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008_β版より前の話2

ヨウキが6階でエレベーターを降りると、その前で何やら話し込んでいる数人の男女がいた。


「俺のこと?」

和気あいあいと話が弾む中に自分の名前が出ていることに気づいたヨウキは、集まっていたメンバーに近づいて声をかけてみた。

その声に全員が一斉に勢いよく振り返り、一同から救いの神を見るような瞳を向けられたヨウキは笑顔の下で声をかけたことを後悔してしまった。


「「「「「ヨウキさん。」」」」」

「めっちゃいい、タイミングです。」

「とても会いたかったです。」

興奮気味に詰め寄られたため、両掌を相手に向けて一歩下がったヨウキだったが、そこに更に一歩詰め寄られる。

「さっきココアさんが言っていたんですけど、ココアさんとタクトさんがテストのペアを組むんですね?」


メンバーの興奮した様子に、なんだ、そのことかと納得して頷き、話の先を促した。


少し落ち着きを取り戻した一人の男性が、コホンと咳ばらいをすると、いたって真面目な顔で話しを始めた。

「実は、先ほどここにいる皆さんと話していたのですが、二人の対決シーンとか、プロモーションに使うってどうでしょう。」


続いて横にいた女性が銀縁メガネを片手であげながら話を続けた。

「お二人とも独特の感性があり、思った以上の思わぬシーンを繰り広げられることは想像に難くないかと思われます。」


さらにその後ろの男性も続ける。

「悪役令嬢そのもののココアさんと正統派と思わせておいて実は裏で計算高いことをしていそうなタクトさんをヒロインとした時に、通常の断罪やざまぁなど絶対にあり得ないことです。

このお二人なら、予想以上に予想できない結果を出すだろうという期待を決して裏切らないと期待しております。

それは、少なからず、ユーザー予備軍に響くのではと。」


「「「「「少なくとも、我々には響きます。」」」」」

何の打ち合わせもしていないはずだが、熱弁するメンバーの声がそろった。


「あー、そうだね。うん。

君たちには響くだろうね。

さらに、実物も知ってるし。」


「そこで、です。

コホン。

お二人のテストでの対決を今後のプロモーションに生かすべく、企画案を作成したいと思う所存でございます。」


「プロモーションかぁ。

それようの動画は、もうすでに絵コンテ入ってるから、、、」


「「「「「そこを何とか!」」」」」


「まぁ、プロモーション動画が初期版だけってことにはならないと思うから、いい絵がとれたら考えるよ。

そのときに、企画案出してみてよ。」


「「「「「はい。

必ず動画見せてくださいね。」」」」」


皆、ガッツポーズをしたり、思わずヨウキを拝んだり、と、それぞれに喜びを露わにしている。


「そういえば、知ってる?

ベータ版のテストに俺もチャナとペアを組むことになってるけど。」


それぞれ喜びを露わにしていたメンバーが驚き、先ほどの騒ぎとは打って変わって静かにヨウキを囲んだ。


「ヨウキさんとチャナさんが本当に組むことになったんですか?」


「以前カフェルームでそんな話がされていたと、噂されていたんですが本当だったんですね。

ヨウキさん、ストーリー知ってますよね?

α版のテスト終わってますし。」


「そうそう、それで、プログラマーチームの人たち、そこでのバグを必死で直していたらしいよね。

そうじゃなくても、チャナさんに思いっきり不利なんじゃないですか?

ヨウキさんが遊んで終わりじゃないですか?」


ココアとタクトの対決の話とはまったく真逆な反応に、ヨウキは思わず苦笑してしまった。

「そう?そんなイメージ?

俺とチャナの対決って。」


「いや、でも、β版にはα版には入れなかった、一発逆転の裏技入れるって話だから、万が一があるかも?」


「ヨウキさんに内緒でって話してるのを、以前にカフェルームで話しているのを聞きましたけど。

ヨウキさん知ってましたか?」

悪びれもなくヨウキには内緒のはずのことをヨウキに聞いているメンバーに、ヨウキは笑顔を返した。


「あぁ、他の部署の人からもそれ聞いたよ。」

カフェルームなんて人の多いところで話したことが俺の耳に入らないと思っているところが甘いよね。」


「「「「「「そうですよね。」」」」」

ヨウキを囲んでいるメンバー全員が、全くその通りだと言わんばかりに頷いた。


「5Fにあるカフェルームを利用できるメンバーが限定されていると言っても、ハード設計、プログラマー、企画担当者もろもろ、4階から6階のオフィスを利用できるメンバーが全員使用できるのに。」

発言者に同意して、また、全員が全くその通りだと頷いた。


「それにみんな、ヨウキさんには何らかの形で関わって、さらにお世話になっていますから。

それは、耳に入りますよねぇ。」

銀縁メガネの女性が、メガネの角度を調整しながら困ったもんだとでも言いたげに目を伏せた。


「俺も助けてもらうことが多いから、その辺は、まぁ、お互い様だよ。

だけど有難いことに、俺に不利そうなことは率先して教えてくれる人が多いから助かるよ。」

ヨウキの明るい笑顔にメンバー全員がほのぼのとした気持ちになっている。


「ところでヨウキさん。

β版のテスト項目作ったり、テスト結果管理したりでただでさえ忙しいのに。

β版のテスト本当にするんですね。」


「ああ、今回はその手の仕事を手伝ってもらう人員確保してるから大丈夫。

ちょっと前に、手ごたえのない相手と対戦してつまらなかったから。

実はこのゲームでの対戦は、ちょっと楽しみにしているんだ。」


「そうなんですね。

でも、裏技があっても、殆ど100%ヨウキさんの勝ちが見えているような気がしますけど。」


「私もそう思います。

チャナさん、ヨウキさんに構ってほしくて必死なんでしょうか?」

絶対にそんなことはないだろうという雰囲気を醸し出しながら、冗談半分に笑いながらメンバーの一人が口にした。


「まぁ、チャナはそういうところ案外可愛いよね。」

顎に手を置いて頷くヨウキから飛び出した発言にメンバー全員がくぎ付けになる。

ヨウキは胸ポケットから携帯を取り出すと、「次のスケジュールがあるから」と、片手をあげてその場を立ち去った。


「可愛いよねって、ヨウキさんがチャナさんを。」

立ち去るヨウキの後ろ姿を見ながらメンバーの一人がぽつんと漏らす。


「でも、ヨウキさんって誰にでもそんな感じだし、意味なんかないだろ。

多分。」


「「「「「うーん?」」」」」


「まぁ、俺はココアさんとタクトさんの対決動画さえ見れたら。」


「「「「「それは俺(私)もそう。」」」」」


「ヨウキさんとチャナさんの対決は?」


「「「「「うーん?」」」」」


ヨウキが去るのを見送るメンバーがエレベーター前で悩んでる頃、プログラマー専用のオフィスでは補助キャラクターのお披露目を行っていた。


「私はパートナーにするならこのヒヨコがお勧めかな。

可愛いでしょ?」

ニコが自信満々でスケッチブックをめくっている。


そこでは、プログラマー専用オフィスの奥の席に居たCG関係のプログラム担当者とCG設計担当者を交えて、ニコのデザインした補助キャラクターの話を詰めている。


「このデザイン画から3DCGをおこすのに何か問題ありそうかな?」

マシロが担当者の方を見ると、問題ないと回答がかえってきた。


「補助キャラクターの種類は30種類か。

全部ゲーム内に普通にいる生物だから、よく注意しないと相手の補助キャラかどうかはわからない感じだな。」

タクトもデザイン画を上から覗き込んで補助キャラクターの種類を一緒に確認している。


ニコの隣で一緒にスケッチブックを捲っていたココアは、ページを捲るたびにため息をついている。

「ニコ、全部可愛い。

補助パートナー選ぶだけで1日かかりそうよ。」


「ゲーム内で自分の補助や、攻略対象の様子を見に行かせたり、対決相手のプレイヤーへのスパイもしてくれるキャラだから、出来れば対決相手にばれない方がいいよな。」

タクトの言葉にココアの目が光った。


「ふふふふ、こんなかわいいキャラを虐げることはしないわ。

堂々とスパイ行為でもなんでもさせにいらっしゃい。」


「・・・じゃぁ、そういうことで。」

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