2話 【オーラ出てるだけ説】
5話までは毎日21時投稿の予定です。それ以降は私のやる気次第です!
――学園寮、朝、フラグの自室。
カーテンの隙間から差し込む朝の陽射しの中、1人、フラグは考えていた。
先ほどはテンションが乱気流だった。
今は少し落ち着いてきた……と、自分に言い聞かせている。
考えよう。
1つ言えば、まるで夢なのだ。
今も、集中するだけで“知らない能力”と“ルール”が頭の中に――浮かぶだけではある。
【能力が本当にあるのか】それを試せれば良かったのだが、この能力にONとOFFのスイッチは無いようで……意識しても、手元に何かが起きるわけではない。
ただ、何となく体の内側から、ジリジリとしたオーラのような気配が溢れているだけだ。
夢と現実がごちゃ混ぜになっていて、ただテンションが上がっているだけかもしれない。
――とにかく、外に出てみようか。そう思い、立ち上がる。
◇ ◇ ◇
この学園寮は、ユニット制になっている。
寮の空間は、共有スペースとして使われるリビングダイニングルーム、洗面台とトイレとシャワー、それに繋がる4つの個室――これが1ユニットとしてまとまっており、同じユニットの4人で共同生活を送ることになる。
そうしたユニットが多数並び、学園に通うほとんどの生徒を収容することが出来る構造になっている。
シャワーや風呂、ランドリー、キッチンと言った設備は、このユニットとは別の、大きな共有スペースにも用意されている。
ユニット内のシャワーは一人が何とか入れるようなブースで、狭いけど温水はちゃんと出る。
誰かが使っていると待つ事になるので、より大きな共有スペースの方を使ったり、余裕がある時は大浴場で過ごす生徒も多い。
◇ ◇ ◇
個室から出ると、すぐにリビングへと出る。
そこには2人の人物がいた。
「おう!おはようっ……っておいおい、なんだその顔!どうした?!」
前者が、お調子者の友人、杉崎 陽太。
誰とでも仲良くなれる彼は、隣のクラスでも人気があるらしい。
「……チッ」
後者の――舌打ち君は、外村 剛。
舌打ち君は視線も寄越さず、上着をひっつかむと、足早にリビングから出て行ってしまった。
――どうにも相性が悪い。理由は知らない。この身から溢れるオーラかもしれない。
「あー、同じユニットの仲間じゃん?仲良くしたらいいのに!」
「彼が嫌うなら仕方ないだろ。問題が起きなければこれでいいんだ」
お調子者が肩をすくめる。
「で、なんか今日のお前、なんか違くない?雰囲気?テンション?どしたん話聞こか?」
と、その軽さに、一瞬だけ、返答を迷う。
(夢が本当ならどうすべきだろう?)
と少し思案して――
「悪い夢を見たんだけど……そっちは何か見た?」
「はっ?何?夢共有しちゃう?いや俺は何も見てないな?」
(――こいつ……無能力者!)
と直感し、軽く巡らせた思考を戻す。
「あ、ならいい。俺の機嫌が悪いだけ」
「ならいい……ってさぁ、お前気をつけろよーぅ?変な夢って、体調崩す前兆だったりするし?」」
話を切り上げて、朝の支度を済ませ、軽く口に何かを入れてから、制服のポケットを確認する。
寮の玄関を抜けて、今日も学園へと向かうのだった。
※ ※ ※
(――どうやら、オーラが“見えている”わけではなさそうだ)
寮を出て、学園へと向かう道。
まだ少し肌寒い朝の空気が、シャツの隙間から忍び込んでくる。
通い慣れたはずの道を歩きながら、周囲の視線をさりげなく観察する。
ちらりと向けられる視線。すれ違う生徒たちの何気ない反応。
中には、ほんの一瞬だけ【何だコイツ】とでも言いたげな目つきの者もいたが……問題ない。たぶん。
(……問題ない、よな?)
一度深呼吸して、思考を整える。
夢か現実かどうか、正直、まだ半信半疑だとして――
(1日目は潜伏しようか)
自分でそう決めると、少しだけ気が楽になる。
何もしなければ、何も起きない。何も壊れない。
周囲の反応を見ながら、判断すればいい。
むしろ、ずっと潜伏していたらこのゲーム、何事もなく終わるのでは――
何せこのゲームには【投票】が無い。つられることも無い。
(……あれ?)
軽い違和感を感じて、足が止まる。
周囲を見渡して……視界の端、ベンチに座る少女の姿が、目に入った。
制服姿、膝の上にカバン、表情は困惑気味。
こちらに気づいた彼女は、すぐに視線をそらした。
(待ち合わせでもしてるのかな)
気にはなったが、声をかけるほどの関係でもない。
そのまま足を動かし、学園への道を再び歩き出す。
今日は“潜伏”すると決めたのだ。
何もせず、何も起こさず、様子を見る。
HR。何もない。
昼休み。何もない。
放課後。――何も、起こらなかった。
そのまま、何も起こらず、寮へ戻る。
部屋に入り、ベッドに身体を投げ出す。
(まるで、冷静な主人公のつもりで、それを演じる僕で)
やけに静かな天井を、しばらく見つめたあと――眠った。
※ ※ ※
真っ暗な中、真っ黒な自分が、誰かの枕元に立って、静かに見下ろしている。
――闇の中。
僕は、闇そのものとなった。
ただ静かに――それでも確実に、存在していた。
視線の先には、ベッドで眠る誰かの姿。
その顔も、名前も、何もかも曖昧だ。
ただ“誰か”が、そこで眠っている。
“自分”は何も言わず、感情も無く、静かに、手を伸ばして――
※ ※ ※
2日目が始まる。