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069_複数人モードの話

「まだ来ていない担当者もいますが、遅れてくるという報告をもらっています。

その報告とは別に若干遅れてきたメンバーがいましたので遅くなりましたがミーティングを始めます。」

マシロはヨウキとアオバの方をちらっと見て、前面に映し出したスクリーンに視線を戻した。


白いスクリーンには、リリースタイトルである「デュエル・コンテンツ(仮)」の文字が表示されている。


U字型に配列されたテーブルの前方端にヨウキが、一つ席を空けて、アオバ、トウリ、その他開発に携わったメンバー。

反対側の端に、システム担当者、ハード担当者等々が座っている。


「現在、既存ハードのアップグレード製品と、それに対応するゲームの仮タイトル仮リリース予定の年、時期が公開されている状態です。

今度、広報から出すプレスリリース内容については、正式名称を報告してもらう予定です。」

そこまで言うと、マシロは大きく息を吸って、吐き出した。


「このミーティングでは、いまスクリーンに表示しているゲーム名の正式名称の決定を行うことが目的でした。」


「「「「目的、でした?」」」」

開発メンバーの反対側に座っている、システム担当、ハード担当者が声を揃えた。


「ココア、にして、こほん。

急ですが本日はプログラムの新たな可能性があることがわかり、名称決定の前にその説明をさせてもらいます。」

ココアにしてやられましたので、と言いそうになり、咳でごまかしたマシロ。


「「「「ココアさんに?」」」」

ココアの名前に、嬉々ととしたり何をやらかしたんだと眉をしかめたりと、ミーティングルームが一瞬ざわついた。


「プログラムの新たな可能性というのは、現在の二人対戦までの制限がなくなり、今後、複数対戦になる、というものです。」


「え、そんなこと聞いてないけど、あれ?出来ないって言ってなかったっけ?」

「ということは、直近でハードの方のプログラムの変更があるってこと?」

始めて聞くことに、疑問の声をあげながら担当者たちはマシロに注目した。


「一人モードから始まったゲームシステムですが、今回の”デュエル・コンテンツ(仮)”では、そこからプレイヤーを一人増やして二人モードで行うことで進めてきました。

それは、当初、二人モードなら対応可能という見解があったからです。」

マシロは、疑問の声をあげた担当者たちを見ながらゆっくりと説明を始めた。


「ですが、本日、現時点でプレイヤーが複数人でも可能という結果が出ています。

実は私も、本日初めて知りました。

そうですよね、ヨウキさん。」

マシロは、スクリーンに一番近い席に座っているヨウキに言葉を投げた。


「ああ、AIキャラクター担当者から最近そう言った要望があり、シキがそれを可能と判断した。

実際にもうプログラムに組み込まれていて、俺も(身をもって)確認した。」

複数人モードを前提にした確認ではなかったが、成り行きでも確認したことには間違いない。


ハード担当設計者が手を上げて質問をする。

「ほんとにいきなりだな。

これ、複数人となると、通信部分やローカルのメモリ・ハード容量的には問題ないのか?

バージョンアップ時にハードも変更を?」


そこにマシロがスクリーンのページを次に移動させて答えた。

「現在のところ、ローカルハードの容量を超えるという結果は出ていません。

本当に、ついさっき、シキを捕まえて確認したところですが。

どちらにしろ、ハードは常に最新の技術を考慮して、改良を検討していく予定です。」


「なるほど、今あるデータは、初回リリースのためのテストデータの総計に、本日の結果を加えたものか。

バージョンアップ時はテストデータによって検討と。

とりあえず、了解。」

少し沈んだ声で了解と答えるハード設計担当者。


「まあ、今朝、新しいハード見せてもらったばかりだけど、基盤の予算とかはちょっと考えるから。」

ヨウキが苦笑いしながら答えると、沈んでいたハード担当者が一変した。


「「ええ、大丈夫です!

任せてください、出来るだけ早く増加予算を算出しますから!」」


「ははは、ああ、お手柔らかに。」

身をもって体験したヨウキとしては、結局は結果に脱帽しているので反対する意思はなかった。

初版リリースは確定しているため、その先の見解を今考えられるのはどちらかと言えば行幸だろう。


「今現在も複数人でプレイテスト中なので、情報が出てきしだい更新します。」

そう、肝心の全体のテストデータは、勝ちプレイヤーのチャナ、攻略対象者をアバターとしているココア、ニコがいまだにログアウトしていないため、まったく情報が取れていない。


それでもマシロがこのミーティングの最初に説明を入れたのは、当初から複数人モードを行いたいという希望があったからだ。

説明にも熱が入る。

「次のリリースで考えているのは、基本対戦プレイヤーが2名、そこに攻略対象者、またはモブをアバターとしてゲーム内を楽しめるプレイヤーを追加することです。

そこから先はまだ未定ですが、基本対戦プレイヤーが2名と対戦できる攻略対象者プレイヤー、補助キャラ並みの能力を持つモブキャラプレイヤー、という位置づけでの複数プレイヤーの追加を検討する予定です。」


平然と説明しているマシロだが、複数人のプレイヤーという内容をシキとトウリから知らされたのは、本日ハードのミーティングを行った後、ヨウキが当該ゲームに再ログイン中のことだった。

そのため、当初の企画に入れたかった内容を、急いで掘り返して資料に差し込んだのだ。


「現段階で対応できていることをアオバから説明してもらってもいい?」

マシロがアオバに説明を求めると、アオバはミーティングルームの入り口に目をやった。

「いいですけど、シキさんがいなくても大丈夫ですか?」

マシロも入り口の方を見たが、誰も来ている気配はない。

「もう来ると思うんだけど。

さっき、タクトのテストルームで私と話したときに、後から来るって言ってたから。」


「わかりました、じゃ、とりあえず俺から。

複数人プレイの場合、対戦プレイヤーは専用ステージから始めるというのは現在の仕様と同じです。

他のプレイヤーは、現時点では攻略対象者のみアバターとして選択することができるようになっています。

攻略対象者をアバターとしたプレイヤーに関しては、システムからの連絡表示は無く、ログイン、ログアウトの権限があるだけです。

また、コントロールはシステムではなくプレイヤー側に全て与えられますが、対戦に参加することはできません。」


「この先のバージョンアップで先ほど言った内容への対応を行うために、現在、行っておかなければいけない変更はある?」

マシロの質問にアオバが少し考え込んだタイミングで、ミーティングルームのドアが開き、シキが入ってきた。


「シキさん、ちょうどよかった、こちらに座ってください。」

席を立って自分とヨウキの間の席にシキを座らせたアオバはシキに今までの内容を説明した。


「そうだな、変更点はプログラム的には、各キャラクターの設定要素と設定値の持ち方だな。

現在の対戦用プレイヤーと同等の値を持たせたるとしても、攻略者と攻略対象者では勝敗の要素が変わってくる。

それに関係して、プレイヤーがログアウトした場合に、AIコントロールに切り替わる時の要素を、対戦者のコントロールと同じにするかどうかなどの仕様とその期待値を持たせるための器を追加しておく必要があるかな。」

続けてアオバが補足を入れた。

「検討ができる範囲ですので、今テスターが行っているプログラムバージョンへの追加となりますね。」


「今テスターが行っているプログラムバーションへの追加って?

βの1.2が二人対戦で、そこに新しく追加じゃないのか?」

システム担当者から疑問の声が上がった。


バージョンの確認がはいると、マシロとヨウキが同時に頷いた。

「さっき俺が言ったように、実際に組み込まれているのが今テストしているβ1.2だ。」


「リリースに向けての準備中で忙しい時期にいつの間にそんな先の仕様まで、まったくすごいです。

プログラム構成も大変だったのでは?」

ハード設計担当者が、探るような声で質問を投げてきた。


向かいの席に座るシステム・ハード担当者たちの視線を感じたシキは、下を向いたまま答えた。

「最初は二人以上の解析は難しいと思ったんだが。

β版初期テスト中の同性間での好感度のアップダウンのバグ修正中に、難しくない可能性に気づいて。

その後で、できるかと聞かれたから、できるかできないかだと、ある程度の制限を設ければ、できるようだったし?

ごめん、だめだったのか?」


「「ああ、いえ、うん?」」

思っていたことと違う回答に、微妙なトーンで揃う面々の返事。


「コホン、なので、すでにβ1.2に入っている。

実は俺も、先ほどまで複数人プレイヤー状態でプレイしていて、イベント終了後に俺だけログアウトして、今に至ったところだ。」

ヨウキが再度”β1.2に入っている”ことを繰り返した。


「「おおおおー!」」

「ということは、現時点での我々のハードにも対応しているということで!」

「初回リリースでの急な設計変更は無いということですよね!」

質問を投げかけていた面々は先ほどからの神妙な態度を崩し、いきなりテンションを上げ始めた。

急な仕様変更、設計変更をかなり警戒していたようだ。


「対戦プレイヤーが増えることを前提とした作りにすることの報告は、現時点では以上です。

それでは、本題、名称について話しましょう。」

ーーーーーー

次回最終話

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