャと防具を外しながら、マモルは信じ難いことを言った。


マジか?


「マジです。大マジです。部長、7,8球、言ったとおりのところに来たら信じるしかないっすよ?」


3人で9球しか投げてなくないか?


「部長、部長はピッチャーですが、ど真ん中5球投げろ、って言われてぴったり同じところに5球投げられますか?あ、ピッタリと言ってますが、ボール半分ずれるくらいは許容量です」


ボール半分・・・一個でも無理だな。でも全部で9球だろ?残りは一つ二つじゃないか?


「練習球があったじゃないっすか。あれも投げ分けてたんすよ!普通のいいピッチャーのまっすぐ。よくあるおじぎまっすぐ。これもよくあるシュート気味とスライダー気味のまっすぐ。で、最後がさっきも投げた遅いのに信じられないほど伸びるまっすぐです。

で、あっこれ、『常識外』っていう人種だな・・・って気付いたんす」


すげえな。・・・オレのはせいぜいお前の言うところの「おじぎまっすぐ」だな。

そしてお前もスゲエよ。そこで切り替えられるもんなのか?


「一応、『常識外』をそれなりに見たことあるんで。オールジャパンのベストともなると中学生でもすげぇのいるんすよ。

対戦相手の外国人選手にもエグいのいましたし・・・

まぁ、それ見たせいでここに来ようとガンバれたんすけどね」


「マモル、付けちゃってから聞くのもアレだが、これ私物だよな?オレ的には憧れのメーカーなんで嬉しいが、いいのか?」


「汚れとか(にお)いとかの話っすか?そんなん気にして野球できませんよ!いいすよ!」


・・・もしかして、正確に投げすぎるからローテのサインがあるのか?出し入れもか?


「多分、そうっすね。あれのおかげで逆球だと思わせられますから。もしかしたら、マイティさんは気づいてないかもですけど、指導してくれた社員の先輩さんは気付いていたんでしょうね。

正確すぎてミット見たら打てるって。

先輩、弓岡さんも、ローテをぐーだけにしたら、打てちゃいますから、ちゃんとやってくださいね。オレもちらっとミットの位置見るくらいならできますから。」


「ああ、そうだな。まあ、オレもこの高校で三年目だ。三年生に成れたんだからそれくらいはなんとかやるさ。マモル、ガマンだな、ガマン!」「っす!!」


「で、まだ私が投げるのか?で、いいですか?部長?」


頼むよ。マモルだってお前とやってみたいはずだ「もちろんっす!!」「っす、は、()めろ!!」


うるせぇ、始めろ。


「プレイっ!!」


マモルのマジ対決打席、結果だけ言っておく。


高めの伸びる真っ直ぐ。空振り。

メチャクチャ逃げていくスローカーブ。根性で当ててサード側のダグアウトまでは飛んだので、一応、前に飛んだファールだ。

最後はあの謎ボール。外角低めに遅いのに伸びる真っ直ぐ。手が出ず見逃し三振


「くそーーーーー、受ける(キャッチ)のと横から見るの(バッティング)じゃ大違いだーーー。あんなん入ると思えねーだろーーー!!」


閣下、弓岡、俺らもそう思ったよな。「だね」「っす」


で、マイティさんや


「何、です?」


あと18球は投げてくれるのかい?


「かまわ…いません。投げますよ?」


もすこし打ちやすいフォームとかはある?


「腕をもう少しのばしたフォームなら出所?は見やすいと思います。もっと伸ばしても投げられますからそうしましょうか?」


ではいちばん伸ばしたフォームでお願いできんかのう・・・これだとあまりにも野手の練習にならんので、打たせてあげてはくれんかのう?


「はい、よいですが、何故昔話の爺様風?」


・・・マモル、打たせてくれるらしいので、お前でもう一度だ。ヒットになったら誰か代走になって、マスク替われ。凡退でもな。弓岡もそれでいいな?「はいっ!!」「おう!」


「無視か?」


           ・・・


それからは、ヒット、凡打にかかわらず、バットが球に当たるようにはなった。どこへ打て、と言ってから投げてたからな。こんな感じだ。


「モル、外角高目。レフトへ流し打ちではつまらんから、右中間に引っぱって打て」

「ショートの上」

「センター返し」

「流してファーストの横」

「ここでサード線にバント」


結果、成功したり失敗したりは彼女のせいではなく、部員の責任だろう。マモルは本当に初球を右中間に持っていったからな。


「部長、シートバッティングとかケースバッティングというのはこういうのでいいのか?」


違うと思うが、今日はこれでよかった。

これからも週一かそれ以下でもいいから、強豪高対策に30球でいいからピッチャーやってもらえると嬉しい。


「モルが受けるのであればかまわぬ。弓岡先輩ではちょっと厳しいな」


しかしなあ……


「部長、どうした? 何が、しかし、なのだ?」


いや、君が女子でなく男子であれば甲子園出場は普通にに狙えるし、全国制覇も充分有り得る。

今年はサウスポー三人いるから、無敵のクローザー左腕として君臨してくれたらな、と。

強豪高でも左腕4人なってめったにいないぜ?もっとも俺らは強豪ではピッチャーをやらせてもらえるかわからんが。

君が男子なら、それを夢見ることもできただろうなぁ、と思って。

みんなもマモルもそう思っていると思うよ?


「うむ。野球部なら選手登録を懇願されることもあるまいと思い、第二にしたのだ」


・・・そこまで考え済みか。

まあ、バスケでもバレーでも、多分陸上でも絶対懇願されるよな。どう考えても。


でも相手チームが承諾すれば練習試合になら出れるよ?


「む・・・目立つ可能性を考慮し、辞退させて頂きたく。許可願いたい」


だよね。目立つまでは確定だな。そんなの投げたら。

あと、内容は丁寧だけどデスマス無しに戻っているよ・・・ま、君はもう・・・それでいいよ。


「御意」

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