いってらっしゃい
留学の前日、わたしは荷物の最終確認をしていた。
…
この部屋とも、しばらくおさらばなんだなぁ。
グスッ
いけない!泣いてる場合じゃないんだ。
夢に向かって出発するんだ‼︎
通訳の仕事するために、バリッバリのできる人になってやるんだから‼︎
よし‼︎と、スーツケースのフタをしめた。
と、同時にドアがコンコンとなった。
おかあさんかな?って思ったら、
「柚菜子…オレ。ドアあけなくていいからきいてほしい」
って、まさかのナオ⁉︎
「どうしたの?」
と恐る恐る返事をした。
「明日、留学するんだよね?空港までお見送りしたかったけど、柚菜子が嫌がりそうだったから、だから…家にきちゃった。いってらっしゃいくらいは、言わせてよ。柚菜子、元気でね……いってらっしゃい。」
ナオ…
わたしは、ボロボロと涙をこぼすのが精一杯で、返事ができなかった。
うっ…うぐっ…
また、そうやって優しくするじゃん⁉︎
なんでいつもそうなよ⁉︎
ナオのバカ‼︎
って思っていたら、階段を降りていく音がした。
…ナオ。
帰っちゃうんだ…
わたし、まだいってきます言ってないのに…
「ナオっ‼︎」
わたしは、ドアを勢いよくあけた。
そしたら、ナオがわたしの部屋に戻ってきてくれた。
「柚菜子、久しぶりだな。てかさ、柚菜子…泣きすぎだろぅよ」
って、ナオがわたしに笑いかけるから…そんな笑顔最後にみせられたら…わたし…
…
「ねぇ、ナオ‼︎わたし…わたしね、もう闇堕ちしないから、だから‼︎だから…お願いがあるの。」
「えっ?闇堕ちって…ってか、お願いって?なに?」
「あのね…もう絶対言わないから、抱きしめてほしい。ほら、外国だと挨拶にハグするじゃない。そういう感覚でいいから…だから、ハグして…ほしいの。」
ナオは、じっとわたしをみたかと思えば…クスって笑って
「ツンデレかよ?」
っていいながら、優しく抱きしめてくれた。
ナオ…
ナオの抱きしめ方が、すごく優しくて…だからわたしは、涙がとまらなくなってしまった。
「なぁ、柚菜子。」
「なに?」
わたしは、ナオに抱きしめられながら返事をした。
「オレのことキライなんじゃなかったの?」
「うん、キライ‼︎これからもっとキライになるよ‼︎たぶん留学から帰ってきたら、大っ嫌いになってると思う」
「そっか。でも、それでも抱きしめてほしいのって、なんで?」
「それは…ナオが…」
「オレがなに?」
「ナオが、ただの幼馴染に中途半端に優しくするから…」
「ただの幼馴染か…オレは前も言ったけど、柚菜子のこと好きだよ?」
「…だから、そういうところだよ!」
わたしは、ナオからベリっと離れた。
「ナオがわたしに優しくすればするほど、辛いの‼︎」
「なんで?」
「なんでって…本命じゃないからじゃん‼︎」
「え?柚菜子の本命は、だれなの?ほんとは本命に抱きしめてもらいたいってやつ?てか、やっぱりまだ…冴木くんを好きなんだ?でも、オレを嫌う意味は?」
?
「え?冴木くん⁇」
「違うの?」
「いや、冴木くんのこと一度も好きになってないよ?まだってなに?」
「え?だって…体育祭のあと、冴木くんと山田さんが付き合いだして…それで柚菜子が闇堕ちしたんでしょ?」
「ん?山田さんと付き合いだしたのって…冴木くんなの⁉︎じゃあ、ナオって…」
「オレは、その日柚菜子にフラれたようなもんだったよね。わたしも好きとか言いながらも、そのあとめっちゃ避けてきてたし…」
⁉︎
えっ⁉︎
どういうこと⁉︎
「ナオが体育祭の日、山田さんに告白したんだよね?前に電話で言ったよね?一位とったら山田さんに告白するって…」
「なに言ってんの…山田さんが告白するって言ったんだよ。幼馴染にさ」
…
え…
「わたし…ずっと今までナオが山田さんと付き合ってるって思ってたよ?」
「ないない」
「え…じゃあ、わたし…留学しない」
「いや、なに言ってんの…それは、ダメだろ?やりたいことあるんだよね?」
「…そうだけど。でも…じゃあ、ナオがわたしを好きって…あれは恋人としてなの?」
「うん、当たり前じゃん」
…
「うそっ…グスッ…うそだぁ…グスッ」
「うそじゃないよ?オレはずっと柚菜子が大好きだよ?」
…
「わたしも…ずっと好き。キライとか言っちゃって、ごめん…」
「ううん、いいよ。柚菜子おいで」
オレが優しく手を伸ばすと、柚菜子はオレの腕の中にそっと包み込まれた。
「柚菜子、オレ実は最近バイトしててね、お金結構貯まったんだ。だから、さみしかったらいつでもいいなよ?すぐに会いに行くからさ」
「ナオ…ありがとう。でも、それじゃあっという間にお金なくなっちゃうじゃん。なら、毎日連絡するね。そしたら、いつでも近くにいる感覚になれるから」
「わかった。そのかわり、電話たくさんするね。柚菜子の声ききたい。ずっときいてなかったし」
「…それは、今までごめん」
「いいって。でも、今まで音信不通にしてた罰として、帰ったらずっと離れないからね。覚悟しといてよ?」
「うん、わかった♡」
「よろしい。明日もお見送り行っていい?」
「うん。でも、ナオが来たら…離れたくないってぐずって、いけなくなるかも」
「大丈夫。飛行機で食べる用のお菓子たくさん用意するから。それ、飛行機で食べなよ」
「え、嬉しい。」
「だろ、柚菜子は食いしん坊だから、オレすぐに柚菜子を操れちゃうんだ」
「なら、もっと早くに操ってほしかった。」
「うん、たしかに。」
「ねえ、ナオ…帰ってきたら、二人三脚しよっか。ベッドで」
「マジか‼︎それは、楽しみすぎんだろ」
「ふふ、そうだね♡」
オレたちは、時間が許す限り抱き合いながら、くだらない話をした。
今までの、すれ違い時間を取り戻すかのように。
そして次の日、柚菜子を見送った。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
からの一年後
「おかえり‼︎」
「ただいまぁ‼︎」
顔をみるなりオレたちは、ガッツリと抱き合いましたとさ♡
そして、二人三脚するのであります♡
おしまい♡




