表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

3話 【賽は投げられた】

――学園寮、朝、フラグの自室。


「――っっ今っ!!絶対1人誰かやった!!!!!」


 布団を吹き飛ばす勢いで、飛び起きて、頭を抱える。


 心臓の鼓動が早い。夢の残滓が、まだ目の奥に張りついている。


 ……誰だった?――いや、それすら曖昧だ。顔も名前も、思い出せない。

 イメージが曖昧だったのは救いか否か。

 この夢が、あと何日続くのだろう?全然分からない……


 ひとまず落ち着いて、支度を整えよう。



 時計を見る。いつもより少しだけ早い朝。

 自室を出て洗面所へ向かう。


 蛇口を捻り、水が流れ、顔を洗う。

 頬に触れた水が、妙に心地よかった。


 ……まるで、何かが終わった後のように。


 能力を思い起こす。



 ──────────────────────────────

 名前:志望 風羅具 読み:しぼう ふらぐ

 陣営:邪神ヴァルマリス


 能力「邪神の加護」


 あなたは、邪神の加護を得る。

 あなたは、身に宿る邪神の瘴気により周囲に恐怖と拒絶をもたらす。

 あなたは、毎晩あなたに対して好感度の一番低い【参加者】を消す。


 あなたがゲームから排除された時、あなたは記憶だけを連れて、世界は、1日目に巻き戻る。


 残りの邪神ヴァルマリス陣営:1人(無能力者:0人)

 ──────────────────────────────



 文章は何も変わっていない。前と同じだ。

『あなたは、毎晩あなたに対して好感度の一番低い【参加者】を消す。』


 ――僕は恐らく誰かを消した。

 物語は、始まってしまった。


 ※    ※    ※



 時間が経ったように思う。

 思考が上手く定まらないまま、これからの方針を考える。


 どうする。何を信じるべきだろうか?

 まだ夢の中に僕はいるのだろうか?

 諦める?このままずっと潜伏し続けて世界が終わるのを待つ?


 一旦、シミュレーションをしてみる。



 《この能力もルールも嘘で、僕が信じていない世界。》


 そうであれば、これは【ちょっと違う日常】を送るだけのお話。何も起きない。

 ――次。



 《この能力が本物で、ただ僕がそれを嘘だと、能力が無いと思い込んだ世界。》


 能力なんてなかった、と信じ込んで生きる世界をイメージしてみる。



 《何も気にせず日常を過ごす》

 ↓ 

 《生徒消失事件は起きる》

 ↓

 《この事件には犯人がいる!怪しい奴を探せ!》

 ↓

 《怪しい瘴気を出してる奴がいる!吊るせぇ!》


 ――はっ!これは駄目な流れだ!逃げ道が無い!

 なら最後のルート。




 《能力は本物。僕がそれを信じて行動する世界。》


 僕は鏡を見る。

 映るのは、締まりのない顔と眠たげな目。

 だがその奥に、わずかに宿る――諦めぬ意思。


 これが夢なら、いつか終わる。

 現実なら――ここで止まったら、全員が消えていくだけだ。


(これはもう、実験だ。夢か現実か、やってみればいい)


『あなたがゲームから排除された時、世界は1日目に巻き戻る。』


 これは呪い。

 同時に、【圧倒的不利を逆転させる可能性】でもある。

 何度失敗しても、また立てる。

 負けたって、全員が死んだって、やり直せる。


(本当に巻き戻るのか?なんて試す必要なんてない)

(ここで巻き戻しても、つまんない物語が1つ終わるだけ)


(それなら、“意味のあること”をする)


 眼の奥に宿る意思は消えていない。


(終わらないゲームなら、いっそぶっ壊してやる)

(ループ? じゃあ試行回数、稼ぎ放題じゃん?)


 深く息を吸い、覚悟は決めた。


(だったら、“次”はやってみるか。)


 ――もう迷う必要はない。


「全てを救えるなんて思ってない。でも、意味のある終わり方くらい、俺が決めてやる!」



 拳を強く握る。

 何の保証もない。それでいい。

 信じた道を突き進む。それしか方法がないのなら――


 フラグは、全力で、突き進む。


 ※    ※    ※


 仕度を済ませ、外に出る。


 ドアを開けると、ひんやりとした朝の空気が肌を撫でた。

 青く澄んだ空――なのに、どこか落ち着かない。

 今日は、何かが変わる。そんな気がした。


(この世界のルールを探るなら……誰かと関わってみるしかないか)


 寮から、正門へと向かう道を歩く。


(最初に声をかける相手が“彼女”なのは……単に、目についたから)




 今日も、彼女はベンチに座っている。膝の上にカバン、表情は困惑気味でうつ向いている。

 栗色のヴェールのような髪が風に揺れ、彼女は静かに、誰かを待つ。



「たしかきみは――七瀬 ほのか、だったよな?」


 そう声をかけると、彼女ははっと顔を上げる。

 まるで、自分の存在をちゃんと覚えてくれていたことに驚いたように。


「えっ……フラグくん? ……うん、そう、ほのか……覚えててくれたんだ」


 少し照れたように笑い、視線を逸らす。

 彼女の頬はわずかに紅潮していた。


「話しかけてくれてありがとう。……昨日から、ちょっと色々あったから……」


 彼女の視線は少しだけ揺れている。

 彼女自身も気づいている。【何かが周囲でおかしい】と。


(――この子、能力アリ?)


 昨日から、ちょっと色々あったから――と彼女はそう言った。

 彼女の言葉をヒントに、動いてみるとする。



「昨日のこと……何か見た?なんかこう、“特別な感覚”とか、あったりする?」


 朝の木漏れ日が射すベンチで、彼女は顔を上げた。

 その目が、ゆっくりと見開かれていく。


「ある。じゃあフラグくんも?」


「夢を見たんだよ。ルールとか、能力とか」


「そっか、やっぱり同じだったんだ」


 彼女は安堵したかのように息を吐く。


(――こいつ、能力者!)


 だが、表には出さない。

 ここからが本当の勝負だ。彼女を味方に引き込む。


「フラグくん、昨日からちょっと怖かったから ……」


(そうですね。ぼくがじゃしんです)


 あぶない。喉の奥に力を込めて、表情に出さないように。



「このゲーム……敵の陣営が全員いなくなれば終わる」

「同じ陣営同士で争う訳には行かない。だから味方を探してるんだ」


 ほのかは、膝の上のカバンの紐を、ぎゅっと握りしめる。


「……私、自分が何の役に立てるかわからないけど……もし、フラグくんが“味方”だっていうなら……少しだけ、手伝ってもいい」


 小さく、でも確かに――彼女は信頼の糸を手渡してきた。


(試されてる。……こっちも応える必要があるかな)


「ありがとう。俺は君を信じる。でも条件がある――」

「俺の能力を教える。代わりに、君の能力を教えてくれ」


 彼女は、少しだけ迷ってから、コクリと頷いた。


(これが駄目なら、彼女を敵に回すしか無い)


一呼吸おいて、静かに話し始める。


「俺の能力は感情の増幅だ。俺の事を怖いと思ったら、その気持ちを周りにばら撒いてしまう」


 もちろんこれは嘘である。

 自分でもとんでもない事を言ったと思う。

 だが、良いカモフラージュになるはず。



「そっか、それで……私の能力と似てるね。フラグ君の助けになるかも」


(――似てる、か。同じ能力にならなくて良かった!)


 この【ゲーム】の【ルール】に存在する項目の一つ。

 ――“すべての能力者は異なる力を持つ”。

 もし誰かと同じ能力を言ってしまったら、それは小さな違和感を生む。



 彼女が、カバンの紐から手を離すと、今度はフラグの手を、そっと握る。



「私の能力は――共感能力。《心綴》コネクト・コード。相手との心と心を繋いで、想いを綴る」

「フラグ君の怖い気持ちを私が受け止めて、優しい気持ちに変えてあげる」


 彼女の手がほんのり光ったかのように映る。

 それと同時に、優しい気持ち、信じる気持ちが流れ込むような、くすぐったい感覚を得る。



 ――なるほど、これが共感能力。


 ん?まって?共感?



「怖くない怖く……あれ……嘘」



 握られた手に、力がこもる。

 指先が少しずつ熱を帯びて、拒否も逃避も許さぬ温度になっていく。


(共感という事は、お互いに気持ちが流れ込む事)


(これ、僕の思考を読まれてるって事なのでは?)


 脳内警報がフルボリュームで鳴り響く。


 手を離して?ねぇ離して?まって?ねぇおねがい。




「嘘と焦りと……邪神?これフラグ君」


 そこからの僕の転身は早かった。




「――背負い投げェェェェェェ!」


 彼女が、空を舞って、そして。


「フラグくぅぅぅん!?ぷぇっ」


 地面に落ちる。

 その声を背に、僕は全速力で逃げ出した。

フラグ折っていくRTA!

下記が挿絵!AI生成です!あくまでも作者の“想像図”です!


挿絵(By みてみん) 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ