吉村先生から見た、県立市営中央高等学校と、とある優等生のいとこ
面白いけど変な高校に赴任してしまったようですね。
物理の教師をしております吉村詠一と申します。
まだまだ若いつもりの33歳。物理学修士まではなんとかなりましたが、博士まではお金がもたず、4卒時代に教職課程で高校教師になれる資格は取れましたので、メシを喰うために高校の教師になった次第です。
教師は……まぁ、薄給で過酷と言えるかも。でも去年この高校に赴任してからは、何とびっくり、研究時間は持てるようになりました。ここの生徒、頭がいい。去年2年の物理を担当しておりましたが、質問のレベルが斜め上。ほぼ「教科書に書いてあることを教えてどうする」のような話を延々として非常に楽しかったです。大学3年のころのようでした。
この高校は全国的にもそれなりに有名な県立の進学校です。偏差値的に言えば僕が中三のときに受けて受かったかどうかも怪しいレベルに高すぎるところです。それより面白いのが実質的に市営というか地域運営の学校になってます。県の教育委員会からギャーギャー言われても、「は、それが何か?」で済ましてます。
簡単に言うと県の教育委員会の言うことを拒否するたびに教育の内容が上がり、入学できる目安の偏差値も上がっているという面白い学校です。当然、県の教育委員会には目の仇にされてますが、この高校は「あんたみたいな歳だけとった小僧っ子に言われてもねぇ……」という態度です。
でも、県の教育委員会の委員からの意見とやらですが、単なるイチャモンも多いんです。
この前聞いたのは、県の背広組のエラそうなアホ共が真っ赤になって怒っていて、それが試験で差別して授業の内容を変えているのはけしからん、という内容とのこと。
……それは単なる習熟度別クラスでそのジジイ達が高校生のころから進学校では実施してる話でしょ、と思ったわけです。そういう高校には行ってないんでしょうね。
ま、そんなこんなでこの高校は県立高校なのですが、実質、市営というかこの高校に入ってくる生徒が多い市町村営みたいな形になっています。ここの卒業生は極端に上を選ばなければ大学はまずまずの所に現役で入れるので、市や県庁でも大学でなく高校の学閥を形成しています。この市では市長、市議会含めてほぼこの学閥が最大手、さすがに歴代市長全員ではないですが、半分近くになるかもです。
県庁ではまだ若手グループっぽいのですが、しばらくすればこっちの意見が主流になるかもしれません。
で、そのジジイたちより、お話していて論理的に楽しかった2年生は今年3年生。その中でもリーダー的存在だったのは鳥居原くん。細マッチョでデカいっちゃデカいんだけど。普段は温和な性格で表情もやわらかいので大きさを怖さとして感じさせません。正直な話、理系でスポーツ経験どころか体育系の部活に入ろうと思ったことすらない人生なのでデカい人、イカツい人は苦手です。
その彼から去年3月に聞かされたのが親戚の変態的天才で暴力行使系(形容詞がイカツくて苦手だ)女子の話です。
「先生、たぶんイトコというのが法律的に正しい関係性と思うのだが、通称マイティという天才的な危険物が入学してくる予定。ホントに危険物で取扱注意。なお自分よりちょいデカい」
どゆこと?
「死にたくなければニコニコしてスルーというか流しておいてください。あ、論理的な話は基本通じますのでそこは安心していい」
え、どゆこと。
「先生、僕と先生がケンカしたら、僕はともかく先生が無傷は難しいと思いませんか?」
思うね。喧嘩なんかしたことない。
「彼女とケンカしたら死んだらラッキーです」
……どーゆーことーーーー?
「彼女強すぎて、手加減もカンペキです。両手両足を折るどころか千切って、それでも殺さないとかできちゃいます。まだ見てないけどきっと」
……えーと、存在が怖すぎない?ついこないだまで中三女子だったわけだよね?
「そうですね。中三どころか中一のころから市立総合の工業科のヤンキーどもをOB含めてシメてました」
市立総合というのは、市内にあった工業高校や商業高校を存続のため合併してできた高校のことです。
偏差値でいうと40あるかどうか。まぁ、そういう高校の工業科ということは、まぁヤンキー漫画に出てくるような工業高校ということですね。
OBというと、現役のチンピラもいるんじゃない?
「はい、中二のときに現役の暴力団をシメて廃業させました」
なにそれコワい。
「さらに中二、中三と某台模試を受けて東大S判定もらってます」
あたまもイイのね。つーか中二で大学の模試でS判定ってぶっとんでるね。
「なので気をつけるべきは直接の暴力だけでなく謀略もそうで、そちらのほうが悪質です。暴力団撃退は暴力と謀略を同時に行使した結果です」
いくらなんでも、そんなことしてその筋から恨まれないの?
「それが謀略で、その暴力団の元組員の一部は彼女が持っている会社の子会社で脱暴力団組員の社会復帰のモデルケース会社になっていますし、一部の元組員は障害者雇用枠で採用されてたりして市で表彰を受けて、県警とも関係がよいです」
もう驚かないけど中学生社長なのね。前述のオソロしい話を踏まえると障害者になったのも彼女が原因なの?
で、父親が市長だったり、警察署長だったりするの?
「いえ、曾祖父が隣の市で市議会議長をやっていたくらい……僕にとっても曾祖父ですが……で、特に政治や警察とは親族的な関わりはないと思いますよ。父親は民間会社の社長ではありますが。まぁ、IT系で大金持ちじゃないにしろ、それなりにお金はあると思います」
お金には恵まれているのね、まぁ、この高校に入る人は、だいたいそうとも言えるけど。塾や予備校に通えないと厳しいもんね。
それにしても、異世界転生で前世の知識を幼児のころから持っている人みたいだね。
「先生もそういうラノベやマンガを読むんですか。意外です」
多少は読むよ。ずっと授業や論文のこと考えているだけじゃね。気分転換は必要だよ。で、転生人なの?
「違うようです。幼稚園のころは普通に幼稚園児っぽかったです。一つを除いて」
その一つって聞いても差し支えないようなもの?
「はい、右手を骨折して、1ヶ月ちょい三角巾で吊っていたんですが、その間に左手で箸もえんぴつも使えるようになっていた程度です。今も右利きですが、左でもなんでもできるようです」
それは……確かに転生人ぽいエピソードとは言えないね。充分すごいけど。小学生のころもエピソードあるんでしょ?
「僕も大概ですが、早めから大きくなったのでバスや電車に乗るときパスポート持ってましたね」
は?パスポート?国内移動なのに?
「小学校の児童が持てて、生年月日が入っている写真入りの公的証明書ってパスポートくらいしかないんですよ」
確かに運転免許は取れないね。
「小5で170cmくらいありましたから、まぁ、小学生には見えないですね」
ということはもしかして、今はもっと高いの?
「さっき言ったじゃないですかw、僕よりちょいデカ、185ちょいだと思います。足なんかびっくりするほど長いですよ」
君も普通にスタイルの良いイケメンだと思うけどね。
「一見、お姫様かと思う程度には美少女ですが、ともかく危険ですからね。ナメたこと言ったらとんでもない間合いから鳩尾にキックを食らいますよ」
足がびっくりするほど長いってのが、褒めてるんじゃなくて警戒を促す内容だったは初めてだよ。