063_野外パーティ会場の話
「野外パーティって、今日の夜よね。」
「そうね、楽しみだわ。」
階段つき落としイベントで負け越してしまったチャナは、一人で校舎の玄関まで引き返していたが、そこで楽しげに話す女子生徒とすれ違った。
「そう言えば、中庭にいたときに野外パーティがあるって、話してたかな。
どこでやるのかな。」
肩を落とすチャナの後ろから鳥の羽ばたきが聞こえてきた。
「イタイタ、ミツケタ」
「コンナトコロニイタ」
「オイテイッタナ、キヲツケロヨー」
「ヒトリデツッパシルトキケンダゾ」
「ソウソウ」
5羽は、玄関前の廊下の隅で座り込んでいたチャナの足元に降りてきて、足でステップを踏みながら頭や羽を摺り付けてきた。
「ははは、ごめーん。」
落ち込んでいたチャナは、自分を覗き込むオウムたちの陽気な姿にいっきに癒され、そこに、補助キャラたちを追いかけていたルイスとジョエルが加わった。
「チャナさん、こんなところで座り込んで何かあったの?
デイジー様たちはどうしたの?」
「デイジー様たちは、教務室に入っていっちゃって、私は入れないから、それから、、」
自分を心配してくれるルイスに少しほっとしたチャナは、眉を下げながらも笑顔で答えようとしたのだが、だんだんと涙目になってきた。
「えっと、その前に、階段から落ちちゃって、自分で足を滑らせて、それで、」
涙がこぼれだしたチャナの頭をルイスとジョエルが優しくなでると、チャナはもう涙が止められなくなった。
「それで、いつもは優しいヨウキさんが、何にも言わずにデイジー様と一緒に行っちゃって、他の男子生徒からは冷たくあしらわれるし、、」
ルイスとジョエルは顔を見合わせて、両方から涙を流すチャナを抱きしめた。
「そう、過酷なのよ、この世界は。」
とジョエル。
「ヨウキ様どうしたのかしら。
ログアウト前と違って、態度がはっきりしていて、いろいろ割り切ってやってる感じがするのよね。
それも、この世界に相応しくというか。」
とルイス。
ヒック、ヒックと自分の嗚咽が邪魔してチャナには二人の会話が聞き取れていない。
「チャナさん、野外パーティは一番奥の3年生の校舎棟から、ちょっと離れた場所で行うの。
歩くと遠いから馬車で行くんだけど、もしよかったら一緒に行きませんか?」
泣いているチャナにも聞こえるように、ルイスが耳の側で話すと、チャナはピタッと泣きやんだ。
「行きます!ルイス様、ジョエル様、どこでやるのか分からなかったから、渡りに船とはこのことです!
是非一緒に行かせてください!」
「心配しなくても生徒会メンバーは全員参加するわ。
だから、デイジー様のパートナーであるヨウキ様も一緒にこられると思うわ。」
ルイスの言葉は、まるでチャナが誰に来て欲しいか知っているように聞こえるが、それを気にする余裕はチャナにはない。
「わかりました。
こうなったら、断罪イベントでもなんでもどんとこいです。
絶対裏ワザ使って勝って見せます!」
「かわいくて、頼もしいです、チャナさん。」
とジョエル。
「カワイイ」
「タノモシイ」
「ははは、ありがとうございます。
ジョエル様、と、ひとみ、ふたみも。」
「じゃあ、早速行きましょう。」
とチャナの腕を引くルイス。
「サッソク、イキマショウ」
「イッショニイキマショウ」
「はい、勿論です。
よつみ、いつみもありがとう。」
「ソウソウ」
「もちろん、みみもありがとう。」
補助キャラのオウムたちは1つのカードのコピーなので見た目を区別することはできないが、いつもは頭上にいる彼らの背中が見える今は、チャナにも名前を呼ぶことができた。
馬車で移動すること10分、馬車を降りたルイスが警備の男性に軽く挨拶をすると、すんなりと会場への道を案内してくれた。
会場までの通路は背の高い赤い花の咲く生垣に挟まれ、まるで迷路のように入り組んでいたが、案内のおかげで迷わず進むことができた。
最終通路の突き当りにある3mくらいの幅と高さに奥行きがあるツル薔薇のアーチが会場への入り口になっているため、薔薇のアーチを抜けると野外パーティー会場が広がっていた。
薔薇のアーチの会場側の入り口付近には、会場に点在する丸い花壇と同じ高さと広さのちょっとした丸いステージがあり、会場の中央には三人くらいが手を繋げばやっと届くくらいの幹の太い杉のような木が見える。
広い会場内はヨーロッパ風の庭園が広がり、すでに30人ほどの生徒たちが集まっていて、思い思いにテーブルを囲み談笑をしていた。
直径1mくらいの丸い花壇が所々に離れておかれていて、その間に花壇より少し広めの丸テーブルが10個ほど、パステルカラーの色とりどりのクロスが敷かれて設置され、その上には、アフタヌーンティーを思わせる可愛らしいお菓子や軽食が並べられている。
「暗くなってきたから、明かりが点灯されてきたわね。」
周辺にある背の高い灯篭からの白い発光で庭園が照らされ、発光が届かない庭園外には、色とりどりの光でイルミネーションが飾られ幻想的な雰囲気を醸し出している。
「すごい、奇麗ですね、花壇も可愛いし、テーブルも花壇の色に合わせたピンクや水色、若草色に黄色のパステルカラー。
これで、押しキャラとかのポップが飾られていたら、何かのコラボカフェって感じですよね。」
チャナは今までの会話の不自然さに全く気がついていないにもかかわらず、リアルを混ぜた会話を自然としている。
「ふふふ、何でも自然に受け入れてくれて、真っ直ぐなチャナさんらしい言葉よね。
とても感心するわ。」
パーティ会場に見惚れて、ウロウロしているチャナを他所に、庭園や庭園外の夜景になる前の景色を楽しんでいるルイスが、色々とこぼし始めた。
「そう、前回は1日で終わらせちゃったから、この野外パーティも開催されなかったのよね。
断罪イベントに利用できる観衆が集まるパーティが、結構頻繁に行われる設定なのに。
ハーレムエンドに持って行こうとして色々画策しすぎたわ。
ん?」
考え込んでいるルイスの腕の袖を、水色の瞳のジョエルが小さく引っ張っていた。
「イルミネーションの近くに野良の金魚やシーラカンスがいるから、ちょっと行ってくるね。」
ルイスと目が合ったことを確認したジョエルは満面の笑みを浮かべると、浮かれた足取りで庭園の外に駆け出した。
そんなジョエルの背を見ながら、ルイスはさらにこぼしている。
「そういえば、ジョエル様のカードは誰も手に入れなかったから、壊れていて、それってハーレムエンドは消えてるってことよね。
今の好感度を逆転させたとして、やっぱりデイジー様とのエンドになるのかしら?
スカーレット様もなかなか好感度が高そうだけど。」
会場をうろついているチャナを遠めに、ルイスはどちらだろうと考え込んだ。
チャナが会場をうろついていると、近くのテーブルに座っていた二人の令嬢がわざとチャナに聞こえる声で会話をし出した。
「あら、おひとりでウロウロされている方がいらっしゃるわ。」
「あらあら、礼儀知らずな方だから、デイジー様たちにも愛想をつかされてしまったのかしら。」
それに気がついて怒ったのは、チャナの頭上の補助キャラのオウムたちだった。
「コイツラダ」
「エンザイカブセヨウトシタ」
その声に二人の令嬢がオウムたちを睨み返し、火花を散らせた。
「うわー、補助キャラVSモブキャラ令嬢の図だ。」
他人事のように解説するチャナに令嬢たちと、補助キャラのオウムたちまでも呆れた目を向けた。
「本当に礼儀知らずな方だわ。」
「あら、会場の出入り口に警備の人が集まり出したわ。」
周りのテーブルに座っていた生徒たちもそれに気づいたようで、テーブルを立つと入り口近くのステージ付近に集まり出していた。
「「きっと、デイジー様たちがいらっしゃったんだわ、私たちもいかなくちゃ。」」
チャナとオウムを敵視していた令嬢たちもそれどころではなくなり、手を上げて近くのウェイターを呼んで椅子をひかせると、淑女らしく席を立ち移動を始めた。
その姿を目にしたチャナは、再びながら気づかされた。
「そうだった、礼儀知らずって言われて当たり前だった。
設定ありきのことなのに、これじゃこの世界の設定無視している私が不具合そのもの!」
「1人か全部か、それしか選択肢が無いのも考えものよね。
全員ハーレムがだめでも、二人、三人攻略でもいいんじゃない?」
ルイスが眼鏡の奥の瞳をギラつかせていると、チャナが慌てて戻ってきた。
「ルイスさん、デイジー様たちが来たようです。
みんな席を立って、入り口付近の小さなステージの方に集まり出しました。」
「あら、本当だわ、もう結構暗くなってきてたのね。
私はジョエル様が庭園外に遊びに行っているから呼んでくるわね。
チャナさんは先にステージの方に行ってもらってもいいかしら?」
チャナの頭上ではオウムたちがバタバタとわざと大きな音がするくらいに羽に力を込めて羽ばたかせている。
「オウエンスルゾ」
「モウスグサイゴノイベント」
「ギャクテンショウリダ」
「イケイケオセオセ」
「ソウソウ」
補助キャラのオウムたちに応援されたチャナはしっかりと頷いた。
「わかりました。
行ってきます。」