070_最終話(仮)の話
「(仮)を取って正式名称にする、と言うのが当初の予定だったのですが。
それだけではなくて、タイトル自身をどうするか、が課題です。」
U字型に並べられた机に座ってスクリーンを見つめる面々は、それぞれの様相で考え込み始めた。
が、スクリーンの文字を見ながらシキは首をひねった。
「このタイトルのままだと何が問題なんだ?」
シキの疑問に、顔を上げた向かいの席に座るハード担当者が説明を始めた。
「そうですね、このタイトルだと、今後困りますね。
複数人プレイヤーに対応したなら、それはもうデュエル(差しの勝負)とは言えなくなりますから。」
「ああ、なるほど、そう言えばそうだな。
俺が変な対応入れたせいで、変えざるをえなくなったのか、ごめん。」
シキの項垂れに、説明を行った担当者が慌てた。
「そ、そんな、謝る必要はないです、シキさん!
こんな困りごとなら、全然問題ないです。」
「そうか?それならいいんだけど。」
ホッとするシキを見ながら胸を抑えるハード担当者だが、ヨウキとアオバの視線に冷や汗を流した。
「初回のリリースとなる今回の公開情報としては、二人対戦なので、”デュエル”と言うのは問題ない、とはいえ。」
システム担当者の男性二人が、ミーティングルームに流れる微妙な雰囲気を無視して話を続けた。
「そう、とはいえ、だ。
(仮)付きとはいえ、今から全く異なるタイトルにするのはどうかと思う。
聞く限り次のアップ予定では、複数人プレイヤーと言っても、対戦自体は二人だから、デュエルと言えないこともなくはないよな。」
「そうだけど、いずれは複数人プレイヤーでの対戦に変わるのであれば、どちらでも使用できるタイトルが望ましいのでは?」
「「というのであれば、デュエルではなくて、バトル表現の方がよいのでは?」」
システム担当者たちの声がそろったところで、アオバが補足を入れた。
「プレイヤー一人からできるゲームですよね?
そういう意味では、デュエルにしようと思えばできる訳ですし、デュエル&バトルとか、両方入れたりはだめなんですか?」
「「おおおおお、そういうのもありか!?」」
「まぁ、無きにしも非ずだとは思うけど、最初はサブタイトルとかに何かのワードを入れて匂わすのもありだろう。」
と、ヨウキ。
皆タイトルを真剣に考える中、シキがヨウキの「ワード」という言葉に、今回唯一気に入らないことを思い出し呟いた。
「ワードと言えば、裏ワザワード、変えるか、削除しちゃだめか?」
シキからの話題転換はいつものことで、動じず、すぐに切り替えたアオバは、まるで決定事項のように口にした。
「裏技に関しては、テストもしにくいみたいですし、好感度の逆転はやはり影響度が大き過ぎたようですね。
攻略者をプレイヤーが行うのであれば、この裏ワザも意味がないので、削除しときましょう。」
「裏技ね、どうする、マシロ?」
頬づえを付いたヨウキがスクリーンを見たまま、スクリーンから一番離れた席に座るマシロに確認を入れた。
「そうね。
バグも出ていて、チェックのためのテストケースも作りにくい状況よね。
スケジュールに問題が無ければ、ワードを変更してマスクするのでどう?」
マシロの提案にシキとアオバはもちろん頷いた。
「じゃ、正式名称については、、、、」
ーーーーーーー
結局、正式タイトルの結論は出ずに、ミーティングは一旦終了し、後日改めて行うことになった。
翌日、オフィスの5階にあるセルフサービスのカフェルームで、立ち席専用の直径1Mほどの白い丸テーブルを囲んでいる面々がいた。
「ココアさん、ニコさん、ゲーム中は有難うございました。
アドバイスどころか、現地サポートをしていただけてとっても心強かったです!
お陰さまで無事ハッピーエンドで終われました。」
チャナが同じテーブルを囲んでいるココアとニコに深々と頭を下げた。
「「私たちも楽しかったわ。」」
チャナのが下げた頭のつむじを見ながら答えるココアとニコ。
「ところで
できれば、で、お願いしていた動画の公開阻止の件です。
が、何とかなりそうですか?」
チャナが頭を上げながら、ゲームの前に二人にお願いしていたことを聞いてみた。
ココアとニコが顔を見合わせ、次にトウリの顔を見ると、トウリが困っていた。
「んー、なんだかもうすでに、非公開扱いになってるみたい。
ヨウキさんがログアウト後にすぐ、シキたちにそう言ったとか。」
「えっ!そうなんですか!」
チャナは喜び半分複雑半分といった顔をしている。
「さっき、私たちもトウリに聞いたんだけど。
せっかく色々と考えていたのに、やることなくなっちゃったのよね。」
「うん、つまらない。」
ココアとニコはチャナの動画を公開阻止するために画策していたことが水の泡になり残念がっている。
そんなココアとニコには申し訳ないが、内心ほっとしているトウリ。
「うん、でも、ゲーム内は楽しんだんでしょ?
補助キャラはどうだったの、ニコ?」
「トウリちゃんが言ってたように、補助キャラの性格が少しずつ変わってて、、、」
ニコの話に耳を傾けていたココアは自分に近づいてくる足音に気がついた。
タッタッタッタッ
「あら、マシロが走ってるなんて珍しいじゃなっ」
ココアが言い終わらないうちに、マシロがココアに飛びついてきた。
「やってくれたじゃない、ココア。
仕返しのつもり?」
その言葉とは裏腹に、満面の笑みでココアに顔を寄せるマシロ。
「それはお互い様でしょう?
やりたいことは分かってたから、事後承諾でも別にいいでしょう?」
どや顔でマシロに言い返したココアは、マシロの後ろから近づく男性の顔に目を移した。
「ところで、マシロの後ろから私を突き刺すように睨む彼氏に何とか言ってくれないかしら?」
「え?」
マシロが後ろを振り向くと、カフェルームの入り口から近づいてくるタクトと目が合ったがいつものやわらかい表情だ。
それをマシロに向けた笑顔に変えるのは、いつもの素のタクトだ。
そしてその後ろから、シキ、アオバ、ヨウキが続いて入ってきている。
4人はセルフサービスのコーヒーサーバーに向かうと、各々の飲み物を片手に、女性4人が囲むテーブルの隣のテーブルを囲んだ。
マシロはココアの首の後ろに回した手を回すと、自身もココアの後ろに回り込んだ。
「ココア、昨日トウリに聞いたときすごく驚いたのよ。
それで、休憩中のタクトにシキを呼び出してもらって、大変だったんだから。
抜け駆けだし、先走りすぎよ。」
マシロはココアを腕に力を入れて落とすように首を挟み込みはじめた。
「ちょっと、私の方がダメージうけてるのに、なんでそんな目で見るのよ、タクト。」
「え?」
マシロがタクトの方を見るとやはりいつもの素の笑顔だ。
「シキさん、マシロさんが見てる時と見てないときとで目つきに雲泥の差があるタクトさんをどう思いますか?」
マシロ以外からは、一目瞭然に見えるタクトの変化にアオバは呆れながらシキ聞いたのだが、シキはその質問に質問を返した。
「何がって、別に何も?」
アオバが何を聞きたいのか理解していないシキは入れたてのコーヒーを一口飲んだ。
「タクトさん、最近、キャラ変とか言われているみたいですよ?」
「そうなのか?
タクトが誰にどんな風でも、俺に対しては何も変わらないから、よくわからない。」
首をひねって、ココアと冷戦するタクトを見上げるシキ。
「何も変わらないといえば、そうですね。」
アオバがタクト見上げると、マシロににこやかに手を振っていた。
「俺たちには無害だから関係ないですね。」
アオバは手に持つカップにさしているストローに口をつけた。
二人のやりとりをおかんな目でだまって見ているヨウキの様子に気がついたチャナが、マシロとココアに割って入った。
「あれ見てください、やっぱりヨウキさん二人を特別視してますよね。」
マシロから解放されたココアがニヤッと笑った。
「チャナ、鋭いじゃない、あれはただのおかんではないわよね。」
おかんではなく、ブラコンよね、とは言わないココア。
「ココア、チャナ、あれ、チャナのグラスチームの二人じゃない?」
「チャナ見つけた!何油売ってんの!」
「企画の練り直しまだ済んでないから、早くこいよ!」
それに気がついたヨウキがチャナに声をかける。
「ほら、呼ばれてるぞ、仕事頑張るんだろ?」
「分かってます!
次こそ、通る企画をみんなで作って見せますから!」
チャナは迎えに来た二人の肩をたたくと、二人より先にカフェルームの出口に向かった。
「チャナ!また、ヨウキさんに生意気な口きいて。
すみません、すみません。」
チャナを迎えに来たグラスチームの二人は、ヨウキにしきりに頭を下げながらチャナを追いかけた。
「あのチームも独特よね、私たちにないものばかり持ってるから、先が楽しみ。」
「先輩としては負けられないわよね。」
「そういう目を、おかんの目っていうんじゃないのか?」
チャナを見送るマシロとココアに、隣のテーブルから移動してきたヨウキが突っ込みを入れた。
ヨウキの後から、タクトとシキも移動してきて同じテーブルを囲む。
「マシロさん、プロジェクトの進み具合はどう?」
「それがね、ちょっと迷っていて、うん、タクトにも考えてもらおう。」
「トウリは何見てるんだ?」
「これ、ニコのスケッチブック、補助キャラがね。」
立ち席専用の直径1Mほどの白い丸テーブルは、8人の男女で囲まれた。
何度プロジェクトを担当してもまだまだ未熟だと笑うマシロ。
マシロの肩を抱きながら、ココアに皆を振り回しすぎだとダメ出しするタクト。
ニコと一緒にゲームできたし、十分テストになったでしょう?と笑うココア。
スケッチブックを胸の高さのテーブルに広げて、隣のトウリに説明をしているニコ。
ニコにキャラの性格の説明を受けながら、頷いて笑うトウリ。
トウリの横でニコのスケッチブックを覗き込むシキ。
シキの隣から隣のテーブルでジュースを飲むアオバを呼ぶヨウキ。
自分を呼ぶ声をスルーするアオバ。
(仮)のつく仮称タイトルは、近日のプレスリリースに正式タイトルが発表される。
・・・予定。
終わり
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ここまで読んでいただいた皆様、本当に有難うございます。
誤字脱字や名前の間違いなど修正後、一旦完了にしようと思います。




