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フライングガール!  作者: Jack...
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3連荘の鳥居原くんが中央高の部活事情を説明する

また僕ですか?ジョージ君に変わってもらいたいが、この話題だとちょっと難しいか。


彼もいい加減大きいね。しかも、あの彼女の相手が勤まるということは肉体的にもメンタル的にも中々の強さということだね。まだまだ細いが、入学直後のひょろーっとした感じから、お、筋肉ついてきたな、という感じになりつつあるし。


まぁ、それは置いといて、中央高の部活事情について話したいと思う。


中央高は、本音と建前が両立させなければならない学校だ。大変に面倒くさい。

例えば、<制服>という項目では、「本校の制服はこれを定めない」となっており、制服、標準服というのは本当に無い。

ジャージで通ってもいいし、制服の定めが無いのでとんでもないミニスカートにしても教師が怒る根拠がない。

しかし、<式典に於ける服装>という項目を要約すると、制服類似の服装で式典には参加することを勧めている。なんちゃって制服を着てこいよ、と書いてあるようなものだ。

数少ない高卒就職組を含め。三年生は冬以降リクルートスーツを男女とも着用する生徒も多い。制服類似という範囲に入るといえば入るし、すぐ必要になるからだろう。


ミニスカについて補足しておくと、<生徒の品位>という校則があり、これも要約するとエロすぎたりセクハラ等のハラスメント行為やイジメは禁止となっている。

なので、女子がミニスカ過ぎを指摘されることはないが、その場合スパッツ等でパンツ丸見えを防止することは要求される。そもそも制服がないため、男子がスカートを履いてもよいが、いわゆる男の娘的存在であることが求められるらしい。校則には書かれていないが、慣習として良い、良くない、という項目もいくつか存在する。こうやって、ありとあらゆるところでなんとか本音と建前を両立させている。


学んだ言葉を使わせてもらえば、「明文法」と「慣習法」の両方がある状態だ。


部活についてもそうで、生徒は一つ以上の部活に参加するというのが校則の内容で、慣習としては、一つの体育会系と一つの文化系の計二つの部活に所属することが一般的だ。文武両道という建前を満たすためだ。


ここに「第一」と「第二」という概念が生まれる。例えば、本気で甲子園を目指すなら、第一が野球部になる。第二は大体、理学部か文学部だ。


第一が体育会系のとき、それはインターハイ出場や前述の野球部なら甲子園出場を目指すということで、第二でサッカー部や野球部というのは「どうせ体を動かすんならそれがやりたい」くらいの同好会的な存在になる。バレーやバスケも、体育でやったり、放課後に少し遊ぶのは楽しいが、インハイを目指すほどじゃない、というのが第二になる。


第二所属は週一回程度の参加でいい、ということになっている。時間も30分程度で、好きなことだけやればいい。僕も第二は野球だが、ランニング、キャッチボール、マシン打撃くらいで、実際には月2~3回くらいだ。

マシン打撃は競争率が高いので順番が来るまで、ウォーミングアップしたあとキャッチボールしながら待っているだけ、とも言う。

ただ、硬式なので、ヘルメット、フェイスガード、レガースなどは必要だ。僕は自前で持っているが、野球部にも備品はあるので借りられる。マシン打撃は、防具を着けた状態でないとやらせてもらえない。

守備は本職?というか、第一の選手がやってくれる。わざわざ硬式で打ちに来るやつらの打撃なら、守備練習にはなるということだ。


「おーい、閣下、第一じゃないのは承知の上で言うが、外野手で選手登録してくんねーか?」


もう、閣下は返上したよ。それに人数は充分いるだろう?それに暑いなか走りまわるのはイヤだしな。


「一年は夏までに閣下ほどの打撃力にはならねーよ。まぁ、外野手といっても事実上は代打の切り札だよ」


だから閣下は・・・まぁいいか。県大優勝の可能性があるのか?


「無くはない。左の変則がオレ含めて三人。スリークォーター、サイド、アンダーと揃っている」


まぁ、強豪高が苦戦するパターンといえばそれだな。変化球はあるのか?


「サイド、アンダーは真っ直ぐが変化球みたいなもんだが、それ以外にもいくつか投げられる。オレもスライダー、シンカー、チェンジがある」


得点力は?


「それが課題だ。基本的にウチに来るのはまぁまぁ頭のいいピッチャーとキャッチ、セカンド、ショートだ」


まぁ、ピッチャーとキャッチャーはファーストも外野もできるからな。


「サードも守備範囲が狭くてよければ急造はできる。雑に言えばファーストまでコントロールよく投げれればいいだけだから、キャッチャーならすぐ慣れる」


確かに、セカンドへの送球とあまり距離違わないだろうな。


「ただ、デカいやつはあまりいない。今年の赤池は下手したら一年夏からレギュラーで正捕手だが、あれは例外中の例外だ」


ああ、地元の不動産屋の息子でU15で活躍したんだっけ?シニアとは言え野球の日本代表がウチに来るなんて空前絶後だろう。


「絶対強豪に行くと思ってたよ。あいつならハナっから正捕手のクリーンナップでも文句はない。二年後は部長だな。残っていればだが」


というとそれ以外に強打者が居ないということか?


「多少はいるがな・・・。DHがあればお前に四番DHを任せたいほどだ。そもそもお前だって一年のころはほぼ第一扱いだったじゃないか。勝手に引退しやがって」


それは僕が第一扱いを受け入れていただけで、最初から第二での登録だ。途中で切り替えた奴らとは違う。そういう言い方をするなら、ハッキリと断わらせてもらうぞ。


「わりいって、あやまるから選手登録はなんとかお願いできないかな」


第二参加をしたときに、野球部の部長、櫛谷とキャッチボールしながら交した会話だ。世間的な野球部の部長は責任教師のことを指す場合もあるが、ウチの場合、生徒側の部長を指すことが一般的だ。


この会話の流れでわかると思うけど、進学校だから運動部のレベルも大したことあるまい、と思って入ったらガチだった、とか、レギュラー取れずにあきらめた、またはにケガして競技レベルが保てなくなった、などの理由で第一を体育会系にしていた生徒が第一、第二を入れかえることは少なくない。


体育会系についてはあまり説明の必要は無いと思う。レベルの高い低いは置いといて、野球、バレー、バスケ、サッカーなどありそうなものが普通にある。


逆に文化系の部活については、説明しないとわけがわからないと思う。


まず、僕が所属している「理学部」大学の学部の名前のようだが、理数系部活の集合体だ。普通の学校なら、物理部や化学部、数学部・・・はあまりないと思うが、天文やカメラ・・・写真部的なものも全て含まれて「班」「グループ」「会」として活動している。


メリットは歴史が残りやすい、顧問の都合が付きやすいなどである。わかりづらいかな?


例えば「ロボコン」という競技を挙げてみよう。「人力飛行機」でもいい。ああいったものは一部の熱狂的な中心人物、それも複数人、が、いないと成立しない。そして、それをサポートするそれなりの人数の賛同者が必要だ。しかし、高校というのは三年で中心人物が去ることが確定している社会とも言える。


このときロボコンが部として活動していると、続かない。それなりに高校生として興味を惹かれる内容だとは思うが、わずか三年、興味がある人がいない状態が続くだけで廃部となってしまう。資料や機材なども廃部に伴って廃棄されることになる。


昔はウチもその方式だったが、過去の反省からメタな部が形成されはじめ、今では合併に合併を重ねた結果、理系部活は理学部、文系部活は文学部、音楽系部活は音楽部である。例外は全国的に強豪であるかるた部だ。吹奏楽部は音楽部吹奏楽部チームという名前で部の中の部みたいな扱いになっているが学校の部活としては音楽部になっている。


この方式は弱小部活の歴史が残るというメリットが大きくウチでは文化系部活の主流となった。小学校のころ、地元の高校のロボコン大活躍に憧れて、友人3人でがんばって勉強して入ってみたら影も形もなかった。じゃあ復活するか、となったとき、マンガやラノベの素材にはなりそうだが、実際には部室が無いとか、人数集めが大変、顧問確保など難題が山積みだ。そして過去の資料もないわけだ。


ウチの方式なら、理学部の中にロボコンの記録は残っており、機材も古くて使えないかもしれないが、壊れてなければ残っていたり、少なくともソフトウェアや図面だけはあったりする。


そんなこんなで、流行廃りの激しい文化系部活は次第に統合され、巨大な二大部活、理学部と文学部、音楽系統括の音楽部、そして孤高の路を行くかるた部に集約されたとのことだ。

演劇部的なものはないの?というとちゃんとあって、文学部内にある。ESSも文学部だ。軽音みたいなものも音楽部内に存在する。


音楽と言えば、音楽理論みたいなものになると数学や物理が関わってくる。そういったグループは音楽部と理学部のハイブリットグループという存在になる。音楽理論そのものは理学部のアーカイブに保存されているそうだ。


この方式の生徒側から見た利点はあれもやりたい、これもやりたい、という生徒も、できればなにもやりたくない、という生徒も単一(というか二つ)の部活に所属するだけでいい、ということだ。その時間があるか?という問題があるが、理学部に所属していれば理数系部活のすべてを自分でやることができる。


逆に本当は帰宅部がいい、という生徒でも長距離の自転車通学をしているのであれば、第一を理学部にして、毎日の予習復習を理学部として実施し、第二を自転車部として通学を部活の練習と申告すればよい。


鉄道やバスでの通学だったとしてもやりようはある。第二を陸上部にして、自宅から最寄りのバス停や駅までをランニングにする、などでもかまわない。


というわけでこのメタで巨大な理学部の部長がマイティ、副部長が僕なわけだが、理学部を第二で利用する体育会系部活の生徒は多い。理由はカンタン。定期試験対策になるからだ。


年5回の定期試験期間になると文理共同点数向上ハイブリッドグループが形成される。理学部と文学部の共同だ。だが、体育会系の苦手科目はなぜか理数系科目に集中しているため、普段から理学部に所属し、週一の活動日に理学部で復習授業を受けたほうが点数向上HGでの効果を上げやすいことがわかっていて、先輩からも申し送り事項として伝わっているからだ。


定期試験期間前の1週間は体育会系部活の活動は休止になるが、その期間は、各教室で点数向上HGによる補習が行われる。理学部にしろ文学部にしろ、第二の生徒は週一で苦手教科対策を小テストをしているので、点数向上HGに苦手分野は把握されている。


そこで習熟度別補習が実施される。講師も生徒だ。習熟度が細かいと教室が足りなくなりそうだが、生徒の1/3近くが講師側にまわっているので足りなくなることは無い。

普段の部活動ではそんなことはしないが、このHGでは「いかにして点数を取るか」が優先されている。


生徒によるボランタリーな補習なので、出席の義務はない。しかし普段から塾に通っている生徒も全員参加する。そもそも補習の時間が短く、体育会系部活のあと、塾に通っているのであれば同じ時間には行けるということもあるし、塾に通っているのであればこういう質問をしてこういう練習問題を出してもらえば底上げになる、まで教えているからだ。


僕も個別指導に通っているが、一年のころから補習の講師もしている。講師側も勉強になるから、というのもある。実際質問を受けて、あれ?なんでだっけ、みたいな答えられないこともある。「ごめん、今はこれだって覚えておいて」で済ましてしまったことを、そのあと個別指導で質問して教えてもらえることもあった。


こんな感じで講師をやる側にもメリットはある。もちろん、一から準備する、なんてのは不可能で、先輩方が溜めに溜めてきた膨大なアーカイブがあるから成り立つ話だ。当然、今回の対策はどうしようから始まって、過去問をもとにある程度のヤマも張る。そして、講義実施直前に資料を読んでいるという流れの中で、曖昧だった理解が自分の中にはっきりとした知識として蓄えられる、という実感もあるので、勉強の理解度が一段階かそれ以上に上がるのだ。


そう考えてみると、彼女の暴力的とも言える知識、言葉の波に洗われまくったことも自分の、自称秀才を謳える根底にはあるのかもしれない。ありがたいことなんだろうが、面倒なことだ。

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